異色のブロガーが語る「組み立てるメディア」プラモの魅力を再発見

「身近なアイツ」を土日で完成させよう

からぱた

からぱたという男をご存知だろうか?

一般人の知らないところで、いま超絶進化を遂げているホビー「プラモデル」。その「モノ」としての色気、工業製品としてのフェティッシュな魅力、そして「組み立てる」という行為の愉しみを、写真と文章で熱く語る異色のブロガーだ。

バンダイ「パーフェクトグレード・ミレニアムファルコン」や「フィギュアライズメカニクス ドラえもん」など、これまで最先端のキット紹介で注目を浴びた同氏。彼が「『現代ビジネス』の読者に、プラモの愉しさを伝えるなら」と挙げたのは、意外にも「身近なアイツ」のキットだった。

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「工業製品」としてのプラモを語ろう

みなさんこんにちは。からぱたと言います。むやみやたらと巨大な写真を貼り付けまくる「超音速備忘録」というブログを書いており、ここ数年はプラスチックモデル(プラモ)ばかり取り上げているためにネットで「プラモ界のフォトヨドバシ」などと呼ばれております。

「超音速備忘録」より「フィギュアライズメカニクス ドラえもん」の内部構造
同じく「パーフェクトグレード ミレニアムファルコン」

考えてみると、プラモって不思議ですよね。

未完成の物体が売られていて、ユーザーはそれを自分で組み立てなければ完成状態が見られません。接着剤やニッパーや塗料を買ってこなければ完成しないものがほとんどですし、うまく仕上げるにはいろんなテクニックが必要です。

メーカーにとっては工場から出荷された状態が「商品」なのに、ユーザーにとっては自分で作り上げた瞬間が「作品」になる…。

この「二重に完成する」という他にあんまりない性格、あたりまえのことだと思っているとそんなに不思議ではないのですが、いちど考え始めると「じゃあ、プラモについて語るってどういうことなんだろう?」と悩み始めてしまいます。

「作り方」や「美しい完成状態」(=それは個人の技量に左右されます)を紹介するメディアはたくさんありますが、「工業製品としてのプラモ」についてあれこれ語るというのは、プラモの楽しみ方として主流とは言えません。

しかしそこにも、プラモの魅力はちゃんと隠されていると思うのです。

ということで、この連載ではかつてのプラモ少年や、これからプラモに興味を持ってしまうみなさんと一緒にプラモの箱の中身を眺め回してああだこうだと話し、そしてなるべく生のまま、ササッと頂くレシピを共有してみたいと思います。

「プラモは時間とスキルのある特別な人達の楽しみだ」と決めつけず、気楽に、でも真面目にプラモと向き合うための記事になれば幸いです。

「身近なアイツ」もプラモになってます

突然ですが、みなさんがプラモを買って作りたい理由ってなんなんでしょうか。

「憧れのマシンを(それが実在のものでも架空のものでも)手もとに置きたい!」という動機もわかりますが、それと同じくらい「それとも毎日見ている頼れるアイツを模型でもいつも眺めていたい!」という動機もあるんじゃないか、と思います。

さて、今回ご紹介するのはカーモデルの雄、青島文化教材社(以下「アオシマ」)が昨年末に放ったピッカピカの新製品、「1/24 トヨタ NCP160V プロボックス'14」でございます。

アオシマ自身が「まさまさかの完全新金型!!」と謳うとおり、イチから設計したカーモデルとしては数年ぶりとなるこのアイテム、ありがちなスーパーカーじゃなく、懐かしの名車でもなく、バリバリの現行商業車というチョイスに業界もカーモデルファンも騒然としました。

量産型の、どこにでもある営業バンを、実車の3Dスキャンを駆使してカチッと再現するという行為そのものがまずクールなわけですが、その中身を組んでみたら、これはもう腕っこきのモデラーだけでなく、全国の営業マンに楽しんでもらいたい!と強く感じた次第。

日本全国の営業マンが駆るプロボックスは、大量の荷物を積載しながらも安くキビキビ走るスパルタンな仕様が特徴です。過剰な装飾を徹底的に排し、削ぎ落とされた内外装と堅牢な足回り、長距離運転でもドライバーを疲労させないさまざまな工夫が詰め込まれています。

その設計思想はレーシングカーにも通じると評するジャーナリストも多く、実際にサーキットでプロボックス(や、兄弟車のサクシード)をカスタムし、そのスピードを競う好事家も多いんだとか。

ほら、こういう話を聞くと「いったいそれって、どんな構造なんだろう?」って好奇心がムクムクと湧いてきませんか?

