今年もこの季節がやってきました、年の瀬の恒例企画「市販薬ニュースTOP10」。その年の重要な市販薬の情報を私が独断で選んでお届けしています。
さて、2024年は新商品が豊作でした。これまでの市販薬の新商品というのは、従来の製品のマイナーチェンジや、成分はほぼ同じでパッケージだけが目新しいものが多かったのですが、今年の新製品は従来とは異なる目新しさがハッキリありました。
より鮮明だったのは、医療用のトップブランドの市販化が続いたり、ストロングランクのステロイドが増えたりと、セルフケアの拡充が進んだということです。そんな時代に、どんな備えが必要なのか。よろしければ拙著『その病気、市販薬で治せます (新潮新書)』も、年末年始のお供にお読みください。
それではいってみましょう、2024年、ドラッグストア利用者は絶対知っておきたい市販薬ニュースTOP10!
10位 ヒアレインとタリオンが薬剤師不在で購入可能に
乾き目の目薬「ヒアレイン」と花粉症薬「タリオン」が、薬剤師不在のお店でも購入できるようになりました。第一類医薬品から第二類医薬品に移行したためです。購入しやすくなったぶん、自己責任は大きくなります。とくにヒアレインは、処方薬とは異なり、市販薬バージョンは「ドライアイ」の治療中の人はNGとなっていますのでご注意ください。いままでのように、ある意味、口うるさく注意喚起してくる薬剤師もおりませんでな。
9位 便秘薬「マグミット」発売
病院で処方される便秘薬として、”超”がつくほどお馴染みの「マグミット」が、2月に市販薬として発売されました。処方される薬とは名前を区別して、こちらは「マグミットK」という製品名。成分は以前から他の製品で存在しましたが、あのマグミットブランドが市販薬に!?という驚き。安全性も高く、使いやすい便秘薬ではあるものの、腎臓の機能が衰えがちな高齢者のかたは自己判断での長期連用はお控えください。バカスカ飲み続けて血液中のマグネシウムの濃度が高くなると、吐き気やめまいに襲われます。
8位 「ロキソニン」の風邪薬が発売
解熱鎮痛薬のロキソニンを主体とする総合風邪薬が3月に発売されました。ロキソニンに咳や鼻の症状を抑える成分が配合されただけのものではありますが、そうはいっても、ありそうでなかった製品。カフェイン無配合で夜も飲みやすいのも良し。要指導医薬品のため、ネットでの購入は不可、店頭では薬剤師による製品説明が必須です。
7位 病院の鎮痛薬の雄、「カロナール」が発売
病院で処方される解熱鎮痛薬「カロナール」が、1月に市販薬として発売しました。「マグミット」同様、成分そのものは以前から市販薬に存在するものの、トップブランドの名を冠する製品の登場は衝撃的。数年前、新型コロナが流行した時期は「カロナールを探しています」と店を訪れる生活者がたくさんいましたが、当時はカロナールが処方薬だったので、「その薬は病院でなければ手に入らないんです。でも、同じ成分で別の製品がありますよ」とご案内していましたっけ。なつかしい。それも、いまはむかし。
6位 「ムコダイン」が医療用と同量・同成分で発売
今年は処方薬のビッグブランドの市販化が続きました。1月「カロナール」、2月「マグミット」ときて、きわめつけが3月に発売した「ムコダイン」です。ムコダインは痰切りとして病院で処方されるド定番品。市販化した「ムコダイン去たん錠Pro500」の成分はカルボシステインで1回量500mg。カルボシステインを配合する製品は以前からありましたが、それらの配合量は医療用よりも少なめでした。今回市販薬として発売したムコダインは、医療用とまったく同じ。さいきんは薬局でもカルボシステインの在庫が不足気味なので、ドラッグストアで市販版ムコダインを購入する機会もあるかもしれません。約3日分に相当する10錠入りで1390円(税抜)。というわけで、けっこう高額です。
5位 新しい「イブ」は鎮痛成分モリモリ
