「草食系日銀総裁」に大胆な口先のススメ
デフレ脱却の策はまだまだある昨年の年末、日本経済を論じるあるテレビ番組に出演したら、先ずはデフレ脱却が最優先だという論調が圧倒的だった。槍玉に挙げられたのは、日本銀行であり、白川方明日銀総裁だった。確かに、デフレ脱却のために日銀が出来ることはまだまだある。
昨年11月の菅直人副総理による「デフレ宣言」は、日本がデフレであるとの政府の認識を明らかにしたことに意議があるものの、「デフレだ」と言うばかりで「対策」がセットで発表されない間抜けなものだった。これでは、国民にデフレを印象づけてしまい、さらにデフレを悪化させるだけではないか。
日銀は公家集団などとも呼ばれるが、政治の動向や世間の評判にはそれなりに敏感な組織だ。武士(=政治家)を怒らせてはまずいと思ったのだろうし、円高に対する懸念もあったかも知れない。12月1日には、3カ月物による「新しい資金供給」を打ち出した。この政策は「小出し」の域を出ないが、その後、年末にかけて株価が上昇したこと、円安になったことを見ると一応成功らしい気配がある。しかし、昨今は、株価も為替レートも主に海外の要因で決定されるから、「日銀の新政策が効いたのだ」と断じるには無理がある。成否は何といっても今後の物価次第だ。
先のテレビ番組では、ある経済学者が日銀に次のような政策を提案した。それは「白川総裁が公式な発言として『消費者物価上昇率が(たとえば)3%を超えるまでは、政策金利の引き上げは行いません』と言えば、それだけで十分効果がある」というものだった。
補足説明がいるかも知れない。実は、日銀の金融緩和がなかなか効果を発揮しない有力な理由として、「人々は、少しインフレ率が上がったら、日銀はどうせ直ぐに金利を引き上げるに違いないと思っているから」という説明がある。たとえば、日銀は福井俊彦総裁時代の量的緩和政策の際、物価が上がりかけた時に「量的緩和の解除」を行い、その後急ピッチで「ゼロ金利政策の解除」に向かった。量的緩和政策は、これが実施されていると「ゼロ金利解除」に向かうのに時間が掛かるから、低金利が長く続くという期待を世の中に持たせる効果がある(これを「時間軸効果」と呼ぶ)とも言われていた。しかし、日銀の前歴を考え合わせると、今度は効果が乏しいかも知れない。日銀の金融引き締め好きは世間に知れ渡ってしまっている。
白川総裁のこの間の発言は「(新政策は)広い意味で量的緩和だ」、「時間軸政策だと考えて貰ってもいい」、「デフレを許容していない」といったものだった。将来の行動を明確に約束するような発言はない。