【CEDEC 2021】”IP商品力”は原作キャラの人気や知名度だけでは決まらない! セガが教える「どれだけ売れるか」の分析力


コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、824日~26日の期間、オンラインにて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2021」(CEDEC 2021)を開催した。

本稿では、825日に行われた、セガ・戦略支援部 ビジネス&データ分析1課 課長代行/データアナリストスペシャリストの柴宮朋和氏と、セガ・第4開発2部 マネージャー/運営リーダーの川上普史氏による講演「それ、どれだけ売れるの?」キャラクターIPソシャゲにおけるIP商品力の定量化と取り組みをレポートしていく。

本セッションでは、キャラクターIPを使用したソーシャルゲームにおけるIP商品(=販売するキャラクター)の商品力を客観的に把握するための運営上の取り組みについて紹介した。

まずは川上氏が登壇し、本セッションの要旨を説明。キャラクターIPを使用したソーシャルゲームの運営には、事業上大きな課題があるという。それは、売上がその時々に販売するIP商品力に影響され適切な運営の弊害になるというリスクとなる。そのため、本セッションでは課題解決の取り組みとして、リスクを低減するため「商品力」を定量的に把握する試みについての説明も行う。主に個人の売上データを用いた定量化するためのクリアすべき具体的な課題と統計的分析手法を用いた対策方法について解説。定量化した商品力指標の運営上の利用例を紹介していく。



まず、IP商品の売上リスクにはどのようなものがあるのか。実務における課題発生までの状況を説明していく。その前提条件を下記のように設定した。



一般的なソシャゲでは、ゲーム内のパラメータなどに価値を付けることができる。これらはIPソシャゲにおいても付与することはできるが、原作における人気や知名度の方が売上への影響が大きいと考えたという。これは、IPソシャゲをプレイするユーザーの多数が原作のファンであり、原作の先入観やイメージが強いと考えたためであると川上氏は解説。

原作での人気や知名度が価値になるのであれば、販売するIP商品の選択が重要になる。そこで、IPに関する情報収集を行い、ファンコミュニティや人気投票ランキング、キャラグッズの販売状況など、原作に関するさまざまな情報から人気や知名度を予測。この予測に対して、IPに詳しい人材に感想を聞き、最終的にゲーム独自の商品優先度、売れる順番を設定して販売商品を選択した。



そこから、商品優先度や過去の販売実績をもとに売上を予測して格付け。各月の売上目標に合わせて商品を設定していったという。


▲例えば、商品Dの売上を予測する場合、優先度がCEの間に来るため、売上の期待値も同じ位置に来ると予測される。

そうして実際に販売してみたところ、予測通りの売上だった商品もあれば、予測から外れた商品もあった。思っていたよりも予測に対するバラつきの幅が出たことで今のままでは計画通りに着地できないケースも考えられ、リスクがあることが分かったとのこと。そこで、どうにかバラつきの幅を減らし、リスクを低減できないかを考えていくことに。



ここで川上氏は、先ほどIP商品の選択の際に「人気や知名度」のデータを使用したが、そのまま売上に直結しないケースがあったことに着目。人気や知名度だけでは売上予測に不十分と考え、IP商品における「売上をつくる力」が何なのかを把握して予測に活かしたいと考えたという。

以下は「売上をつくる力」に求められる要件。

IP商品の売上をつくる力=IP商品力を把握する
▶分かりやすい定量的指数に

・指数が売上リスクの低減に役立てられる
IP商品の人気や知名度ではなく売上を反映する指数であること。簡単に売上予測や検証に使えること

上記の2点を要件として、売上から逆算してIP商品の売上をつくる力を推定して指数を作る検討を進めた。

ここからは柴宮氏が登壇し、リスクへの取り組みについて解説。まずは、商品ごとの売上データがどういった構造になっているかということを考えたと話を進めた。



上記の通り、商品の売上が発生するプロセスには、個人レベルのさまざまな違いが含まれ、それが個人の支払額として反映され、商品の売上に影響していると考えられた。さらに、商品販売のタイミングによって、集団の個人と人数は異なる。これらの点から、売上データからIP商品力を作るには、個人レベルの売上データを考える必要があるという結論に至った。



個人の売上データからIP商品力を考えるにあたっては、IP商品力以外の要素で個人の売上データへ影響するものを考える必要がある。つまりこれは、IP商品力を考えるうえでクリアしなければならない課題と言える。それが以下の2点となる。

課題①:個人の売上データの観測メカニズム上の問題
課題②:個人の売上に影響する他の要因の存在

そこで、続いてはそれぞれの課題の詳細を見ていくことに。

【課題①:個人の売上データの観測メカニズム上の問題の詳細】
当然のことながら、売上データは正の数値として発生するため、マイナスは発生せず、0~上限なしの数値になると仮定できる。これは、売上データである支払額が、その商品を入手したと想定したときに期待される利得が、入手しようとした際に想定されるコストを超えた場合にのみ観測されると考えられる。つまり、そもそも支払いをするかどうか、0かそれ以上がという部分に壁ができてしまい、データ上0円と記録されている部分も本当に額面通り0円と受け取って良いのかという疑問が浮上すると柴宮氏は語る。

