経済安全保障、サプライチェーンの再構築などが口やかましく言われるようになりました。米中対立が長期化し、ハイテク製品の輸出管理が強化されるなどして激しさを増していることが背景にあるようです。
「カリフォルニアで製造業復活」米テック富豪ら都市計画、住民当惑 - 日本経済新聞
米国シリコンバレーでは、「ハイテク製造業を復活させる」計画があるそうです。トランプさんが推進するアメリカファーストからして、こうなるのも自然な流れなのでしょうか。どんな結論が待っているのか、たいへん気になります。
日本では国策半導体製造会社のラピダスが立ち上がり、半導体生産が強化されようとしています。日米協議で、衰退した造船業の復活に日米が協力することが決まりました。
国内造船業、復活なるか 人手不足や脱炭素課題―日米協力合意、秋めど工程表:時事ドットコム
経済安全保障を考えてのことというところでしょうか。一度衰退した産業をそう容易く復活させることができるのか、国の実力が問われそうです。
よくよく思い出してみれば、コロナパンデミックではマスクなど様々な物品の入手が困難になりました。経済安全保障云々の前に、今あるサプライチェーンが最適なのか、よくよく考えてみるべきなのでしょう。地政学リスクを考慮することは当然として。結局、必要なものが、必要な時に、リーズナブルな価格で手に入れることができなければ、サプライチェーンとしては適切とは言えないのですから。グローバル化の時代であろうがなかろうがです。
しかし、現実はやはり厳しいのでしょうか。経営再建中の日産自動車が、業績改善に向けた重要車種の一つである新型リーフの生産計画を大幅に下方修正したそうです。理由は、基幹部品の電池の供給が遅れているといいます。
日産の新型EV「リーフ」、電池不足で生産数半減 経営再建に足かせ - 日本経済新聞
電池メーカにおける生産設備が安定稼働せず、生産歩留まりが低迷していることによるそうです。
蓄電池は、国の経済安全保障における「特定重要物資」と位置づけられています。EVの普及や再生可能エネルギーの導入拡大に欠かせないものであるからといいます。しかし、のっけからつまづいています。これでは強靭なサプライチェーンどころではありません。技術力の低下を感じずにはいられません。それに加え、サプライチェーンマネジメントがきちんと実行されていないともいえます。先駆的企業の組織、体制をきちんとベンチマークし、技術の底上げから始める必要がありそうです。
論語でまとめ
人の過つや、各々其の党に於いてす。過つを観れば、斯ち仁を知る。(「里仁第四」7)
人が犯す過ちには、仲間や環境、あるいは人間性が色濃く反映される。その人の性格や仲間との関係性によって、同じような過ちを犯す傾向があるといいます。その人の過ちがどのようなものであるかをよく観察すると、その人の仁(人間性)がどのようなものであるかがわかる。成功した時の態度よりも、失敗したとき、過ちを犯したときの態度や行動こそが、その人の本質をよりよく表していると孔子は言いました。
その過ちをどう捉え、どう対応するかが、その人の人間性を測る重要な手がかりになるということです。近年の日本が低迷を続けるのはこういうところに理由があるのかもしれません。企業も政治も人事の刷新が求められていそうです。孔子に従えば、優れた人格、人間性を持つ者を択べということなるのでしょうが。リーダーの選定基準を明確にすべきなのかもしれません。
国家資本主義の時代
これからは、政府とビジネスの関係性が一層重要になっていくといわれています。特定の国への過度な依存によるリスクの顕在化が指摘され、特に中国への依存度が高まっていることが背景にあるといわれます。多くの産業において、中国がすでにグローバル市場で大きなポジションを占有するようになっています。サプライチェーンの原則からしても、あまり好ましい現実ではありません。国の支援が求められるようになったのは、こうした中国と競争しなければならなくなったこともあるようです。もはや企業単独では厳しいといわれています。
この他にも「自由経済至上の限界」「経済活性化と新産業創出」「社会課題解決のための官民連携」「グローバルなルール形成」など、政府がビジネスに関与すべき理由がいくつもあげられています。こうした要請に、政治、官僚は応えることができるのでしょうか。現状をみえれば危うそうに見えます。政府の役割を再定義し、そのための人材を準備する必要がありそうです。企業も政治に依存、解決を求めるのでなく、上手に利用する術を学ぶべきなのでしょう。
世界ではダイナミックにサプライチェーンの強靭化が進められ、大きなパラダイムシフトが起きているようようです。日本では、たんにトランプ対策との面からの思考になりがちですが、それではますます世界との距離が開くことになりかねません。
サプライチェーンの再構築とは、たんなるDXの推進ではありません。それだけでは、サプライチェーンの究極の目的が達成されません。より強靭で、競争力あるものに変容させるためには、Q(品質・性能)、C(コスト・利益)、D(デリバリー、納期・リードタイム)を徹底的に追求し、突発事故に対するレジリエンスを高めておくことが求められます。
日本再生へのヒントはこういうところにありそうです。そのための学びを続け、それをもとに継続的に評価し、改善も欠かせないのでしょう。「王国復活」はその先にあるのかもしれません。
「参考文書」
日産、新型車リーフの生産半減に EV向け電池不足が影響し英国工場でも遅れ - 産経ニュース
日本の蓄電池産業の"勝ち筋"とサプライチェーン強靱化に向けた取り組み~蓄電池産業の課題と競争力強化のシナリオ~|ネクスト・ジャパン最前線
トランプ政権は関税で失墜する 歴史家ニーアル・ファーガソン氏 - 日本経済新聞
米国で変化する政府とビジネスの力学 — シリコンバレー台頭と日本が学ぶべき新秩序 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)