2022年度「不登校」の小中学生は約30万人と過去最多に。前年度から2割強と10年連続で増え続けている。これに加え不登校の起因にもなる小・中・高校などでの「いじめ」の認知件数は68万1948件。自殺や不登校につながる「いじめの重大事態」の認知件数は923件でともに過去最多。このうち4割近くは重大事態として把握するまで、学校がいじめとは認知していない状況だった。

このような環境で悩み苦しむ親たちを、NPO法人『福祉広場』代表の池添素さんは支えている。不登校や発達障害の子どもと親にかかわり続けて40年。親たちに「素さんがいたから私たち親子は生きてこられた」と感謝される。不登校児の親たちを勇気づけ、闇から救い出した言葉とは。

池添素さんに子どもの不登校の現状についてジャーナリストの島沢優子さんが取材。新連載『子どもの不登校と向き合うあなたへ~待つ時間は親子がわかり合う刻』にて、具体的なエピソードと共にお伝えしていく。

池添 素(いけぞえ・もと)
NPO法人「福祉広場」理事長。京都市職員として保育所や児童福祉センター療育課などで勤務した後、1994年に「らく相談室」を開設。2012年にNPO法人福祉広場へ移行し、相談事業を継続している。子育て相談、発達相談、不登校相談、ひきこもりや親子関係の相談など内容は多岐にわたり、年齢も多様な相談を引き受けている。著書に『ちょっと気になる子どもと子育て―子どものサインに気づいて』『いつからでもやりなおせる子育て―子どもといっしょに育ちを振り返る』『笑顔で向きあって-今日から始める安心子育て-』『子育てはいつもスタート―もっと親になるために』『いつからでもやりなおせる子育て第2章』(いずれも、かもがわ出版)『育ちの根っこ―子育て・療育・つながる支援』(全障研出版)『子どもを笑顔にする療育―発達・遊び・生活』(全障研出版)『連れ合いと相方―介護される側と介護する側』(共著=かもがわ出版)立命館大学産業社会学部 非常勤講師、京都市保育園連盟巡回保育相談員。

母が見た保育園での娘の姿

不登校ならぬ、不登園が存在することをご存知だろうか。
京都市在住のナミさん(仮名)の娘はひとりっ子。保育園年中組だった4歳のころから行き渋りが見られるようになった。朝、朝食を食べ、パジャマを着替えた途端、うなだれたまま動かなくなる。最初こそ「保育園行こう。先生もお友達も待ってるよ」と夫とともになだめすかして無理やり連れて行ったが、靴を履かせようとすると足をバタバタさせて嫌がったり、激しく泣くようになった。

困り果てて保育園に相談すると「え?そうなんですか?園に来たら全然いい子にしてますよ」と言われた。行き渋りなど大した問題ではないのかと思ったのも束の間、自宅に帰ってくると荒れ始めるという事態になった。時には部屋の隅で座り込んでは、自分の手を叩いたり、腕を叩いたりした。

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そのことを都度包み隠さず保育士に伝えるとともに、保育園での様子をこっそり見に行った。親が出入りしない時間帯の保育園は、いわゆるカオスな状況だった。常に誰かが泣いてたり、怒られたりしている。そんな仲間を、長女はちらちら横目で見ている。表情は暗く、元気がない。お構いなしに飛びまわっている他の子どもたちと比べると「目が死んでるっていうんでしょうか。明らかに楽しそうではありませんでした」(ナミさん)。

家での娘と、保育士から聞かされる姿がどんどんかけ離れていったある日、保育園が「相談に行ってみてください」と相談機関を紹介してくれた。池添さんが代表を務める「福祉広場」だった。