「働かないアリ」から働きすぎの日本人が学べること

目先の効率追求が組織全体を破壊する
*写真はイメージです〔photo〕iStock


文/長谷川英祐(北海道大学大学院准教授)

働かない働きアリ? 

人間は社会を作って暮らす生き物だが、動物の中にもそういうものがいる。

「真社会性昆虫」と呼ばれる、アリ、ハチ、シロアリなどの生き物では、女王や王といった繁殖(産卵)を専門に行う階級と、ワーカー(働きアリや働きバチ)という、産卵せずに巣の維持労働を行う階級に分化している。

なぜこんな繁殖分業が進化したのかは興味深い課題だが、ここでは別の問題を考えてみる。ワーカーは労働専門個体であり、働きアリはイソップの童話にも見られるように、始終働いている「働き者」だというイメージがある。

しかし、野外で見られるアリはエサを探すために巣の外へ出てきた働きアリなので、いつも働いているに決まっている。

巣の中にはずっとたくさんの働きアリがおり、人工的な巣を使って、巣の中にいる働きアリを観察すると、ある瞬間には約5〜7割の働きアリが労働をしておらず、長期間観察しても、2〜3割の働きアリはほとんど労働をしない。

彼らは、自分の身繕いやただじっとしているなど、コロニーの他個体に直接利益を与える「労働」をほとんどしないのだ。アリは人間が思っているほど働き者ではない。

どのようなメカニズムで"働かないハタラキアリ"が現れるのだろうか?

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