こういったメカニズムを無視して各商品のIP商品力を考えようとするとバイアスがかかる。この問題を考慮するためには、商品に対して個人の売上数値が0なのかそれ以上なのか説明できる状態にする必要がある。 


▲例として、意図をもって入手想定コストを下げれば支払いのハードルが下がって0円の人が減る。逆の場合は0円の人が増える結果となるだろうと柴宮氏は述べた。

【課題②:個人の売上に影響する他の要因の存在の詳細】
IPソシャゲはIP商品力が売上に大きく影響するとはいえ、他の要因も影響がある以上、できるだけ考慮する必要がある。そこで、個人の売上を分解し、下図のような売上影響要因があると考えた。



この中でも知りたいのは”IP商品力のみの影響である。考慮できる要因は複数あるが、その中でも「販売たてつけ」や「ユーザー購買力」のような定量的に把握できそうなものに絞っていく。

そこで柴宮氏は、まず「販売たてつけ」についての説明を行った。これは単純に販売の設定の違いとなる。とりわけソシャゲでは、IP商品力の強い商品を販売する機会、いわゆる「フェス」と呼ばれるもの、それと合間を繋ぐ商品を販売する機会がある。そうなると当然、販売の仕組み上の問題に売上が影響されてしまうため、このたてつけを考慮する必要がある。



次に「ユーザー購買力」について。これは、個人の購買意欲とも言える。人それぞれお財布の差が異なるため、支払い可能な金額も違う。さらに、購買意欲は時間的な要素で変化すると考えられる。こうした個人の購買力の違いが売上に影響するため、これも考慮する必要がある。しかし、購買力がユーザーごとに明確に定量化されているわけではないため、あくまでも抽象的な概念となる。



そこで、見える購買データで代用することに。利用されたのは「RFM」と呼ばれるもので、これは顧客関係管理やマーケティングの分野で使われている購買データと分析の手法である。Rは「リーセンシー(直近の購買からどれくらい時間が経ったか)」、Fは「フリークエンシー(何回買ったか)」、Mは「マネタリー(いくら買ったか)」を指す。これらの購買データから「購買しやすさ」「購買額」の2つのパラメータを作ってユーザー購買力の代用とした。



購買しやすさのパラメータは、各個人のRFから求める。シンプルな購買パターンを仮定し、データの観察タイミングでゲームを遊んでいそうな人に対して購買回数を購買可能だった期間で割っていく。



一方、購買額のパラメータは、各個人のMFから求める。これは、単純に各個人の各販売たてつけでの平均支払額となる。



ここまでは個人レベルの売上からIP商品力を考えるにあたって、データ上に存在していた課題①と②の詳細を見てきた。次に、これらの課題が個人の売上に対してどのように関係し、影響するかを下図のように表現する。



こういったモデルを想定して統計的な処理を行うことでIP商品力を推定していく。


▲このような手法は「タイプ2 To bit」と呼ばれる。

続いて柴宮氏は、推定したIP商品力指数が本当に良いものか、使えるものかを評価する方法を解説していく。

まずは、推定したIP商品力でもとにした売上を統計的に予測できるかで評価する。IP商品力指数で売上が全く予測できないようであれば、それは最初に定めた要件を満たさない。

次に、人間が利用することを考えて、IP商品力指数が人間の感覚と合っているかどうかで評価する。人間が新しい商品の指数をある程度、予測できなければ、IP商品力指数を作っても意味がないと柴宮氏は話す。



ここからは再び川上氏が登壇し、リスク低減をするためのIP商品力指数を使った運営上の利用と利点ついて話を展開した。

現在、IP商品力指数は、売上予測やラインナップの組み立てに活用されていると川上氏は述べる。従来の予測方法では不足していた部分を今回の予測方法で補っており、信頼性を上げることに繋がっている。

また、IP商品力の数値を出せば予測が可能となったことにより、チーム内でIP商品力指数を予測し合うなど、数字の意識が向上する副次的な効果もあったという。 



さらに、従来の予測方法では人間的な感覚で予測を補正することが多く、精度としては不十分だった。IP商品力指数を活用したことで、計画・予測・振り返りが容易となり、予測精度が改善されたことで、先々の商品設計に反映できるようになった。

最後に、従来は売上の予測と結果で50%以上のバラつきがあった商品もあったが、約7割の削減に成功し、売上リスクを低減することができたとして講演の締めとした。。



以下は本セッションのまとめ。


 

(取材・文 編集部:山岡広樹)

 

会社情報

会社名
株式会社セガ
設立
1960年6月
代表者
代表取締役会長CEO 里見 治紀/代表取締役社長執行役員COO 内海 州史/代表取締役副社長執行役員Co-COO 杉野 行雄
決算期
3月
直近業績
売上高1916億7800万円、営業利益175億3900万円、経常利益171億9000万円、最終利益114億8800万円(2023年3月期)
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