配偶者居住権は、相続の常識を一変させる。使いこなせば「争続」が防止でき、ムダな税金も払わずに済むのだ。知識がある者は得をし、コツを知らない者は損をする「相続新時代」が幕を開ける。
税務署は登記も見ている
「相続についてのお尋ね」という文書が税務署から相田昌さん(仮名・66歳)の元に届いたのは、父親が亡くなってから1年半が経ったときだった。相田さんが語る。
「オヤジにはほとんど預貯金もなかったし、家は昔、息子である自分のものにしてもらっていたし、納めるような税金はないと思っていました。ところが、なぜか税務署はオヤジが死んだことを知っていて、税金を払うよう連絡してきたのです」
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役所に死亡届を出すと、相続税法にもとづき、税務署に連絡が行くことになっている。税務署は、亡くなった人の過去の納税記録をもとに資産を把握し、相続税の申告漏れがありそうな人に通知を出しているのだ。
しかし相田さんは、「うちに財産はないだろう」と通知を放置してしまっていた。
すると1ヵ月後、突然、税務署の職員が相田さんの自宅を訪ねてきた。父親の財産の相続について聞きたいという。
「相続税? 対象ではないでしょう。家は私の名義になっているはずですし……」
相田さんがこう主張すると、職員は自宅の登記事項証明書を取り出して冷酷に告げたという。
「名義は御覧の通り、お父様になっています。当然、贈与税の納付記録もありませんでした。この家と敷地については、相続税の申告が必要です」
「でも、オヤジからは生前贈与をしたと聞いていたのですが」
うろたえる相田さんに、税務署の職員は冷たく言い放った。
「口約束で、しかもなんの手続きもされていませんので、無効です」