「異世界ファンタジーに日本語や外来語が出てくる問題」の7つの解決法(※ステマ注意)
(※この記事はメジャータイトル25本からお勧めする最近のなろう小説に便乗した幻想再帰のアリュージョニストのステマです)
たまに創作界隈で話題に上るテーマとして、異世界ファンタジーに日本語や外来語が出てくる問題、というのがあります。
要は異世界を舞台とした設定のフィクション(特に小説)に日本(や諸外国)の文化背景特有の言葉が出てきてしまう問題です。仏教のない世界で「仏の顔も三度まで」という表現が出てくるのはおかしい。コンピュータも英語も知らない登場人物が「マルチタスクが苦手」とか言い出したら違和感を覚えるでしょう。「社会」「文明」などの熟語も外国から輸入した和製漢語なので避け、やまと言葉のみを使うべきである。いやいやそれを言うなら、そもそも異世界の物語をで日本語で記述すること自体がおかしいやんけ、等々。
もちろん、日本人向けに作られたフィクションを日本語以外の言語で記述するのは現実的ではありません。古グラナリア語が話されている世界の話なので地の文やセリフもちゃんと古グラナリア語で書きました、とか言われても誰も読めません。よって異世界ファンタジーの作り手は、「ここまでの言葉なら使ってもOK」という"線引き"をどこかでする必要があります。
解決法1. 深く考えない
まあぶっちゃけ気にしなくてもある種の異世界ファンタジーは作れます。言語うんぬん以前に、文化背景レベルで滅茶苦茶やっても結構なんとかなります。特に和製ファンタジーの場合、「中世ヨーロッパ風の世界」と言いつつ古代や近世の要素がごちゃまぜになってることなんてよくありますし……。
たとえば今日び、異世界ファンタジーにサムライやニンジャが出てきたり「ファイヤーなんとか」みたいなカタカナ英語が出てきても、それで即「世界設定が破綻している」と批判されることは滅多にありません。「東方風」の文化を持つ国が存在したり、魔物や魔法の名前が普通に英語表記されてたりするのなんて、もう一種のお約束と化してる感すらあります。
この辺のラインだと、設定の整合性を突き詰めるよりも「その世界のノリ」に納得してもらうことのほうがよほど大事に思えます。実際そうやって受容されている作品はいくらでもありますね。
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解決法2. むしろ積極的に混ぜていく
あるいは、「これはこういうものなんだ」と積極的に開き直って多言語、多文化をごちゃ混ぜにした世界観を示していくスタイルの方が、逆に受け入れやすかったりするかもしれません。要は受け手が想定しているリアリティラインと作中描写のギャップから生じる違和感が原因なのですから、最初からそこが徹底的に崩れているところを見せつけてやればよいのです。
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解決法3. 特定の言語のみで記述する
なんか言語というより文化の話を続けてしまいましたが、言語と文化には密接な関わりがあるし、作品の文化背景がテキトーであることを明示できれば言葉にはそこまで気を遣う必要はないという話でした。でも作品世界をがっちり練り込んで、設定や雰囲気の緻密さをウリとしていく作風の場合そうはいきません。
ひとつの線引きとして、「日本語読者向けの作品だから日本語の使用だけは例外的に認める」という方針が考えられます。カタカナの外来語を排除するだけでも、実際かなり引き締まった文体になるでしょう。あるいは、「西洋"風"ファンタジーだからカタカナ英語も認める」としてもいいかもしれません。もちろん異世界現地の言語も使用できます。
とはいえ、日本特有の文化を前提とした言い回しや、外国由来の概念を和訳した熟語なども沢山存在するため、言葉の歴史的経緯などを突き詰めていくと語彙選択の判断はかなり難しくなってきます。「矛盾」は中国の故事成語に由来してるからダメだとか言い出すと、使える語彙はかなり限られるでしょう。迂闊に仏教由来の言葉を書いちゃったばかりに作者の死後までネタにされちゃう怖ーい世界です。
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南無三!