▲どうですか、このゴロンと一体成型されたボディパーツ。プロボックスの存在が一気に目に飛び込んでくる嬉しいボリューム感です。

▲フロントマスクの繊細な意匠もこのとおり。ランナーに付いたままのパーツを見ると、ああ切り取って組んでみたい…と思いませんか?

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▲プロボックスの車体裏側をまじまじと見たことのある人は少ない。しかしプラモならば、こうして簡単に眺めることができてしまうんです。

▲フロントのエンジン下に当たる部分は黒いパーツ。プラモを裏返すことはほとんど無くても、組み立てたあなただけがこの彫刻を知っている。

▲日々座るあのシートは、こうして分割されてきちっと整列しています。当然後列のシートバックを倒す仕組みも楽しむことができますよ。

▲このぶっきらぼうなホイールだって、落ち着いたシルバーの色にメッキされています。タイヤを履かせるのはもちろんあなた。

土日で完成させましょう

しかしまあ、プラモデルというのはとても面倒な趣味です。

キレイにパーツを切り離し、パーツをピッタリと接着し、ていねいに塗装することでやっと完成する歓びは格別ですが、失敗しないで完璧な一品を作ろうとすると、大変なスキルと時間が必要なことも確かです。

忙しい企業戦士のみなさんにとって貴重きわまりない休日、気軽に楽しめる趣味としてプラモはどうあるべきなのでしょうか?

かく言うワタクシもカーモデルを真面目に作ったことは数えるほどの回数しかありませんので、今日は「2日で仕上げる」(=2日でできることしかやらない)というルールでこのプロボックスをバババッと作ってみることにしました。

▲「プロボックスのプラモ」の素晴らしいところは、樹脂がむき出しのスパルタンな内装を樹脂そのままで再現できちゃうところです。

▲このグリルも、ホンモノは樹脂でできていますよね。黒いパーツなんだから、塗らないほうが「リアル」だということにしましょう。

▲リアのコンビネーションランプには最初から色がついていますから、恐れることはありません。

▲バックミラーだって黒い樹脂のところは黒いパーツそのまま、お刺身でいただくことができます。

▲バックミラーの鏡部分はクロームメッキ仕上げのパーツを差し込むだけで完成。とても親切かつ野心的な設計になっています。

そう、本革張りのシートやファブリックで仕上げられたダッシュボードと行ったスーパーカーの内装を仕上げるのは大変でも、あくまでも虚飾を排した「樹脂のインテリア」こそがプロボックスの特徴ですから、樹脂でできたプラモとの相性は抜群。臭いのする塗料をチマチマと塗り分けずとも、ボディの色にさえこだわってしまえば、誰でも必ず完成させることができるはずです。

どんな色にしましょうか?

まずは細かいことを考えず、ボディの色を塗りましょう。模型屋さんに行って、自分の好きなカラーの缶スプレーを1本買ってくれば、オールオーケー。

「どんな色にしようかな」と悩む時間こそが「プラモデル」という趣味の本体であり、いちばんワクワクするタイミングであるはずです。

▲そうは言っても、保守的なワタクシはシルバーの缶スプレーでざっくりとボディを塗装してしまいました。

▲みなさんはこうした固定概念にとらわれることなく、この世にはありえない色のプロボックスを仕立ててもいいのです。誰も怒ったりしません。

シルバーなどのメタリックカラーはツヤが少し鈍くなる傾向にあるので、今回はツヤありクリアーを上から吹き付けて仕上げました。

カーモデルは職人レベルのモデラーが塗装すると、まるで実車のようにツルツルのツヤあり状態に仕上げることができますが、僕らは忙しいウィークエンドモデラー。何度もスプレーを重ねて乾燥を待つ時間がもったいない、という人がほとんどだと思います。

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そういう場合は、ツヤのあるソリッドカラーの缶スプレーをチョイスしましょう(そのかわり、吹きすぎてボテッとしてしまわないように注意!)。「缶スプレーすら面倒だ!」という人は白いボディとして塗らずに仕上げたって、自分が良けりゃそれで良いのです。

だって、これはあなたのプラモなんですから。

最近のプラモは親切です

さてさて、ボディの塗装を乾燥させているあいだに、カーモデル最大の難関、「窓ガラスの黒い枠」を塗装しましょう。透明なプラスチックにビシっと真っ直ぐな黒い線を入れるというのはとても難しいのに、避けて通ることはできないのが困ったところ。

しかし、このプラモにはすばらしい助け舟が用意されています。

▲窓ワク用マスキングシール。貼りやすく剥がしやすいノリの材質で、とても正確なラインでカットされているのが嬉しい!

