早いもので昨年の3月26日にブログを正式開設してから1年経ち、十万アクセスという予想だにしなかった反響を頂きました。これもご覧になっている方々やコメントを頂戴した方々の賜と、心より御礼申し上げます。
これからも本ブログを宜しくお願い申し上げます。
このところ、自動車メーカー各社が新型のハイブリッド車を相次いで発表していますね。ほんの数か月前まで続いていた異常な燃料高騰により、燃費効率に優れたハイブリッド車両への注目が集まっていることは皆様もご存じのことと思います。
こういった流れを受けてか、このような2009年1月9日、読売新聞に以下のような記事が掲載されました。
自衛隊が、艦船、戦闘機や、基地施設での省エネルギーの取り組みを本格化させる。
戦闘車両のハイブリッド化、代替燃料の開発、部隊車両の電気自動車化の検討にも着手する。温室効果ガス削減に貢献する姿勢を示すとともに、原油価格の変動で部隊訓練などが影響を受けないようにする狙いがある。
―読売新聞2009年1月9日(現在、リンク先記事は消滅)―
この記事を受け、週刊オブイェクトのJSF氏も「自衛隊、ハイブリッド車両の導入検討へ」という記事を出しました。ここで注目すべきは、読売新聞もJSF氏も「戦闘車両のハイブリッド化=省エネ化」という前提で話をしていることです。
しかしながら、「戦闘車両のハイブリッド化=省エネ化」という図式は果たして成立するのでしょうか。私は「自衛隊、ハイブリッド車両の導入検討へ」のコメント欄にも書きましたが、その図式は必ずしも成立するものではないと考えております。
本日は戦闘車両のハイブリッド化は、何のためにあるのかについて考えてみたいと思います。
最初期のハイブリッド戦闘車両
そもそも、戦闘車両のハイブリッド化という考え自体は特に新しいものではありません。以前、「ガラパゴス化しているのは彼なのか?」にも書きましたが、既に第二次大戦中のドイツにてティーガー(P)、エレファント駆逐戦車として実用例があります。しかしながら、この場合のハイブリッド化の目的は低燃費化の為ではありませんでした。ティーガー(P)の開発を担当したポルシェ博士は、摩耗部品である機械式変速機をティーガーの様な重戦車に採用することに疑問視していたからです。その結果、モーターによる駆動を採用したのです。
ポルシェ博士のトンデモ兵器として語られることのあるティーガー(P)ですが、この様な考え自体は必ずしも奇特なものではありません。当時、鉄道車両ではこの方式を採用したものが既にありました。もっとも、信頼性向上を狙ったティーガー(P)ですが、結果的にはまだ戦闘車両への適用が未成熟だった技術の不具合により、通常の機械式変速機を採用したヘンシェル社案のティーガーよりも信頼性が低いものとなってしまいましたが……。
ハイブリッドの各方式
ここで注意して頂きたいのは、戦闘車両のハイブリッドはシリーズ方式であり、プリウス等の民間乗用車に見られるパラレル方式とは違ったものであるということです。
簡単に両者の違いを述べると、シリーズ方式は内燃機関が生んだエネルギーを電気に変換してモーターで駆動するのに対し、パラレル方式は内燃機関が生んだエネルギーをモーターと従来の変速機を介した機械的な駆動を併用していることです。シリーズ方式が変速機等の摩耗部を減らせるのに対し、パラレル方式は変速機を積まなければならず、複雑な構造となります。以下に簡単な比較図を掲載します。
駆動系を二つ積むことにより構造が複雑となるパラレル方式と比べ、シリーズ方式は車軸が必要無いため、各コンポーネントの配置の自由度が増します。各コンポーネントが機械的独立していることで、大出力化も容易ですが、駆動力を全て電気で賄う為に発電機や蓄電池等は大容量のものが必要となります。
戦闘車両のハイブリッド化の利点
