令和という新しい時代になっても、変わらない深刻な問題がある。若者の「貧困」だ。そんな中、ストリートシーンに突如、ゆとり世代型の多重債務者集団が現れたことをご存知だろうか。
彼らの名は、Tajyusaim boyz(タジュウサイム・ボーイズ)。メンバーであるLB-RUG(エルビー・ラグ)、Young Sex(ヤング・セックス)、M.A.G(マグ)、Pizza love(ピザ・ラブ)の各々が多重の債務を抱えながら活動をしている。
2018年9月にデビュー・シングル『リボで買う。』をリリースすると、一度聴いたら耳から離れないリアルな懐事情を表現したリリック(歌詞)で、ヒップホップファンや多重債務者を中心に注目を集めた。さらに結成1年も経たないうちに『月曜から夜ふかし』(日本テレビ)や『シブヤノオト 』(NHK)などテレビ番組への出演も果たし、活躍の幅を広げている。
ラッパーといえば、ブランド服に身を包み、美女を侍らせて高級車を乗り回し、クラブのVIPルームでシャンパンを開けて……といったシチュエーションが思い浮かぶ。だが、彼らが歌い上げるのは、リッチさとは正反対の貧困、すなわち現代の若者のリアルな生き方だ。
新たな時代の借金との付き合い方、「借金2.0」をTajyusaim boyzが語り尽くす。
『リボで買う。』誕生の経緯
LB-RUG(以下、L):そもそも「Tajyusaim Boyz」というグループを結成した理由は、4人それぞれがソロで活動をしていて互いに顔見知りだったんです。それである時、共通の知り合いだったSlendermanという今のプロデューサー同席の下、4人で話していたら「リボ払いってヤバくない?」という話題になった。
M.A.G(以下、M):そしたら、全員の共通点に「借金をしている」ことが判明して、一部始終を聞いていたプロデューサー発案でグループ結成に至ったんです。
Young Sex(以下、Y):お互いがどれくらいの金額の借金をしているかは知らないけど、全員の総額がだいたい高級外車1台が買えるくらいだと思います。で、みんな日々の生活のため、クレジットカードの「リボ払い」を愛用してた。
Pizza love(以下、P):なので共通点だったリボ払いで「やるしかねえ!」みたいになって、『リボで買う。』の曲作りを始めました。まず「あれもリボで買う これもリボで買う 俺がリボで買う これはいつ終わる」「リボ リボ リボ リボ リボ リボ リボ リボ」というフック(ラップにおけるサビの部分)がすぐに生まれて。
M:後は、それぞれ自由に自分の実体験を思い出しながらリリック(歌詞)を考えました。だから、レコーディング当日までは、お互いにどんなリリックか知らなかったんですよ。
L:ただ、自分たちのリアルな懐事情をリアルに書いているだけ。例えば「君にあげた gucciのリボがまだ 愛と一緒に残ってるんだ まだまだ」にあるリボ払いは、先日ようやく払い終わりましたよ。あげた彼女とはもう別れましたけど……。
Y:それにしても『リボで買う。』は、そもそも「リボ」って言葉を知らない子たちまで聴いてくれている気がする。
L:先日、イベントをやらせていただいたんですけど、お客さんがほぼ未成年でした。そもそも2018年9月に『リボで買う。』をリリースした当初も、「『リボ』ってなんですか」という質問も多かった。
M:「多重債務」って言葉も知らないお客さんもいる。それでも聴いてくれるのには驚いた。
P:ただ、こうやって売れてくるのは嬉しい反面、いろんな場所に足を運んで顔を出す機会も増えてきて。交通費やら、交際費やら……。
L:昔より収入は増えてる。増えてるんだけど、たとえばアルバムを作るのに気合が入りすぎて6曲入れると、その分すごい金額がかかって、結局そのお金が収入だけではペイできてない感じかな。
贅沢な暮らしをしたいわけじゃない
P:実際のところ、1日も早く借金を完済したいよ(笑)。
Y:借金があると、毎日のように考える時間できる。夜、寝床につく時とか。まあ、いくら考えても借金が返せるわけではないんだけど。だから今、クレジットカードが怖いというか、現金のほうが無くなったら抑制ができるし、安心する。
M:「カードの請求額が確定しました」みたいなメールが来るとね。「今月はどれを『リボ」申請しようかなぁ」と悩んでしまうし。
L:別に俺らはめちゃくちゃ贅沢な暮らしをしようなんて考えてない。借金は、日々の積み重ねなんだと思います。普通の生き方に、たまに欲しい服を買ったり、お酒を飲んだり。そういうちょこっと背伸びをたまにするだけで、借金ができる。
M:確かに、俺らって豪快な理由で借金してないよな。
P:ちょっと、しょぼいかもな。
L:男でいえば、ここ(渋谷)には全身ブランドもので身を固めている人が目につくけど、彼らもほとんどは俺らと同じ、見栄を張ってるだけだと思う。話してみると、オープンにしていないだけで、みんな結構お金を借りている。
M:リボ払いに、消費者金融。周囲で借金をしている割合って、もうヒドいくらい多いよ。まあ、美容師の友達なんかは、正社員でも手取り15万円くらいしかもらえないって聞いたし、仕方ないかもしれない。
Y:昔、居酒屋でバイトをしていたけど、どんなに頑張っても正社員の給料の3分の1とかザラじゃない?