解決法4. 日本語話者を主人公にする
日本人が異世界にワープしたり転生するタイプの作品だと、「主人公の一人称によって地の文を記述する」ことでかなり無理なく言語の問題をクリアできます。もちろん現地の人々は現地の言葉を喋っているはずですが、主人公本人にさえ理解できていれば「日本語で認識し直している」という体裁で日本語一人称の記述を理由づけることが可能でしょう。
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『ハーモニー』は日本語話者である霧慧トァンによる一人称小説です。異国語で交わされる会話も頻繁に描写されますが、作中での表記は当然日本語。本作は日本語がどうとかよりも「一人称で記述された小説」として面白い仕掛けがあるわけですが、そこは読んでのお楽しみ。ていうかこれ別に異世界じゃなかった*1。
もうひとつ例を挙げると、最近のなろう小説*2の中でいちばん面白いと私の中で話題の『幻想再帰のアリュージョニスト』の主人公、シナモリ・アキラもこのタイプです。本作の序盤では、転生事故で言葉も通じない異世界に飛ばされたアキラが四苦八苦しながらもなんとか現地人とコミュニケーションをとっていく様子が、彼自身の日本語一人称で語られていきます。
解決法5. 異世界語が日本語に翻訳されているという設定にする
何らかの方法で、異世界の言語が日本語に翻訳されているという理由付けをするタイプの解決法です。翻訳コンニャクですね。主人公の頭の中で翻訳しているという意味では、前段の「日本語話者を主人公にする」方法もこの分類に含まれるかもしれません。
世界や国が変わるたびに通訳や言語学習の泥臭い描写説明を入れるのは結構大変です。特に物語の大事な導入部で「言葉が通じなくて大変〜」みたいな描写に筆を割いてたらほんとに書きたいことが書けなくなったりもするでしょうから、便利な翻訳魔法でぱっと理由付けしてしまう作品はけっこう多いと思います。
拷問者の影(新装版 新しい太陽の書1) (ハヤカワ文庫SF)
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「異世界の小説を翻訳したもの」という解釈が便利なのは、作中に一切そんなことが書かれていなくても読者の頭の中で「そういうことにしておく」ことができる点です。言語的に納得のいかない表現があっても、「これは翻訳者が悪いんだ」ということにしてすればとりあえず整合性はつけられます。今後もし異世界作品で「韋駄天」みたいな表現に出逢ったら、作者ではなく翻訳者のせいにしてしまいましょう*3。
『幻想再帰のアリュージョニスト』というWeb小説には「心話」という一種のテレパシーが登場します。これは対象者の言語的文化背景に応じて適切な語彙を選択し、「意味」を相手の頭に流し込むという呪術です。異世界では「槍と沼」のたとえを用いて表現されている概念が、対応する日本語の概念として「矛盾」という言葉に翻訳されるといった塩梅。こういう設定があれば、「南無三」だろうと「チューリングテスト」だろうと、あと「ステマ」とか便利な文化依存の言葉が使い放題になるというわけですね!
解決法6. 逆に異世界人に日本語を喋らせる
逆転の発想として、異世界に日本語を浸透させることでみんな日本語を喋っている、という状況を作り出してしまうパターンも考えられます。日本語を喋る、ということは文化背景のある言い回しや日本語に取り込まれた外来語等も扱えるということになるので、中国由来の故事成語はどう扱うべきか等の諸問題が一挙に解決してしまいます。私の知るところでは、
という最近のWebライトノベルがこの方法を採用しています。アリュージョニストの世界には呪術的な言語翻訳ネットワークみたいなものがあって、その世界の言語辞書プールに「日本語」を登録することで現地人が勝手に「日本語」を喋り出すという仕組み。
一方で、異世界の住人同士もこの方法でコミュニケーションを行っているため、ひとたび呪術的ネットワークに異常が生じると突然何万人もの人間が意思疎通不可能になってしまう、といったこの世界特有の「災害」の描写などもあります。普遍的で絶対的な上級言語の開発と、それによる人類の思考の枠組みの進化、などは本作のテーマのひとつにもなっていて、単純に日本語表記の問題を解決するに留まらない要素となっています。
「ああなるほど、ってあれ? じゃあ『今、ここにいる俺』は過去なの? 現在思考しているように感じられる俺自身は未来にいる俺が感じている記憶ってこと? なら俺はどこにいるの?」
