横山明日希の〈数式図鑑〉
「数学のお兄さん」として活躍する横山明日希さん。数学×恋愛、数学×お笑い等、数学と異分野を掛けあわせた独自の切り口で、より数学を身近にする授業、講演などで人気です。
そんな横山さんの新著『数式図鑑』は、数学好きには外せない、さまざまな数式の美しさ、すごさ、不思議さをわかりやすく伝えるとっておきの数式集です。本書から、初めて知る数式や、よく知る数式の意外な一面など、読みどころを、ここにご紹介しましょう!
今回は、学校における数学の授業では何となくスルーしてしまっていた、「0.999…という無限に9が続く小数は、結局ピッタリ1なのか、そうではないのか?」という素朴な疑問について、数式を使って答えを求める過程を追います。
自然数と小数
0.999999…=1
よく見るけど、よく考えたら不思議
これは、誰もが疑問に思ったことがあるであろう、ちょっと不思議な式です。左右の辺の数を比べてみましょう。明らかに、違う数どうしが並んでいるように思えますよね。左辺は数の中で最も基本といっていい「1」ですが、かたや右辺には、小数、しかも無限に続く小数が並んでいるからです。
しかし、この式は正しい式といえるのです。どう考えれば正しいといえて、どうして不思議だと感じるのでしょうか。考えてみましょう。まず正しいといえる理由として、以下のような証明方法があります。まず、 1/3を小数で表すと、循環小数で表すことができるので、
1/3=0.333333…
は正しい式といえます。この両辺に3をかけてみましょう。
1=0.999999…
となりました。最初の式が正しく、それぞれに3をかけても等式は成り立つはずなので、この結果の式、1=0.999999…も正しいということがわかりました。これで証明を終わります。

……皆さん、これで納得できたでしょうか。何となく納得できないというか、狐につままれたような気になると思います。これはなぜなのでしょう?
よくわからないと感じてしまう理由、それはおそらく「0.333333…とか0.999999…とか循環小数と言われても、どちらも1/3や1に届かない数なんじゃない?」という印象を持ってしまうからではないでしょうか。
そこで今回は、数学的にもっと文句のつけようがない証明を考えてみましょう。ここで「背理法」という、「ある仮定を正しい(または誤り)として論理を進めたときに矛盾が出てくるとき、その仮定は誤っている(または正しい)」という数学でよく使う証明法を使います。まず、
0.9 0.99 0.999 0.9999 0.99999…
という無限に続いていく数列を考えます。この数列について、誰から見ても明らかな真実、つまり「自明」といえる真実は、「ある項の次の項は、必ず元の項よりも大きく、さらに1に近い」です。これには誰もが異論はないと思います。
一見、正しそうだけれど
さて、次にある仮定をしましょう。それは、「この数列の無限の果てに飛んだ、最後の項をyとしたとき、yは1ではない」というものです。つまり、0.999999…=y と置いてみたときに、y≠1ということになります。
さて、この仮定からどういう矛盾が生じてくるでしょうか。まずyは1ではないのですから、「数列の中にyよりも大きく、より1に近い項zが存在する」ということがいえますね。しかし、これと最初の仮定とを比べてみると、「yは、この数列の中の最後のy、つまり最も大きい数である。ゆえに、yよりも大きい項は存在しない」のですから、さっそく矛盾が生じてしまいます。
別の言い方をすれば「この数列は右にいけばいくほど大きくなり1に近くなるので、yが1ではない場合、必ずyよりも1に近い値zが取れる。しかし、yは数列の中で最も大きく最後の項なので、z=yのはずである」ともいえますが、これも数列の性質に矛盾しています。