早いもので、辞書のトップメーカー・三省堂が実施する「三省堂 辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2022』」選考発表会が目前に迫るとともに、無関係の個人・ながさわが勝手に実施する「ながさわ 辞書を買う人が選ぶ『ぼくのかんがえたさいきょうの今年の新語2022』」ベスト10の選定が行われました。
今年は、ロシアのウクライナ侵攻や安倍晋三元首相銃撃事件といった重大な出来事があった一方、一般語としては、誰もが今年のことばとして想起する語句に乏しく、選考は難航をきわめました。しかしながら、ランキングとしては納得のいくものができたと、選考委員一同(一人)満足しています。
今年は『新明解国語辞典』のフォーマットで書いてみました。10位から発表します。
10位 ホカンス
ホカンス[1]〔ホテルとバカンスの混交〕ホテルの館内で、優雅な休暇を過ごすこと。
韓国生まれの造語です。なかなか収まらないコロナ禍の中で注目され、今年になって爆発的に使用例が増えました。実践した人も多いのではないでしょうか。旅行業界の宣伝などでも当面は使われる見込みがあります。
9位 リスキリング
リスキリング[0]〔reskilling〕社会人が、転職や別の業務への従事を念頭に、必要な技能・技術を新たに学ぶこと。学び直し。
キャリアに関する今年のキーワードは「リスキリング」でありましょう。今年6月にはグーグルなどが「日本リスキリングコンソーシアム」を発足させ、10月の岸田文雄首相の所信表明演説では、リスキリングに5年間で1兆円規模の公的支援を行うことが表明されました。
8位 ウ
う【ウ】(造語)ウクライナ。「露―戦争・―軍」[表記]「宇・〈烏」とも書く。
ロシアによる侵攻がきっかけではありますが、「独」「伊」などに準じて、ウクライナを略して「ウ」と表記することが普通になりました。表記は、報道ではカタカナの「ウ」が多く、当て字の「宇克蘭」「烏克蘭」から「宇」「烏」とすることもあります。品詞は造語成分としましたが、他の地名の略表記と同様、ニュースの見出しなどでは単独でも使います。
7位 ビジュ
ビジュ[0]ビジュアルの圧縮表現。〔多く、善し悪しに注目したときの人の外見についていう。広く物についていうこともある〕「推しの―が良すぎる/―爆発〔=人の見た目がとてつも無く良いこと〕」
もともと男性アイドルの界隈で10年以上も前から用いられていた語ですが、推し活の広がりもあって近年用例が急増し、人間だけでなくものの見た目にも用いるようになっています。「まるで四足歩行のロボットを彷彿させるようなビジュをしたこのたき火台」(『Tarzan』2022年1月27日号)は、アイドルの文脈からも遠く、対象が人でもないという点で、「ビジュ」の広まりを象徴する好例でしょう。
6位 トゥンク
とぅんく[1](副)―と―する 予期しない相手の行為や表情などに一時的な胸のときめきを覚える様子。とぅくん。〔口頭語的表現〕「先輩の笑顔に―してしまった」[表記]「トゥンク」と書くことが多い。
一瞬のときめきをあらわす表現として日本語の間隙を埋めていること、また「トゥ」という音が珍しいことから、新オノマトペとしての貫禄があります。辞書編纂者が登場したTBSのテレビドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』でも、「最近はトゥンクトゥンクと表現する」と言及されていました。KADOKAWAのBLドラマレーベル「トゥンク」が始動したのも今年です。「ニコニコ大百科」での立項は2015年と早いですが、広く定着したと判断できたということで入選です。「どくん」や「とくん」すら載っていないのに何なんだという話にもなりますが。国語辞書はオノマトペに弱い。
5位 インボイス制度
インボイス せいど[6]【―制度】仕入税額控除制度の適用を受けるのに、課税事業者である仕入元による適格請求書(インボイス)の発行を必要とする制度。適格請求書等保存方式。〔売上高が少ない免税事業者はインボイスを発行できず、取引先が仕入税額控除制度を利用できないことから、取引において課税事業者に対し不利になることが懸念される〕
2023年10月から開始が予定されています。マジでやめてほしい。
4位 NFT
エヌ エフ ティー[5]〔←non-fungible token〕ブロックチェーン技術を用いて発行・取引される、非代替性のデジタルトークン。デジタルデータに唯一性を付与するものとして、デジタルアートなどに用いられる。非代替性トークン。「―アート[7]」
注目され始めたのは2021年の半ばごろで、昨年入選してもよかったところですが、定着を見極めた上でのランクインとなりました。
3位 〇〇構文