L:俺らはやりたいことやってるからいいんだけど、やりたくないことを仕事にしている同世代の人から見れば、今の給料があまりに安すぎると思っているはず。だから、趣味とかにお金なんてかけられないから、毎週末のパチンコと酒が楽しみ、ってやつはすごく多い。
P:苦しそうな感じはけっして出さないけれど、女の子も給料の低さを感じてるんじゃないの。昼と夜とで仕事をする子は、本当に多くなった。会社を定時で帰ったら、そのまま水商売などのお店に出勤するってスタイルが、もう一般的なのかもしれない。
M:「夜はどこそこで働いている」とか、隠すことなくラフに言う子は多い。
Y:働いている理由はさすがに聞けないけど(笑)。でも今時な話でいえば、インスタグラムで映える写真をアップするために、お金をかけてるって子は多い気がする。結局、根っこの部分は男も女も「見栄」が借金の原因があるのかもね。
年金、増税…今の政治に思うこと
L:政治家に対する怒りとかはでないんだけど、「年金とか払うのやめてもいいっすか」と思う。Twitterを見たら「マイナス2200万円世代」って文言があって、俺らは支払った年金が戻ってくる見込みがないどころか、もらえなくなって、マイナス2200万円になる、みたいに書かれていた。
M:自分で年金を支払うかどうか決めることができたらいいよね。将来の自分のことなんだから。
P:周りの奴らも「払わない」って言って、実際に年金を払ってない人もいる。ちなみに俺も払えてない(笑)。
L:これは一個人の意見ですけど、今の政治家は、みんな目の前のこと、自分たちのことが大事なんだなって。俺らのこと、絶対に考えてないでしょ。
Y:現状、俺らみたいに借金をしている人は、今を必死に生きるので精いっぱい。生きる分の金しかない。そこにさらに年金を払う余裕なんて、一切ない。
P:そうそう。だから、実は、俺らの世代は年金免除の申請とか、失業保険の申請とか、公的な届け出のやり方に詳しいんですよ。
Y:そういう情報に詳しい友達が1人は必ずいて、そこから周囲に拡散していく。
M:過去に年金免除を申請した年上の人に聞くとかもあるよね。
L:一方で、お金に困っているからといって、生活保護の不正受給とか違法なことはしませんよ。あくまで、日本の法律の枠組みの中でなんとかしようと考えている。
M:政治の関心ごとで言えば、消費税が予定通り10%に引き上げられたら、けっこう辛いかもしれない。
Y:俺ら全員タバコを吸いますけど、今はだいたい値段が480円? 地味に重くのしかかってくる。
P:俺が税金の重さを肌で感じたのは、意外にもパチンコ屋なんです。消費税が5%から8%に上がった時、いつものようにパチンコ屋に行ったら、それまで玉がよく出ていたホールが、8%になったその日から一気に出なくなって……。税金が上がったことで、台の設定が明らかに厳しくなったんだと痛感しました。
L:やっぱり俺らって、小さいところで少しづつ借金の種を作ってるんだな(笑)。
借金で人間関係は壊れない
L:俺たちはたとえば欲しい服があっても新品じゃ買わないんですよ。というか、買えない(笑)。メルカリを見たり、古着屋さんに行ったりして欲しい服を探す。
Y:買えるなら、新品欲しいけどね(笑)
P:ZOZOTOWNの「ツケ払い」(通販商品の支払いを購入後から最長2ヵ月遅らせて後払いできるサービス)なんかも有効に活用する。
M:だから上の世代より、はるかに安く、お得に物を買う方法を知っている。手元にお金がない中でどうやって生活できるかを考えていると、自然と身に付くんです。
L:家もそう。最初に「初期費用50万円を口座に振り込んでください」とか言われても払えないから、敷金・礼金ゼロの家を探すのは基本。
Y:カード決済、それもリボ払いで対応している賃貸も増えてきているのよね。そうじゃないと、若者が東京で家を借りるのは難しい。
P:それでもお金に困った時は、カード会社や消費者金融はもちろんだけど、やっぱり周囲の人たちから借金することも多い。