「ハイデガーでも読んでればいいんじゃないですか(適当)」
「あっこれ俺の脳内妄想だ! 異世界人がハイデガーとか知ってるはず無い!」
「わかりませんよ、現世界でハイデガー的立ち位置にいる存在が提示され、それが翻訳された可能性があります」
とまあこんな感じで会話が成立したりしなかったり(厳密にはこの会話は「日本語を辞書登録するために日本語の会話を解析しているシーン」ですが)。世界に「日本語」を習得させることは、「日本語」の持つ文化背景や思考基盤、ひいては現地から見た「異世界人(ゼノグラシア)」である主人公の存在そのものを世界に浸透・定着させることも意味します。技術流入が異世界文明に影響を及ぼす物語の文化版……であるだけでなく、主人公自身が間世界的アイデンティティをどのように確立するかという問題にも繋がってくるところが、このアイデアの面白いところです。
解決法7. 典礼言語扱いする
「解決法1」でも触れた話ですが、かなり世界設定に凝った作品でも「英語」をわりと平気で出してくる作品は沢山あります。英語圏の作品ならもちろん仕方ないとして、和製ファンタジーでも技名魔法名魔物名モンスター名その他諸々を「英語」で記述するのはほとんど当たり前、という文化が日本にはあります。
ファンタジーの概念自体を主に欧米から輸入してきた歴史的経緯が絡んでるんでしょうけど、もっと単純に「僕の考えたかっこいいカタカナ英語を使いたい!」という欲望が存在するであろうこともたぶん無視できません。かっこいい異世界言語を考えるのも面白いですが、「エターナル・フォース・ブリザード!」みたいな英語の必殺技名を叫ぶことにも抗いがたい魅力があります。あるんですよ。「永久凍結大力法呪(エターナル・フォース・ブリザード)!」とか漢字にルビまで振れれば完璧です(鼻息)。
こういった要求に応えるためには、単純に漢字や英語を排除するのではなく、むしろそれらの言葉が異世界で用いられている状況についての積極的な理由付けが必要になってきます。ただし基本的には異世界語を喋っている設定なので、どうにも整合性が付けられない……そんな時に取り得るひとつの方法は、思い切って英語や漢字をある種の「典礼言語(?)」として扱うことです。
大雑把に言うと、日常言語としては使用されていなのだけど、宗教的、神秘的文脈においては「秘された言語」として儀式的に使用されていることにするパターンです。仏教におけるサンスクリットの梵字や真言のように、あえて現地語に翻訳せず原語のまま記述・発音することである種の意味や力が生まれるという発想を利用するわけですね。この発想をうまく活かすことで、異世界言語が交わされる世界に無理なく私たちの世界の言葉を混ぜ込むことに成功している作品があります。それが
この作品世界には、日本のマレビト信仰などと同様、「異世界から来たものは力を持つ」という呪術的思考が存在します。そのためローズマリーとかベアトリーチェといった「異世界風」の命名をすることで子供の呪術的存在強度を高める習慣があったり、呪術的儀式に異世界言語を取り込むことで他世界文脈の参照を可能とする手法が定番化していたりするわけです(つまり、この世界では「異世界」の存在が古代から認知されていることになります)。ですから、アリュージョニスト世界で何の説明もなくいきなり
「喰らえ必殺! 聖絶の神火(サクリファイヤー!)」
えっ何そのノリ。さっきの内功云々といい、俺はこの世界のジャンルがよくわからなくなっていた。いやジャンルとか無いのか? 考えてみれば一人のデザイナーが整えた異世界というわけじゃないんだよなあ、ここって。
天然ものの世界に統一感を期待する方がおかしいのかも知れない。
みたいな文章が出てきても全然驚くに値しないんですよ!(強弁) いやほんと。
で、主人公自身もまた「異世界人」であるため、その存在と文化的背景自体が呪術的意義を有しています。そこで主人公の特殊性に目をつけた複数の勢力が云々かんぬん……というのが作品の本筋に大きく絡んでくるため、言語や文化背景、あと意思疎通とか存在承認といったモチーフに、本作はかなり多くの描写を割いています。日本語による異世界記述の問題について複数のアプローチから解決を試みている点なども、好き者には魅力的な要素かもしれません。ボルヘスとかレムとか好きな人にもお勧めかも。
という感じで、「異世界ファンタジーに日本語や外来語が出てくる問題」について、思いつく解法と対応する作品を適当に並べてみました。いくつか重複してしまいましたが、いずれも言語の取り扱いに限らない魅力に溢れた作品なので是非触れてみるとよいかと思います。それではよい異世界体験を。