▲窓の裏側から貼って、半ツヤ(セミグロス)の黒いスプレーをブワーッと吹き付けましょう。シールのキワはきっちり押さえておくこと。

▲サイドの一番後ろにある窓もこのとおり。余計なところはホームセンターで買える養生テープで大雑把にマスキングしておけばOKです。

これで外装はほとんどできたも同然。バンパーは黒だし、ライトは透明。無塗装のパーツを貼り付けていくだけでボディの完成です。

しかし、塗装済みのパーツ同士を接着するときにプラモデル用の接着剤を使うとどうしても塗料が溶け出してしまい、接着面が汚くなってしまいます(子供のとき、これで悩んだ経験のある方も多いのでは!?)。

そこでオススメしたいのがセメダイン社製のスーパー接着剤、「CA-089 ハイグレード 模型用セメダイン 20ml」です。

溶剤を使わず、水性タイプなので塗料やプラパーツを溶かさず、キレイに接着することができます。乾燥には少々時間がかかりますが、はみ出したら水を含ませた綿棒やティッシュで拭い取ることができるというのも大きな利点!

▲3年ほど前に発売されたこの魔法の接着剤は、プラモデル作りの強い味方です。

お次は内装とシャーシの製作です。

正直カーモデルの中身というのは完成後に隅々まで眺め回す対象ではない、ということにしてとにかくどんどん貼っていきます。白いパーツが混在していたり、全部が同じツヤでなんだかなぁ、と思う人は先ほど窓ワクを塗るのに使用した半ツヤのブラックをパーツ状態で吹き付けてから接着しましょう。

ちょっとツヤの違うところがいくつかあるだけで、プラモはグッとかっこよくなります。

▲説明書をよく読みながら、ドバっと内装を作り上げたところです。左右のシートの接着位置は自由なので、運転席だけ少し後ろにしてみました。

▲リアシートを前に倒したところ。これによって正尺のコンパネやA4コピー用紙箱89個を積載可能な「戦闘モード」を再現できるのです。

▲いかにも商用車、なデカールが付属。右下の名前を見れば分かるとおり、バリエーションモデルとしてサクシードも発売されていますよ。

▲ダッシュボード周りはご覧の通り。営業マン御用達の1リットル紙パックを収容可能なドリンクホルダーや帳簿をつけるための引き出し式トレイも完全再現!

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いよいよ完成…!

このアオシマ製プロボックス、何よりも構造的に楽しいのがサスペンションの構造。

床面地上高を下げながら荷室幅を広くすることで積載量を稼ぎながら、キビキビとした走りと快適性能を担保するラテラルロッド付きリアサスペンションと、これに合わせて開発されたヴィッツ系の改良型となるストラットタイプのフロントサスペンションがバッチリ再現されているのが、最高にエキサイティングなのです。

組み立てには少々手こずりますが、金属製スプリングを実際にハメ込み、ホイールを取り付けたときの感動は格別。机において屋根を押すと、グイグイと反発してくれるさまには「おおっ!」と声が出てしまうこと必至!

▲こまかいパーツをいくつか組み合わせる必要がありますが、リアサスペンションとそれを避けながら走るエキゾーストパイプの立体感は秀逸です!

▲そうそう、筆者は排気管をシルバーで塗りました。裏返さないと見えませんけどね。リアのフロア下にスペアタイヤを取り付けたらいよいよ完成。

▲どこからどう見ても、プロボックスです。ヘッドライト回りの接着には少々手こずったので、説明書の指示通り、順序よく貼り合わせましょう。

プラモほど愉しい「メディア」はない

……ということで、土曜に外装、日曜に内装を仕上げてプロボックスがなんとか完成。デスクの横にポンと置いておくと、たった2日のあいだにあった組み立ての楽しい思い出が蘇ります。

なによりも、次の日から道路でプロボックスを見かけたときに「おっ、頑張れ!」と声をかけたくなってしまうのがプラモの最大のおもしろさ。あなたの指先はもう、パーツのひとつひとつのカタチを覚えているし、裏返したときの機構だって知っているのです。

スーパーカーやクラシックカーとは違う、「日常のクルマ」のプラモ。でも、ひとたびこれを組み立てると、あなたとプロボックスのあいだには「特別な関係」が築かれることに気がつくはずです。

そう、プラモとは、あなたとモチーフのあいだに秘密の間柄を結んでくれる、唯一無二の特別なメディアなのです。

次はどんなモノと、秘密の間柄を結びましょうか。

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