「クラウドに比べてコストを大きく抑えられる」とFastmailがオンプレミスで独自のハードウェアを使用する理由を語る
AWSなどのクラウドサービスの発展によって、社内サーバーではなくクラウドを活用してサービスを提供する事例が増加しました。しかし、社内サーバーを用いたオンプレミス型のサービスにも多数のメリットが存在しており、状況によってはオンプレミスの方がコストを削減できることもあります。メールサービスの「Fastmail」は自社サーバーを採用し続けることでコストを抑えられているとのことで、設立者兼CTOのロブ・ミューラー氏がオンプレミスを採用し続ける理由について解説しています。
Dec 22: Why we use our own hardware at Fastmail | Fastmail
https://www.fastmail.com/blog/why-we-use-our-own-hardware/
クラウドサービスの多くは「サービスの規模に合わせてサーバーの規模を変動させられる動的スケーリング機能」をアピールしています。しかし、Fastmailは短期・中期・長期の「使用パターン」「要件」「成長」を正確に把握できており、ハードウェアの購入を事前に適切に計画できるとのこと。スケーリング機能を必要としないため、クラウドサービスを契約する必要がありません。
また、Fastmailは社内サーバーを25年も運用し続けており、ハードウェアやネットワークに関する膨大な運用経験を持っています。さらに、Fastmailでは同一ハードウェアを5~10年にわたって使い続けられるため、ハードウェアのコストも低く抑えられるそうです。
Fastmailは最近までHDDをAreca製のRAIDコントローラーで冗長化して使っていたとのこと。しかし、数年前にHDDからNVMe SSDへの移行を決断。さらに、バックアップ用のシステムとして「クラウドサービスに移行する」「既存のシステムのHDDを交換する」「既存のシステムをNVMe SSDに移行する」のいずれかを選択することになりました。
2024年12月時点の各種クラウドサービスの料金をまとめた表が以下。サービスによっては安価なものもありますが、Fastmailは「クラウド向けにシステムを再構築する必要がある」「保存するデータの容量によって価格が変わってしまう」といった点を嫌ってクラウドサービスへの移行は断念しました。
サービス | 1TB当たりの月額料金 | 1PB当たりの年額料金 |
---|---|---|
Amazon S3 | 21ドル(約3300円) | 25万2000ドル(約3500万円) |
Cloudflare R2 | 15ドル(約2300円) | 18万ドル(約2800万円) |
Wasabi | 6.99ドル(約1100円) | 8万3880ドル(約1300万円) |
Backblaze B2 | 6ドル(約940円) | 7万2000ドル(約1100万円) |
Amazon S3 Glacier Instant Retrieval | 4ドル(約630円) | 4万8000ドル(約750万円) |
Amazon S3 Glacier Deep Archive (12 hour retrieval time) | 0.99ドル(約160円) | 1万1880ドル(約190万円) |
また、HDDは「安価に購入できるものの、大容量HDDで障害が発生した際は再構築に1週間前後かかる」「I/Oパフォーマンスに不安がある」といった理由から選択されず、最終的に61TBのNVMe SSDを24台搭載した2Uサーバーを購入したとのこと。サーバーの価格は約19万ドル(約3000万円)で、定期的な支払いを続ける必要があるクラウドサービスと比べると非常に低いコストでシステムを構築することができました。なお、場所代や電気代、冷却費用などは年間3000ドル(約47万円)程度に収まるとのこと。
ミューラー氏は「独自のハードウェアを実行することは全員にとっての最適解ではなく、明確なトレードオフが存在します。しかし、サーバーのスケーリングを正しく予測できればコストを大幅に削減できます」と結論付けています。
・関連記事
公開から2年で550万ユーザー規模へと成長したBlueskyはどのようにして構築されてきたのか? - GIGAZINE
Google Cloudからオンプレや他のクラウドへ移行する際の転送料金が無料に、クラウド市場における顧客の選択と競争の障壁を取り除く一歩へ - GIGAZINE
停電時のサーバー保守をサポートしてくれるヘッドライト「WOWTAC A2S」で真っ暗なサーバールームを照らしてみた - GIGAZINE
遠隔操作可能でスタイリッシュに進化したUPS「APC GS Pro 500」を実際に使ってみた - GIGAZINE
GIGAZINEサーバで使っている無停電電源装置「APC Smart-UPS 750」のバッテリーを交換してみた - GIGAZINE
もしもの災害や停電に備えて「発電機」を実際に購入・維持してみてわかった注意点まとめ - GIGAZINE
・関連コンテンツ