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RISC-Vは「ムーアの法則」以来の技術イノベーションになるとの予想


大学発のオープンソースで開発されるCPUの命令セットアーキテクチャ(ISA)の「RISC-V(リスク・ファイブ)」の開発は、いまやMicrosoft、IBM、Qualcomm、Micron、Samsung、Huaweiなどの名だたる企業が参加する一大プロジェクトとなっています。CPUというハードウェア開発の鍵となるISAをオープンにするRISC-Vは、「ムーアの法則」の終わりの時代に現れた、将来のコンピューティング・エコシステムを大きく変える可能性を秘める存在だという予想があります。

Semiconductor Engineering .:. RISC-V: More Than a Core
https://semiengineering.com/risc-v-more-than-a-core/

HP研究所のスタンレー・ウィリアムス氏は、「ムーアの法則の終焉は、ムーアの法則が始まって以降、コンピューティングで起こる最良のものになるかもしれません。時代の終わりには、創造的な新しい時代を導くものだからです」と述べ、長年半導体業界を支配していたムーアの法則が終わることで、新しい技術的革新が誕生するのではと期待しています。この、ポスト・ムーアの法則の技術として、オープンソースのISA「RISC-V」が半導体業界で大きな注目を集めています。

従来のCPU開発では、ISAは限られた企業でのみ利用することのできる"閉じられた"存在でした。例えば、x86の利用はIntelとAMDのみに限られ、モバイル向けArm ISAを利用するにはArmにライセンス料を支払う必要がありました。このため、チップ開発におけるISAの存在は参入障壁として機能する側面がありました。


この閉じられた世界を開放する存在として、オープンソースとして開発されるRISC-Vは期待を集めています。まず、RISC-Vの利用にライセンスフィーは不要なため、IoT時代の到来に向けてカスタムデバイス開発が盛んになる可能性があります。しかし、誰でも無料で使えるRISC-Vのメリットは、単なる小規模開発者の利益にとどまらず、「業界全体で生まれるエコシステムにこそある」という意見が支配的です。

SiFiveの共同創業者のクルスト・アサノビッチ氏は、「人々は製品全体に『標準的なソフトウェアベース』を必要としています。今は限られた領域でうまくやれているかもしれませんが、アプリケーションごとに異なるコアを用いるはめになっています」と述べ、ArmやIntel、ARC、Tensilicaなどの過去のやり方からの脱却にRISC-Vが果たす役割を期待しています。

アサノビッチ氏によると、「古いモデルはコア(CPU)のベンダーを選んでISAを取得するというやり方でした。これに対して新しいモデルでは、まずRISC-V(ISA)を選んだあと、ベンダー(メーカー)を選びます。つまり、各製品ごとに各チップごとに、異なるベンダーを使うことができます。オープンソースのコアを使うことも、商用のコアを用いることも可能です」と述べ、ハードウェア選択の柔軟性と、ひいては製品の設計上の柔軟性が生まれるというメリットについて述べています。


また、RISC-Vのおかげで産業界と学術の連携が生まれるメリットも指摘されています。RISC-Vがカリフォルニア大学バークレー校で生まれた原因の一つに、「工業的なISAを用いたチップ開発ができない」という理由がありました。アカデミックな世界では、「他人が作った知見の上に、さらに新しい知見を築き上げる」という研究活動が行われますが、商用ISAには特許などの知的財産権が複雑に入り組んでおり、他人と仕事を共有するという作業ができませんでした。そのため、研究者が望む研究を可能にするためにRISC-Vが生み出されたのですが、今や産業界で採用され始めたRISC-Vによって、産業からのフィードバックを学会が得られる基盤が作り出されています。

これによって、産業で発見された問題は、すぐに大学をはじめとする学会に送り込まれ解決策が返されるという好循環が生まれつつあります。さらに、産学連携によって産業界と学会との技術的整合性が高まることで、最先端の研究を行う学生研究者は卒業後、産業界にスムーズに移動することができ、企業もアカデミックな世界で研究されている最先端の技術や経験を、より有効に活用できることが期待されています。


さらには、RISC-Vによって、産業界内での協力も活発化すると予想されています。過去にはあり得なかった競合他社とのコラボや、まったく異文化のコラボなどによって、新しい価値が生み出されるのではないかというわけです。

RISC-Vが長期的な視点で成功するかどうかは、それを支える強力なソフトウェア・エコシステムにかかってきます。Siemensのマーケティング担当ディレクターのニール・ハンド氏は、「RISC-VのエコシステムはまだArmほど充実していませんが、その他のサードパーティのもつIP(知的財産)を凌駕しつつあります。これは、業界基準となるRISC-Vを採用し、RISC-Vプラットフォームに移ってきた、注目を集めるIPベンダーを含めた多数の企業のおかげです」と述べています。

長らく続いたムーアの法則の終焉によって半導体業界は代替の方向性をさがしており、RISC-Vもその流れの中で存在感を増しています。「2019年はこれまでレガシーアーキテクチャが支配的だった領域のアプリケーションにおいて、数多くの注目すべきRISC-Vデザインが勝利を収めるのを見ることになるでしょう」とCodasipのクリス・ジョーンズ氏は予想しています。

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in ソフトウェア,   ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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