各コンポーネントの配置に自由度の増大は、設計の自由度が増すことを意味します。極限の環境での稼働を前提とするため、制約の多い戦闘車両の設計にとっては非常に魅力的な点であり、今後増大が予想される戦闘車両の電力消費量も考慮すると、エネルギーが電力に一元化して管理されることは有意なことです。また、運用の面でも一時的に発電機を切り、蓄電池のみで駆動することによる騒音の低減は、戦闘車両の被発見性を低減します。
このように良いことずくめに見える戦闘車両のハイブリッド化ですが、実用化にあたっての課題はいくつかあります。以下にそれを挙げてみましょう。
これらの課題から導き出されるのは、システム総体として見た場合、電気駆動に重要なコンポーネントのより一層の効率化が必要だという点です。つまり、現状では非効率なものであり、とても低燃費=省エネと呼べるものになっていないと言えます。
各国でも電気駆動システムの研究は長らく行われていますが、未だ実用の域に達した戦闘車両は存在しません。自衛隊も例外ではなく、技術研究本部では平成3年から研究を行い、更には平成9年から10年にかけて電気駆動システムの研究試作を行っていますが、10年以上経た現在でも研究の域を出ていません。最近の研究では平成17年に電力容量に優れるバッテリーに加え、出力密度・急速充放電性能に優れたキャパシタを併用した基礎実験を行うなど、やはり高効率化を目指した研究が続けられています。やはり、現状では非効率なものにならざるを得ないのかもしれません。
何故「省エネ」ばかり注目されるのか。
このように戦闘車両用ハイブリッドは、現状では様々な課題があることを述べてきました。しかしながら、魅力的な技術であることは確かで、何十年にも渡って各国で研究されてはいます。が、ここ数年で急速に注目されるようになってきました。その理由としては、やはりプリウス等の民生車両における省エネイメージが強いせいではないでしょうか。
2008年度の技術研究本部発表会にて、シリーズ方式ハイブリッドの戦闘車両についての展示がありました。私もプリウスのイメージが強いので「これはプリウスの様なものですか?」と質問したところ、解説されていた方から「いいえ。私どもの研究しているハイブリッドとは、プリウスのものとは違います」とはっきりと否定されました。プリウスと同次元で考えてはいけないようです。
自衛隊関連の公式のソースで戦闘車両ハイブリッドの利点として「省エネ化」を挙げたものはいくつかあります。ただ、それはどちらかというと、一般に言われる「ハイブリッドは省エネ」という常識(らしきもの)を意識したものではないかと思うことがあります。それは何故かと申しますと、防衛技術ジャーナルの2001年7月号における技術研究本部での電気駆動システム研究の技術論文では燃料消費量の低減が謳われていますが、技術研究本部50年史での当該研究の説明では、設計自由度の向上や減速機の簡略化について触れていても、燃費に関してはノータッチです。戦闘車両ハイブリッドにおいては、燃費という項目は確かに検討はされてはいるが、優先度の低いものなのかもしれません。
現状、自衛隊の装甲車両がどのようなアプローチで「省エネ」を行っているのかと言えば、TK-Xでの無段変速機の採用や排気エネルギーの回収等、従来方式の延長上に立つ手堅いものです。兵器として使う以上、信頼性が重要であることはいうまでもなく、ティーガー(P)の轍を踏むことはありません。あくまでもハイブリッドは将来の可能性の一端なのです。
「ハイブリッド化=省エネ」という、「常識(らしきもの)」を無批判に戦闘車両に適用することは避けるべきでしょう。
兵器開発では、常識(らしきもの)に囚われていてはいけないのです。
参考文献
椿尚実「戦闘車両用電気駆動システムの研究」防衛技術ジャーナル2001年7月号
椿尚実「電気駆動システム」防衛技術ジャーナル2003年11月号