L:みんな子供の頃に、親に「人から金は借りるな」って厳しく言われていたはずだけど、日常的に起こるよね。
P:なんというか、昔よりもお金の貸し借りの感覚が緩くなったんじゃない。働いて稼げる金じゃ、生活を維持できなくなっているから。
Y:でも、借金のせいで人間関係がこじれることは絶対にない。俺の場合は、大きい額を自分に貸している人たちが数人いるけど、みんな「音楽への投資だから」くらいの感覚でいてくれる。それに、周りはお互いに借りるし、返すんですよ。一方的な借金はしない。そういう関係を構築できないなら、そもそも貸してくれないから。
M:借りて返す時は、ちょっと色を付けたり、「一緒に飯食べに行こうや」って感じで奢ったり。そういう感じで関係を継続する。
L:金を貸してくれる若者が増えているのかもしれない。例えば、実家暮らしで全然金を使わないやつ。やりたいことがない、欲しいものもない、使うとすれば付き合いで酒を飲みに行く。そういう欲がないタイプって今、結構多いからね。
これからの借金との付き合い方とは
M:クレジットカードの限度額って気が付いたら、上がるじゃないですか。最初、俺がカードを持ったのが20歳の時。最初は使い過ぎても支払えないと思って、
Y:限度額を上げたヤツが大抵借金に陥るからね。
L:最近だと、支払い時に分割払いができなくて、一括かリボかの2択しか選べないトラップカードがある。カード会社もリボ払いを誘導してくるからな。
P:リボ払いの広告もポップでさ、そりゃあ「いいのかな」って思っちゃうよ。
Y:インスタグラムの広告にもやけに流れてくるよ。
P:日本って、お金の仕組みとか流れとか、全然教えてくれないじゃん。だからこういう広告に騙される。だから、若いうちから勉強できる制度を作って欲しい。
L:誰も教えてくれなくて、気付いたら「借金システム」に組み込まれている。みんな豪快な理由で借金なんてしてないんですよ。だから、「老後に2000万円不足する」と言われなくても、やっぱり自分のことは自分でやっていかなきゃどうにもならない。俺らは確かに今、借金がありますけど、そのままにしておこうという気はない。日本の「借金システム」に飲み込まれないよう、今までは正しいと言われていたことが、本当に正しいのか、きちんと判断することが、俺ら世代の生き方なのかなって。
P:俺なんかもう脳みそ溶けちゃってるから、パチンコやめられないんだけど(笑)。やっぱりお金を借りてパチンコ見たな無駄遣いはしないほうがいい。いくら入って、いくら出ていくか、手元にあるお金を計算して使うのって大事。
Y:今自分と直接関係ないものにお金を使いたくなる気持ちはすごく分かる。分かるんだけど、本当にやりたいことに使う借金なら、多分それを返済する気になるし、自分の夢にも近づける。これから借金をする人は、そのことを考えて欲しい。
M:俺は、借金をしてもなお、やりたいことはやってきた。お金が無いからってやりたいことを断念する必要はないかもしれない。むしろ借金を活用して、そのやりたいことに結びつけるべき。俺らがすでに借金がある身なのに、余計にお金のかかる音楽活動を始めたのも、「音楽をやりたい」という思いがあったからで、結果的にこういう場を設けてもらえるまでになった。だから、借金のことは頭の片隅に入れつつ、やりたいことを我慢しないでいい。それが今の若い人たちに伝えたい言葉かな。
取材・文/栗原莞爾、撮影/岡田康且
告知情報
【リリース情報】Tajyusaim Boyz 1st EP『スリルドライブ』
リボで買い、給料日に輝き、「もしもし、どうすか?」と催促の電話に怯える日々、彼らの人生そのものが“スリルドライブ”、ゆとり世代の財布にゆとりは無い! 待望の1st EPとなる『スリルドライブ』は、trackとproducerをSlendermanbeatを迎え、trackはK-FORCEとの共同制作となる。
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