大人になっても新しいスキルを取得し認知能力を向上させることは可能、実現のためにはポイントがある
一般的に高齢になると脳は成長をやめ、人は新しいスキルの取得ができなくなると考えられています。しかし、新たな研究で、58~86歳の人でも、適切な学習環境に身を置き、周囲からの励ましを得られるようになれば、新しいスキルの取得は可能だと示されました。実験によって被験者の認知能力は向上し、30代半ばかそれ以下のレベルにまでなったとのことです。
Impact of Learning Multiple Real-World Skills on Cognitive Abilities and Functional Independence in Healthy Older Adults | The Journals of Gerontology: Series B | Oxford Academic
https://academic.oup.com/psychsocgerontology/advance-article/doi/10.1093/geronb/gbz084/5519313
Think You're Too Old to Learn New Tricks? - Scientific American Blog Network
https://blogs.scientificamerican.com/observations/think-youre-too-old-to-learn-new-tricks/
長い間、大人になると脳の成長が止まると考えられてきましたが、近年の研究では脳の知性をつかさどる部分は40~60歳まで成長し続けていることが示されました。大人でも新しいニューロンを成長させることは可能であると示す論文は、このほかにも複数存在します。
それでも、大人になって新しいことを始める人はまだ少数であり、ゆえに大人になってから始めたことで成果を上げた人は「特別」だとみなされがちです。例えば歴史家のNell Painter氏はプリンストン大学を退職後に絵画の分野で学士と修士を取得しました。世界最高齢のボディビルダーとして知られるErnestine Shepherd氏は50代になるまで運動を続けたことすらなかったことから注目を集め、90年間アナログ撮影を続けたIrving Olson氏は、98歳の時に突然撮影方法を変え、最新技術を用いるようになって一躍有名になりました。
ここまで極端な例でなくとも、50代になって趣味で始めた養蜂家が数年後には専門家になるなど、実際には大人になってから始めたことに熟達する例は存在します。しかし、2017年の調査では40歳以上の大人の50%が「毎週新しい情報を学ぶことはない」と報告しています。なお、ここでいう「新しい情報を学ぶ」というのは、「新しい情報をGoogle検索する」という行動も含まれるとのこと。
一般的に子どもはスポンジのように新しい情報を吸収できるといわれます。この理由には、子どもが複数のスキルを同時に学ぶこと、学習に集中していること、教師や保護者から励ましを得られることなどが関係しています。そしてもし学習リソースが少なく、人からの期待も少ない子どもが存在すれば、それは「改善すべき状況」と見なされます。
一方で、大人を取り巻く環境の多くは、この「改善すべき状況」にあたります。高齢の人は周囲からの期待が小さく、学習リソースが少なく、学習を促進する環境にあるとはいえません。そして、これらの問題を改善する努力も行われません。
カリフォルニア大学に在籍するRachel Wu教授らの研究チームは、「高齢の人でも学習が奨励される環境で複数のスキルを学ぶと、子どものように認知が向上するのではないか」と仮説を立てて実験を行いました。研究者たちは58~86歳の被験者に3カ月にわたって同時進行で3~5講座を受講してもらったとのこと。このとき、1つの講座は平均して週15時間ほどのもので、内容には「スペイン語講座」「iPad講座」「お絵かき講座」「作曲講座」などが含まれました。また被験者は週に1時間ほど研究者と「学習を阻害しているもの」や、「新しいことを学ぶことの価値」、「老化における回復力」について話合いました。
加えて、被験者は「電話番号を数分間記憶する」といった短期記憶力の変化や、認知制御、タスクの切り替えといった点をテストで測定しました。
この結果、学習を始めて1カ月半の時点で、被験者たちは認知能力を30代半ばかそれ以下にまで上げたことが示されました。一方で、対象群として学習講座を受けなかったものの活発なコミュニティのメンバーとなった被験者は、一般的な高齢者と同程度の認知能力だったとのこと。つまり、学習を促進する環境に身を置くことが、新しいスキルを身に付け認知能力を上げるポイントになってくるわけです。研究者たちは引き続き、学習による認知能力の向上という利益がどれほど持続するかを調査していく予定です。
研究者の介入により高齢の被験者はコンフォートゾーンを抜け出し新しい挑戦を恐れないようになりました。実験を始めた当初、被験者たちは自分たちが成長するとは思ってもなかったそうですが、新しい技術を同時に学ぶことで、高齢の人であっても学習し、認知能力が高められることが示されたといえます。
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