野和田清吉「戦車の先端機動技術」軍事研究2007年12月号別冊
平秀隆,白石泰夫,椿尚実,金内由紀夫「車両用蓄電装置の電力マネジメントに関する研究」防衛庁技術研究本部技報 2005年11月
ヴァルター・J・シュピールベルガー「ティーガー戦車」大日本絵画
防衛省技術研究本部「技術研究本部50年史」http://www.mod.go.jp/trdi/data/50years.html
もう旬が過ぎてしまった感があるネタなれど、「内張り装甲」の定義について、未だにネット界隈(おまけに雑誌でも)で見かけるので、いい加減定義論争に止めを刺したいと思います。
もう散々色々なところで書かれたことですので事の経緯は省きます。週刊オブイェクトさんの「内張り装甲とは結構、分厚いもの」や、本ブログの「ガラパゴス化しているのは彼なのか?」を読んで頂いた方が確実ですが、要約すると軍事ジャーナリストの清谷信一氏が内張り装甲の存在を知らず、見当外れなことを書いたことに対し、週刊オブイェクトのブログ主であるJSF氏が突っ込んだ訳です。
ところが、この突っ込みを受けてか「軍事研究」2009年3月号の清谷氏の記事に以下の一文が。
「車体は鋼鉄製で、レーダー反射率を下げるため車体の角は丸められており、全周的に七・六二mm弾や砲弾破片に耐えられる。また内部には跳弾や装甲の剥離を防ぐためにスポール・ライナーが張られている(スポールライナーと内部装甲はよく混同されるが、別物である)。」 by 清谷氏
これを受けてJSF氏は「「見た事が無い」のに「別物である」と断言」と突っ込み記事を出します。
「つい最近、内部に取り付ける装甲について「見た事が無い」と告白した人なのですから、「内部装甲って何ですか」と問われて説明出来る筈がないですし、「内部装甲の定義を言ってください」と問われて答える事も出来ないでしょう。つまり清谷氏の言う「別物である」という断言は、何の根拠も無い思い込みであると言えます。思い込みではない、ハッタリじゃないと仰られるなら、内部装甲とは何か、定義の説明をお願いします。」 by JSF氏
まさに正論だと思います。ただ、JSF氏の判断は以下の様な若干の推測が混じっております。
「なお私が技本発表会で展示された「内面取付型付加装甲」をスポールライナーであると判断したのは、材質がFRPであると説明ボードに書いてあったからです。これはスポールライナーに使われる素材と同じです。」 by JSF氏
以上の様に、以前当ブログで掲載した技本発表会の写真の内容から判断された様です。
ただ、定義論争に終止符を打つ最良の方法は定義を示すこと。それさえすれば終わりです。では、「内張り装甲」の定義は存在するのでしょうか?
答え
内張り装甲
内張り装甲とは、装甲裏面に内張りしたアラミド繊維(ケブラーなど)とプラスチックの複合材などである。装甲裏面からの剥離物を受け止める耐弾性向上効果(スポールライナー)のほかに、図1.5.2-12に示すように破片の飛散角度を小さくするといった残存性向上効果(スプラッシュライナー)が存在する。
― 弾道学研究会編「火器弾薬技術ハンドブック(改訂版)」財団法人防衛技術協会刊 ―
「火器弾薬技術ハンドブック」は、「戦後わが国の火器弾薬の専門知識を集約した唯一の資料」を謳っており、日本の火器弾薬技術の基礎技術向上を目的とする弾道学研究会により編纂された、わが国における火器弾薬技術の集大成と言える本です。少なくとも日本において、これ以外の定義は無いと言っても過言ではないと思うのですが、これでも清谷氏は別物と言い張るのでしょうか。ミスや勘違いなど、誰にでもあるのだから、潔く訂正するのが最良でしょう。
それとも、この定義も「ガラパゴス化」した日本の定義と主張するのか、はたまた定義を自分で作ってしまうのでしょうか。「定義を変える程度の能力」って、神にも等しいと思うのですが、どうでしょう?
