衆議院議員の丸山穂高氏が5月11日、北方領土の国後島を訪問中、「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」などと発言し、所属していた日本維新の会を除名された。いまだ波紋の収まらないこの事件の本質を、作家・佐藤優氏が、丸山氏の発言内容だけでなく国益の観点から指摘する。
ロシアでは「戦争扇動」は犯罪になる
佐藤:この事件は本当に深刻で、問題は「発言」じゃないんです。発言した場所が北方領土でしょ。丸山さんは、敷地の外に出ようとしていたんですね。
邦丸:鈴木宗男さんなどが尽力して建てた日ロ友好の家、一時期は「ムネオハウス」ともいわれましたが……。
佐藤:そこから外に出ようとした。これがいちばん深刻な問題なんです。
どうしてかというと、北方領土に関して、日本は「日本領だ」という立場でしょ。だから北方領土に行くときは、パスポートではなくA4の「身分証明書」と、ビザではなくこれもA4の「挿入紙」という紙を持って、「日本国内での移動」ということにしている。ロシアのほうでは、そのA4の紙2枚をパスポートとビザであるとみなしているんです。
しかし、もし北方領土で違法行為があって、日本人がロシアの官憲に拘束された場合は、日本としてはロシアの管轄を認めるわけにいかないから、大問題になるんです。
丸山氏が酔っ払って外に出てしまっていたら、保護・拘束されたかもしれませんよね。そこでロシアの官憲に対して、「この問題は戦争で解決するしかないよな」とでも言ったら、確実に逮捕されて起訴されますよ。なぜならロシアの法令では、戦争を扇動する発言は禁止されているから。
邦丸:ははあ。
佐藤:つまりロシアでは、丸山氏の発言は犯罪なんです。第二次世界大戦で3000万人が殺されていますからね。
もしもそういう事態になったら、ビザなし交流の制度はなくなり、日ロの北方領土交渉は止まってしまう。彼はそれくらいのことをしでかしたんです。
丸山氏は、施錠されていない他の部屋にどんどん入っていったといいますが、たまたま外には出なかった。飲み過ぎて出られなかったのかもしれませんが、しかし彼の行動によって、もしかしたら北方領土交渉が止まっていたかもしれない。国益の根本に影響があるんですよ。
これは表に出ていない重要な話なんですけれど、実はロシアのガルージン駐日大使が鈴木宗男さんに電話してきたの。
邦丸:東京・狸穴にあるロシア大使館の駐日ロシア大使が、鈴木宗男さんに。