2020.01.18
# ナチス

ヒトラーを「左翼」「社会主義者」と見なしてはいけない理由

安易なレッテル貼りの危うさ

広がる「ヒトラーは社会主義者だ」の認識

近年、右派勢力の間で「ヒトラーは社会主義者だ」という主張が広がりはじめている。事実、そうした主張はアメリカのオルトライト(新右翼)や共和党の一部の常套句となっていて、敵対陣営である民主党左派を攻撃するのに多用されている。

日本のいわゆる「ネット右翼」の間でも、ナチズムを社会主義と同一視して、これを左翼批判に用いる発言が目立つようになっている。社会主義的・左翼的な主張を唱える者はみなナチスであって、人々を戦争やホロコーストに導こうとする者だというわけだが、こうした粗雑な主張はもちろん、歴史の実態にはそぐわない。

ジーメンス工場の労働者の前で演説するヒトラー(1933年11月)〔PHOTO〕Gettyimages
 

ナチ党は正式名称を「国民社会主義ドイツ労働者党(Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterpartei)」という。党名に「社会主義」と「労働者」が含まれているので、ナチズム=社会主義=左翼と短絡してしまいがちだが、そうした安直な見方は、「国民」と「ドイツ」があらわす意味の重要性を無視している。

これらの語は、民族や人種に究極的な価値を置く右翼的な政治姿勢を示すものにほかならず、それと不可分に結びつけられることで、「社会主義」や「労働者」の意味合いも根本的に変わっている。

ナチ党が掲げたのは単なる社会主義ではなく「国民社会主義(Nationalsozialismus)」であって、それはドイツ民族・国民のためだけの社会主義、民族至上主義・人種差別主義(反ユダヤ主義)と結びついた社会主義を意味する(なお、日本では従来「国家社会主義」と訳されることが多かったが、「国家(Staat)」と「国民(Nation)」の混同を避ける目的から、近年では「国民社会主義」という訳語が一般的になっている。ヒトラーが言うように、ナチズムは国民・民族を優先する運動であって、国家はそのための手段にすぎないのである)。

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