夢の素材「グラフェン」をミキサーで製造する手法が登場、未来型デバイスの誕生に光
By fisheye.at
厚さわずか炭素原子1個分という驚異的な薄さでシリコンの100倍の電気伝導性と鉄の100倍の強度を持つ夢の素材「グラフェン」は、半導体材料としてだけでなく高性能バッテリーや海水を濾過する濾材など、さまざまな分野への活用が期待されています。そんな夢の材料グラフェンを低コストかつ簡単に作れる「黒鉛をミキサーに入れてかき混ぜる」という手法が考案され、大いに注目を集めています。
Scalable production of large quantities of defect-free few-layer graphene by shear exfoliation in liquids : Nature Materials : Nature Publishing Group
http://www.nature.com/nmat/journal/vaop/ncurrent/full/nmat3944.html
How to make graphene in a kitchen blender : Nature News Blog
http://blogs.nature.com/news/2014/04/how-to-make-graphene-in-a-kitchen-blender.html
Bend it, charge it, dunk it: Graphene, the material of tomorrow | NDTV Gadgets
http://gadgets.ndtv.com/science/news/bend-it-charge-it-dunk-it-graphene-the-material-of-tomorrow-508364
グラフェンは、炭素原子が蜂の巣状に共有結合しながら平面に広がるという構造を持ち、グラフェンが積層したものが黒鉛(グラファイト)というわけで、存在自体は古くから知られており、高校化学で学ぶくらいごくごく単純な構造を持つもの。簡単に言うと、グラフェンを3000万枚積層させたものが長さ1センチメートルの鉛筆の芯です。
構造自体は単純ですが、自然な状態で炭素がグラフェンの構造をとることはないため、人工的に黒鉛を1層に切り分ける試みは何世紀も前から繰り返されてきたものの合成することはできませんでした。しかし2004年にアンドレ・ガイム博士とコンスタンチン・ノボセロフ博士が、グラファイトに粘着テープをくっつけてそっと剥がすこと(スコッチテープ法)でグラフェンを取り出すことに成功して以来、世界中でグラフェンの研究が一気に進むことになります。なお、この粘着テープ実験によるグラフェン生成の功績によって、両博士は2010年にノーベル物理学賞を受賞しています。
スコッチテープ法によってグラフェンを取り出す様子は以下のムービーから。
Making Graphene 101, Ozyilmaz' Group - YouTube
グラフェンは厚みが炭素原子分しかないため「世界で最も薄い素材」であると同時に、炭素間の結合が極めて強いため鉄の100倍以上の強度を持ち、さらに電子伝導性が極めて高く半導体材料としても有望、かつ量子物理学でしか説明できない物理現象の実証実験に活用できる可能性が指摘されるなど、さまざまな分野への応用が期待され、世界中でグラフェンの研究が大流行中です。
しかし、極めて優れた素材であるグラフェンですが、スコッチテープ法の他にもCVDなどによってグラフェンを合成することには成功したものの、低コストかつ大量にグラフェンを合成する方法はまだ確立されておらず、グラフェンの研究をより一層促進させ、実用レベルまで落とし込むためには「低コストで大量に生産できる技術」の開発は避けては通れない課題と言えます。
そんな中、アイルランド・イギリスの研究チームが、20~50gのグラファイト粉末と10~25ミリリットルの界面活性剤を混ぜた溶液を400Wのミキサーで10~30分間かき混ぜることで、溶液内にグラフェン片を生成することに成功したと、Nature Materialsで発表しました。電子顕微鏡や遠心分離器を用いて溶液から抽出されたグラフェン片は、欠陥のない蜂の巣状構造を保っていたとのこと。
研究チームによるとグラフェンの品質自体はスコッチテープ法によって生成されるものに比べてまだまだ低いとはいえ、大小さまざまなミキサーを使ってグラフェンを生成することに成功したそうで、グラフェンの研究者であるケンブリッジ大学のアンドレア・フェラーリ博士は、今回の成果をグラフェンの生産効率を数百倍に高める可能性を秘めた手法として高く評価しています。実験を行ったコールマン博士は、「今後、グラファイト・溶液・攪拌速度などを研究することで、さらに高品質なグラフェンを大量に生成することができると考えています」と述べています。
グラフェンを用いて実現できる製品には、例えば15分間でフル充電可能で1週間以上使用できるスマートフォン用の超高性能バッテリー、紙のように薄いディスプレイ、折り曲げることが可能なウェアラブルデバイス用高性能半導体、海水を純水に濾過できる超高性能フィルター、DNA塩基配列解析フィルター、着用しているのに気付かないくらい極薄のコンドームなど枚挙にいとまがありません。
そのため、グラフェンを低コストで大量生産できる手法の開発が求められているのですが、グラフェンを筒状にした「カーボンナノチューブ」のように、優れた性質を有するのが分かっていながら低コストの大量生産方法が確立されないためにいまいちブレイクに至っていない「夢の素材」はいくつもあります。今回発見された「ミキサー法」によってグラフェンの大量生産が実現するのか、今後の研究に大いに期待です。
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