先進国の女性が産む子どもの数が減っている理由は何なのか?
欧米諸国やアジアの先進国では、新たに生まれる子どもの数が少ないことが社会問題となっています。特に日本は、合計特殊出生率が2022年に「1.26」を記録するなど、韓国やイタリアと並んで世界で最も出生率が低い国のひとつです。一体なぜ先進国は出生率が低いのかについて、オーストラリアのメルボルン大学で社会学教授を務めるリア・ルッパンナー氏が解説しています。
Women in rich countries are having fewer kids, or none at all. What’s going on?
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まず、現在の人口を維持するためには合計特殊出生率が「2.1」以上、つまり女性1人が産む子どもの数が2.1人を超える必要があります。これは、子どもを産んだ両親の分の「2人」に加えて、乳児死亡率を考慮して少し余分に子どもを産まなくてはならないためです。
もし人口を増やしたければ、2人以上の子どもを産む女性の数が増えればいいということになります。実際、第二次世界大戦後にはオーストラリア・イギリス・アメリカなど多くの西側諸国でベビーブームが起こり、3人以上の子どもを持つ家庭も珍しくありませんでした。
しかし、その後は多くの先進国で合計特殊出生率が「2.1」を下回る状況が続いています。アメリカやオーストラリアでは「1.6」、イギリスでは「1.4」、韓国に至っては「0.72」という記録的な低水準を記録するなど危機的な状況です。人口が減ると社会全体が高齢化し、貧しくなり、家族による介護ができなくなるといった問題が発生します。
ルッパンナー氏は主に先進国で出生率が低下している理由について、以下の4つの理由を挙げています。
◆1:女性の教育レベルが上がっている
女性が高等教育を受ける機会は過去数十年で着実に上昇しており、オーストラリアでは男性よりも女性の方が高等な教育を受けているとのこと。オーストラリアほどではないにしろ、日本などの先進国では同様に女性の教育レベルが上昇傾向にあります。
教育レベルの上昇が出生率を減らす理由は複数あります。まず1つ目が、「女性が学校で過ごす時間が長くなるため、初産の年齢が遅くなる」というもの。そして2つ目が、「学位を取得すると市場で有利になるため、働きたい女性が結婚や出産ではなくキャリアを選ぶ可能性が高くなる」というものです。要するに、女性の教育レベルが上がって仕事のキャリアを追求するようになったため、10代~20代前半で出産する女性が減っているというわけです。
◆2:子どもを出産する年齢が遅れている
若者は「安定した仕事を持ち、自分の家を持つ」ということが子どもを持つ上で重要だと考えていますが、これらの目標を現代社会で達成するのは困難です。そのため、多くの若者が「経済面や住宅面で不安がある」として出産を遅らせる傾向にあるとのこと。さらに、安全で効果的な避妊法が普及したことで、生殖の可能性を伴わないセックスが可能になったことも、子どもを持つ年齢が遅くなっている一因だとルッパンナー氏は指摘しています。
◆3:子育てに時間と費用がかかりすぎる
多くの先進国において、子育てにかかる費用は驚くほど高額です。オーストラリアの平均的な保育料はインフレ率を超える勢いで値上がりしており、たとえ公立学校であっても教育費は親に多大な負担をかけています。
人数が増えればそれだけ費用がかかる上に、近年の子育て規範では子どもと一緒に長時間過ごすことが奨励されており、前世代よりも1人1人の子育てにじっくり時間をかけることが要求されます。仕事をしながら「正しい子育て」をするには時間や費用、そして膨大なエネルギーが必要となるため、子どもを持つハードルがどんどん上がっているとのこと。
◆4:職場や政策が子育てに適応しきれていない
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって一時的にリモートワークが増加したものの、多くの職場は再び対面での仕事に回帰しつつあります。これに子育てが加われば、労働者が燃え尽き症候群になるリスクも高まってしまいます。
出生率が低下している原因は多岐にわたるため、「赤ちゃんを産むたびに一時金を支給する」といった単純な解決策1つでどうにかなる問題ではありません。ルッパンナー氏は、「もし真剣に子育てを支援するつもりなら、若者のためのより良いキャリアと住まいへの道筋、育児と高齢者介護のインフラに対するさらなる投資、高齢化社会を支える技術革新、そして子育てを核とした職場作りが必要です。そうすることで母親、父親、子どもたち、そして家族全体を支えるケアの文化が生まれるでしょう」と述べました。
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