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前回の記事はこちらをご覧ください。
[取材・文:松本創]
橋下徹・前大阪府知事の3年9ヵ月間で、府の財政は何ら改善されていないばかりか、借金(府債残高)は過去最高の6兆円超に膨らんだ---という「改革」の実態を前回記事では示した。しかし、そのこと自体は驚くに当たらない。大阪府は長年、景気低迷や企業の流出による税収減に悩まされてきた。大阪経済の長期低落傾向は1970年の大阪万博からとも言われている。いくら歳出を削減しても将来の負担は増すばかりという、府が陥っている負のスパイラル状態は、1期4年にも満たない在任期間で抜け出せるほど簡単なものではなかった、という話だ。
驚くべきはむしろ、そうした事実にもかかわらず、橋下がさも財政再建を成し遂げたかのように振る舞い、世の中にもなんとなく「実績を上げた改革者」のイメージが流布していることだ。これは、たびたび指摘されてきたようにマスメディアの責任も大きい。テレビのニュースショーを見れば、「橋下さん、頑張ってますね」「黒字化は大きな成果」「この勢いで日本も変えてほしい」といったコメントが溢れている。
だが、その虚像を作り上げてきたのは何よりも、橋下自身のほとんど天才的ともいえる巧みな弁舌と論争術、さらには、話の内容よりも分かりやすく単純化したイメージのみを伝える「テレビ的言語センス」だ。前者は、示談交渉を専門的に取り扱った弁護士の職歴によって、後者は、過激なコメンテーターとして重宝されたテレビ出演歴によって、磨き上げられたのだろう。
知事就任時に府庁を「破産会社」と断じて賛否を呼んだことを逆手に取り、退任時の去り際には「優良会社」と言って持ち上げる。繰り返すが、大阪府が「優良会社」に変わったと言える財政的な裏付けは何もないのに、である。あれは府職員たちを労う言葉などではなく、自分がトップとして再生させたとアピールする印象操作だったとも受け取れる。退任から10日あまり後、テレビの討論番組で、市長選を争う平松邦夫・大阪市長から「6兆円も借金があって、何が優良会社なのか」と問われると、橋下はこんなふうに答えている。
「優良会社の意味を全く誤解されている。僕が大阪府のトップになってからさまざまな改革・・・全国でいちばん公務員改革をやり、国にも権限移譲を迫り、それから大阪マラソンも御堂筋イルミネーションも、次から次と僕の発案したことを(職員たちが)実現してくれたわけです。そういうことをもって優良会社と言ったわけですね」
財政状態を表すはずだった「会社」の比喩が、ここでは職員の働きぶりの話にすり替わり、それにも増して、自分をアピールする材料になっている。