こう(オ) ぶん[0]【構文】(一)△文(文章)の構成。主部・述部・副詞の照応や、上下句のかかりぐあいなど。(二)俗に、そのものに特徴的な文章上の形式を広くいう。「おじさん―[5]〔=主に中年男性が目下の女性に宛てて書く電子メッセージに見られる、親近感を演出して絵文字を多用したり 終助詞を片仮名で表記したり する文章上の特徴。「おっさん構文」とも〕・ご不快―[5]〔=ある種の謝罪文に典型的に見られる、「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」などの、受け手側に責任を転嫁していると取られ得る言い方〕」
早くからあった「おじさん構文」に続けとばかり、2019年頃から今年にかけては、「(小泉)進次郎構文」「ご不快構文」「メフィラス構文」「ちいかわ構文」など、さまざまな構文が百花繚乱でした。これらの多くは専門的な意味での「構文」、たとえば「分詞構文」というようなときの「構文」とは異なり、かなり漠然とした概念であり、従来のものとは別義とみる必要があります。これが生産性を獲得したことにより、いろいろな文章上の特徴を「〇〇構文」の形で一言で言えるようになりました。革命的なことです。
2位 把握
*は あく[0]【把握】―する(他サ)〔しっかりとつかむ意〕〈なにヲ(なんだト)―する〉(一)〔高度な内容の文章や複雑な情勢などを〕すぐれた能力で、要点を正確に△理解する(知る)こと。(二)〔単なる事柄を〕知っておくこと。「『明日は駅前に八時集合でお願いします』『―しました〔=わかりました。「把握です」などとも〕」[運用](二)は、最近では、相手に必要な事項を伝達する際に、「ご承知おきください」よりやわらかい言い方として、「把握お願いします」などの形で用いられることがある。例、「上記、把握よろしくお願いします」。また、相手が連絡事項を了解したことに対して、「把握ありがとうございます」のように言うこともある。
おそらくここ数年で、連絡事項を伝える/伝えられるときに、「把握お願いします」/「把握しました」のように言うことが一気に広まりました。敬語としてこなれていないと抵抗を感じる人も多かろうと思いますが、若い世代からは「全く違和感がない」という証言を複数得ています。口うるさい人に発見されると「誤用だ」とかまびすしく言われるようになるかもしれませんが、近いうちにしれっと普通の敬語になりそうな情勢とみて、堂々の2位です。
大賞 てもろて
て[一](接助)
【―もろて】〔もと関西方言〕〔終助詞的に〕そうするようやんわりと相手にうながす意を表わす口頭語的表現。「ちょっと忙しいんで、悪いけど資料作っとい―/それは勝手にし―」
もともと関西方言で、必ずしも文末表現というわけではないのですが、なぜか文末につけて相手に物事をやんわりと指示する言い方として定着しつつあります。昨年末には、本家「今年の新語」選考委員の飯間浩明氏が、「私個人が注目するニューカマー」に挙げていました(「朝日新聞」2021年12月23日朝刊 p.25)。対人コミュニケーションにかかわる重要な文末表現ということで、大賞にふさわしいフレーズです。
「egg流行語大賞2020」で第3位(「~させてもろて」)、「2020年ティーンが選ぶトレンドランキング」(マイナビ)の「流行ったコトバ」編で第2位(「~してもろて」)と、若干出遅れた感もありますが、定着を見極める「今年の新語」としては、まあこのあたりで入選というのが妥当ということで、許してもろて。
惜しくも入選を逃した「選外」も発表します。
選外 知らんけど
ジャニーズWESTの楽曲のタイトルになり(「しらんけど」)、ユーキャンの新語・流行語大賞にノミネートされるなど、確かに流行しています。今年のことばという印象こそあるものの、フレーズ単位でありやや辞書に載せにくいこと、一過性の流行語であるかもしれないことから、惜しくも選外となりました。知らんけど。
選外 タイパ
タイムパフォーマンスの略で、「タムパ」ともいいます。Z世代の若者の行動原理をいう語としてしばしばメディアで取り上げられましたが、少なくとも自分が接する当の10〜20代はこの語を「知らない」と言い、ツイッターなどで使用例を見ても間接的な言及のほうが多いようです。今後、メディアを通じて広まっていく可能性はありますが、使用実態に疑問が残り、選外とします。
選外 組み戻し
全国的な注目を集めた阿武町の誤入金問題の報道で使われたことばで、耳新しい印象もありましたが、ことばとしてはどうも大正時代から例があるようです。辞書に載っていてもよさそうなものですが、ほとんどの国語辞書に載っていません。辞書に反省を促す目的で、あえて選外として記録します。
本家ランキングの発表はいよいよ2日後。意外な語の入選にアセアセしたり、はにゃ?となったりするのか、あるいは一致しすぎてきまZな感情になるのか、11月30日が楽しみすぎてきゃぱいですね。