頭痛・生理痛薬の鉄板ブランド「イブ」から7年ぶりの新商品が9月に発売。「イブ スリーショット プレミアム」。とりあえずこれだけ言わせて。名前が長い!でも、中身は充実しています。鎮痛成分はイブプロフェン195mg+アセトアミノフェン195mg。同系統のライバル「バファリンプレミアムDX」(どちらも160mg)よりも1回の成分量が多い。イブプロフェンは一般的な使用量が200mgなので、それと遜色ないうえに、アセトアミノフェンがオンされているので、これは効果に期待大。眠気を誘引する鎮静成分も無配合。欠点は1日の服用回数が最大2回というところ。先述のバファリンは1日3回まで飲めますので。
4位 日本初、内臓脂肪減少薬「アライ」登場
内臓脂肪を減らす日本初の薬「アライ」が4月に発売。病院でも処方されることのない、市販薬だけに存在する薬効成分「オルリスタット」の薬です。いわゆる肥満の薬として注目を集めましたが、多くのメディアで取り上げられた理由はそれだけではありません。この薬には「便を漏らす」という副作用があるためです。大人用おむつと一緒に販売するお店もあったほど。それでもメーカーである大正製薬の力の入れようは大きく、発売半年前からブランドサイトを立ち上げ、発売後もマスメディアや店頭でも大々的に広告を打ちました。それから半年・・・。最初の数ヶ月こそ、予算の7割を販売したという景気の良い報道もありましたが、それ以降は音沙汰なし。メディアでも、私の耳にも、「よく売れている」という話は入ってきません。オルリスタットは、もともと海外で売れた成分なので、日本でも売れるだろうという予想が大正製薬にはあったのだと思います。海外でよく売れたらしい→日本で個人輸入する人がいる→それなら日本の市場でも売れるだろう。みたいな。これと同じ方法でドル箱になったのが、同社の発毛剤「リアップ」。で、二匹目のドジョウはいたのか、どうだったのか。
3位 ディレグラ/プソフェキの市販薬版「アレグラFXプレミアム」発売
花粉症薬「アレグラ」の上位版として「アレグラFXプレミアム」が1月に発売。成分は従来の抗ヒスタミン成分「フェキソフェナジン」に、鼻詰まりを改善する「プソイドエフェドリン」を追加配合したもの。この2成分の組み合わせは、病院では「ディレグラ配合錠」や「プロフェキ」という名前で処方されてきました。花粉症や鼻炎でお困りの人は、処方されたこともあるのでは。さて、満を持して発売した「アレグラFXプレミアム」。今年は登場したばかりで影が薄かったように思いますが、今後は利用者も増えていくのではないでしょうか。それから、これはちょっとしたハックなのですが、市販薬は「プレミアム」がつくと、だいたい使用上の注意事項が増えます。アレグラもプレミアムになると、使用上の注意がリッチになりますのでご注意をば。
2位 薬事制度は販売「規制緩和」、濫用「規制強化」へ
薬事制度も新たなルールづくりに向けて爆進中です。たとえば、薬剤師がいない店で、ビデオ通話などを用いて薬剤師と遠隔コニュニケーションを取ると、その場でロキソニンなどが購入できるようになります。これは大幅な規制緩和になるでしょう。いっぽう、依存性が懸念される濫用成分については従来よりも規制を強化する方向のよう。具体は来年以降となりそうですが、現場のオペレーションに与える影響は大きいでしょう。
1位 「タケプロン」「ロゼレム」が市販化へ
胃潰瘍薬「タケプロン」と不眠改善薬「ロゼレム」が市販薬になることがほぼ決まりました。これは驚いた。今年一番驚いた。正直、OKが出るとは思っていませんでした。文句なしで2024年、圧倒的ビッグニュースです。どちらも非常にメジャーな病院の薬です。と同時に、海外では市販薬として販売されています。日本はいま「海外で市販薬になっているものは、日本でも市販化を進めよう」という方向で動いています。この流れは今後も続くでしょう。「え!あの薬が市販薬に!?」現象は、まだ続くかもしれません。
このほかにも、サプリメントの紅麹問題や、ユニークな「のどぬーる鎮痛ドロップ」の発売、アマゾンの薬局参入など、さまざまなニュースがありました。報道された当時は、すごい!と興奮したのに、いまやそれが当たり前になっているものがたくさんあります。というか、それがほとんどです。驚きが当たり前に。こうやって時代が変化していくのでしょうね。来年の市販薬にも、きっと「すごい!」がたくさんあるでしょう。楽しみですね。このブログでも引き続き取り上げていきます。
本年もお読みいただきましたことを、心から感謝申し上げます。
良いお年をお迎えください。