サイエンス

老化した脳を若返らせる血液因子が特定される、別々の研究チームがひとつの答えにたどりつき3本の論文を同時公開


若さの追求のため、これまで若者の血を輸血する研究や抗老化ホルモン「クロトー」を動物に注射する実験などが行われてきました。こうした若返りに関する数々の研究に共通する因子の特定につながる3本の論文が2023年8月16日付のNature、Nature Aging、Nature Communicationsで発表されました。

Platelet factors attenuate inflammation and rescue cognition in ageing | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06436-3

Platelet factors are induced by longevity factor klotho and enhance cognition in young and aging mice | Nature Aging
https://doi.org/10.1038/s43587-023-00468-0

Platelet-derived exerkine CXCL4/platelet factor 4 rejuvenates hippocampal neurogenesis and restores cognitive function in aged mice | Nature Communications
https://doi.org/10.1038/s41467-023-39873-9

A Secret in the Blood: How PF4 Restores Youth to Old Brains | UC San Francisco
https://www.ucsf.edu/news/2023/08/425981/secret-blood-how-pf4-restores-youth-old-brains

「若い血液、クロトー、そして運動は、どういうわけか脳に『さあ、機能を改善しよう』と発破をかけることができるのです」と語るのは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校バカール老化研究所の副所長であるソール・ヴィレダ氏です。


若いマウスの血液で老いたマウスの能力を回復させる研究をしていたヴィレダ氏らのチームは、出血した際に血液を凝固させる機能を持つ血小板第4因子(PF4)が脳の機能を回復させることを突き止めました。

しかも、ヴィレダ氏とは別のアプローチで若返りの研究に取り組んでいたふたつのチームも同様にPF4にたどりついたことから、研究者らは異なる角度からPF4に焦点を当てた3本の研究を同時に公開することを決めました。


◆若い血
2014年、ヴィレダ氏は若いマウスの血液から赤血球を除いた血漿(けっしょう)が、年老いたマウスの脳機能を回復させることを発見しました。その後も研究を続けていたヴィレダ氏らは、若い血の血漿には古い血より多くのPF4が含まれることを突き止めます。

そこで、研究チームがPF4のみを老齢のマウスに投与したところ、若いマウスの血漿を注射した時とほぼ同じ効果が発揮され、老齢のマウスが学習力や記憶力を問うテストで優秀な成績を収めました。研究チームは、PF4が老化した免疫システムを改善させ、それが脳の炎症を抑えることで認知機能を回復させているのではないかと推測しています。

ヴィレダ氏は「PF4は免疫系を若々しくさせます。この働きが老化に関連した免疫因子を減少させ、脳の炎症を抑制し、脳の柔軟性を高め、最終的に認知力を向上させるのです。私たちは、人間では70代に相当する生後22カ月のマウスを飼育していますが、PF4はマウスの能力を30代後半から40代前半まで若返らせました」と話しました。


◆クロトー
クロトーは、ギリシア神話に登場する運命の三女神のひとりであるクロートーにちなんで名付けられたホルモンです。

カリフォルニア大学のデーナ・デュバル氏は以前、「クロトー」を注射することで年老いたサルの脳が活性化したことを報告しましたが、クロトー自体は血液脳関門を突破しないため、どうして脳が若返るのかまでは判然としていませんでした。

そこで研究チームが注目したのが、血液中に含まれる因子です。クロトーを投与され認知機能が向上したマウスの血液を分析したデュバル氏らは、クロトーにより血液に含まれる血小板が活性化され、これにより血小板からPF4が放出されることを確認しました。


デュバル氏がPF4をマウスに投与する実験を行ったところ、老いたマウスと若いマウスの両方で学習力と記憶力の向上がみられたため、PF4には若い脳の認知機能の改善にも役立つ可能性が示されました。デュバル氏はまた、PF4が欠損したマウスもクロトーで認知力が向上することを確認しており、これはPF4以外にも認知機能を改善させる因子が存在している可能性を示しています。

クロトーがPF4の増加を通じて脳の機能を回復させるというメカニズムが解明されたことに加え、認知機能の改善につながる未発見の因子の存在も示唆されたことから、デュバル氏は「理想としては、生物医学の最大の問題のひとつである認知機能障害に対し、副作用は最小限で効果が最大限となる治療法を複数用意できるようにすることです」と述べました。

◆運動
運動が心身の健康にいいことはよく知られていますが、オーストラリア・クイーンズランド脳研究所のタラ・ウォーカー氏らの研究チームは新しい研究で、運動によりマウスの血液中にPF4が放出され、これが脳細胞の新生を促進させて認知力を改善させることを発見しました。


PF4は、運動により放出される情報伝達物質「エクセルカイン」の一種としても知られています。以前の研究により、運動での認知機能の改善にはエクセルカインが関与していることが判明してしていましたが、今回の研究によりPF4単体を投入することで運動に匹敵する認知機能改善効果が確認されたことから、このメカニズムには血小板由来のエクセルカインであるCXCL4、つまりPF4が関与していることが確かめられました。

この成果についてウォーカー氏は、「健康や運動能力に問題がある人、高齢者は運動することができないので、薬理学的介入は重要な研究分野です。私たちは今回、血小板を標的とした治療で神経新生を促進し、認知機能を強化させて、加齢に伴う認知機能低下に対抗できることを確かめました。これは運動の代わりにはならないことに注意が必要ですが、年齢や脳の損傷により運動ができない人の認知機能改善に役立てられる可能性があります」と話しました

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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