日銀が作った『5分で読めるマイナス金利』にメガバンク行員がブチ切れた!

「ケンカ売ってんのか」

黒田総裁はマイナス金利の拡大も示唆し、銀行側を挑発している〔photo〕gettyimages

「黒田総裁はバカなのか」

「黒田総裁はバカなのか」

「なにもわかっていない」

日本銀行の黒田東彦総裁がマイナス金利の導入を決定した直後のこと。

在阪記者との懇談会に出席したメガバンクのあるトップは、怒りを隠そうともせずに、冒頭のように吐き捨てた——。

それもそのはず。

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経済をよくするはずのマイナス金利が、銀行業界の経営をモロに直撃している。メガ3行ではこのほどベア見送りが決定したが、「これこそマイナス金利のせい」とメガ幹部は語る。

「今回は各行の労働組合側が、『今後はマイナス金利で収益環境が悪化する。ベアなんて無理だ』と諦めた。労組側がはなから要求を見送ったわけです。黒田総裁は賃上げの旗振り役を振る舞っているが、彼の愚策が賃上げを抑え込んだ。本末転倒とはまさにこのことです」

いま金融業界で話題になっているのは、米ゴールドマン・サックスが出した試算レポート。マイナス金利が今後数年間でメガバンクの経営に与える影響を「最もネガティブなケース」を想定して試算しているのだが、「その結果があまりに凄惨。笑えない代物なのです」(金融アナリスト)。

実際にレポートを見ると、三菱UFJFGの場合、利益が6・8%も押し下げられるという。同社の純利益は年間約1兆円なので、その6・8%は680億円。とても看過できないほどの「巨額減益」が想定されているわけだ。

同様に、みずほFGは8・3%、三井住友FGは6・4%の収益下押し圧力を受けるとの試算で、メガバンクはいずれも「収益激減」が既定路線化している。

メガバンク株は投げ売り状態

「当然、株式市場ではメガバンク株は投げ売り状態。三井住友FGの株価は年初には4500円台だったのが、一時は3000円割れするまで売り込まれた。三菱、みずほの株価も年初から3~4割ほど暴落した。すべて、マイナス金利のせいです」(別のメガ幹部)

そんなバンカーたちの怒りを知ってか知らずか。3月末に日銀がHP上に公開したある文書をめぐって、「俺たちにケンカ売ってんのか」と、いまメガバンク行員たちが騒然となっている。

その文書の正式名称は、『5分で読めるマイナス金利』。日銀のHP内には、金融、経済に関してQ&A形式で解説する『教えて! にちぎん』というコーナーがあり、その一つとして3月25日から掲載が始まった。

中身は、マイナス金利についての疑問を18個掲載。それぞれに日銀なりの回答が書かれているのだが、それらがいちいち銀行の神経を逆なでするものなのである。

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たとえば、マイナス金利の影響で〈銀行が損しない? 大丈夫?〉という質問に対して、日銀はまず、〈たしかに銀行にとっては、預金金利はマイナスにならないのに、貸出金利は下がるので、その分儲けは少なくなります〉と回答。銀行側に理解を示していると思わせながら、〈でも大丈夫です〉として、以下のように続けるのである。

〈日本の金融機関は、リーマンショックでも傷ついていないし、とても健全です。去年もたくさん収益を上げています。日銀の預金でもマイナス金利にするのは一部だけにして、あまり銀行が困らないようにしました〉

メガ中堅行員は言う。

「困らないようにした、という上から目線がもう腹立たしい。たくさん儲けているから多少は損しても大丈夫でしょという言い振りも、日銀にだけは言われたくない。そもそも、われわれはこれまで日銀のおかげで儲けられてきたわけではない」

まもなく全面戦争へ

続けて見れば、〈マイナス金利ってそんなに効果あるの?〉という質問には、〈マイナス金利にしたあと、住宅ローンの金利は下がって、10年固定で借りても1%以下になっています。銀行のローンセンターは大忙しだそうです〉と回答している。

これに怒りをぶちまけるのは、ローン担当の現役行員である。

「マイナス金利で不動産業界が潤っているという書き振りですが、現実は真逆。確かにローンセンターへの問い合わせは急増しているが、大半は借り換えの相談。新規のローン借り入れはこの間、ほとんど増えていない。マイナス金利によって起きたのは、住宅ローン競争の激化。しかも、利ザヤがより薄くなる『デフレ競争化』している」

メガバンク行員たちがこぞってブチ切れているのは、銀行預金についてのくだりである。

100万円預けた1年間の利息がこないだまでは200円だったのが、マイナス金利で10円になったという事実が記されたうえで、〈消費を悪くするほどの規模ではありませんよね〉。日銀のせいで預金金利が下がったのに、それは大した影響がないと書く。

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そのうえで日銀は、〈もともと200円しかもらえなかったんだ。それがひどいんじゃない?〉と、銀行がこれまで低い預金金利を設定してきたのが悪いと暗に批判するような質問を設定。それを受けて、〈そのとおりですね。100万円預けた時の利息が1000円未満になったのは1999年。もう15年以上、預金金利はとても低くなっています〉と回答するのだ。

日銀にこれらの文書を出した狙いを聞くと、「マイナス金利政策についてわかりやすくご説明するためです」(広報)。誰が文書を作ったのか、銀行から批判はないかについては、「特にお答えできません」とのことだった。50代のメガ行員は言う。

「日銀の中でも幹部クラスの人間が作ったとの話が出回っている。となれば、これは日銀による完全な宣戦布告だ。我々が倒れるのが先か、黒田総裁が倒れるのが先か。『黒田を任期前に引きずりおろす』という鼻息荒い声も上がっている」

日銀もメガバンクも共倒れ、とならなければいいのだが。

「週刊現代」2016年4月16日号より

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