以上で論争に終止符は打たれたと思います。今後、このネタを当ブログで取り上げることはないでしょうし、日本上から論争が消滅することを望みます。
最近、自衛隊関連の話題と言えば、やはり海賊被害が多発するソマリアへの海上自衛隊艦艇派遣がホットなものでしょう。3月末には日本船舶の護衛にあたるそうで、2月10日には護衛艦“さざなみ”、“さみだれ”の2隻が派遣に向けた訓練を開始したそうです。
そんな中、政治の舞台ではどうなっているのでしょうか。産経新聞によりますと、2月3日の民主党の外交防衛部門会議でこんな発言があったそうです。
しかし、この日の部門会議では、足踏み状態から脱出したとはいえる議論はなかったようだ。藤田幸久参院議員が「海賊の定義は何か。犯罪なのか。テロなのか。組織性はあるのか」と外務省に問いただせば、谷岡郁子参院議員も「まず民間船舶会社の自己責任と国の責任の区別をきちっとすべきだ」と主張するなど、「そもそも論」が噴出したのだ。
この藤田議員の「海賊の定義」発言が、ネット上で嘲笑の的になったことは記憶に新しいと思います。しかしながら、「海賊の定義」という問題は非常な難しい側面を含んでいることは事実であり、海上自衛隊のソマリア派遣についても問題になる可能性があります。今回は、海賊の定義とその問題点について考えてみたいと思います。
国際法上の海賊の定義
古代ローマの時代から海上は「万民の共有物」とされ、近年まで「公海自由の原則」の国際慣行として引き継がれていました。海は多国間の交易の場であり、その海で強盗行為を行う海賊は「人類共通の敵」とされてきました。海賊の定義の根本には「人類共通の敵」という概念が今でも生きています。
しかしながら、近年に入ると、拡大する海洋交通、海洋利権を巡る衝突、環境汚染等の新たな問題に対応する必要が生じ、従来の国際慣習法の統合・法典化が進められます。この試みは1982年には第三次国連海洋法会議にて国連海洋法条約として採択され、1994年に同条約が発効されることになります。「世界の海の憲法」とも言われる同条約は、200海里排他的経済水域の制定や紛争解決の為の国際海洋法裁判所の設立等、それまでの公海の概念を大きく変容させるものでした。この条約の101条において、海賊は国際法的に明確な定義がなされることになります。以下にその条文を見てみましょう。
国連海洋法条約
第百一条 海賊行為の定義
海賊行為とは、次の行為をいう。
(a)私有の船舶又は航空機の乗組員又は旅客が私的目的のために行う全ての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為であって次のものに対して行われるもの。
(i)公海における他の船舶若しくは航空機又はこれらの内にある人若しくは財産
(ii)いずれの国の管轄権にも服さない場所にある船舶、航空機、人又は財産
(b)いずれかの船舶又は航空機を海賊船舶又は海賊航空機とする事実を知って当該船舶又は航空機の運航に自発的に参加するすべての行為
(c)(a)又は(b)に規定する行為を扇動し又は故意に助長する全ての行為
以上がその条文になります。このように、国際法では海賊の定義は明確なものとして存在しています。国連海洋法条約において、その定義が明文化されることになりましたが、この海賊の定義自体は慣習法の頃とほぼ同じものです。
しかしながら、この定義には大きな問題が存在します。その部分は太字にして強調されてある「私的目的」、「公海」、「いずれの国の管轄権にも服さない場所」の部分です。この部分について、少し突っ込んで考えていきましょう。
「私的目的」の問題
この定義の問題は、私的目的でない海上での暴力行為は海賊にはならないことにあります。この定義の問題が如実に表れた例としては、1961年のサンタ・マリア号事件が挙げられます。
1961年当時、ポルトガルでは独裁政権に対する反政府活動が活発であり、ベネズエラに亡命していたエンリケ・ガルバン元陸軍大尉は、当時ポルトガルの植民地であったアンゴラでの解放国民議会臨時政府樹立を計画し、仲間とともに客船サンタ・マリア号を占拠しました。この事態に対し、ポルトガル政府は「海賊行為」と非難し、軍艦を派遣。米、英、オランダ、スペインも軍艦を派遣することになります。しかし、乗客に不法行為が行われてなく、ガルバン元大尉の目的が政治的な物だと判明すると世界世論は好転し、ガルバン元大尉は「20世紀のロビンフッド」とまで報道されました。アメリカ政府も犯行グループに対して仲裁案を提示し、ガルバン元大尉は仲裁案を受け入れ、ブラジルに投降します。受け入れたブラジル政府は、船体はポルトガルに引き渡したものの、犯行グループの政治亡命を認めて身柄を引き渡すことはしませんでした。
この事例はこの定義の問題をよく表しているものと言えます。「私的目的」以外と認定されたら、それは「海賊」ではないということです。この定義ですと、この事件の様に当事国(船の旗国、乗員・乗客・財産が属する様々な国家)の立場によって、海賊認定の相違が生じることが考えられ、海賊対策への国際協力の妨げになると考えられます。。
また、フィリピンからの分離独立を主張するモロ・イスラム解放戦線(MILF)は、昔から副業として海賊行為を行っていた漁師が多くおり、更にはアルカイダのキャンプで訓練を受けた構成員も多いと言われています。このように海賊が政治目的のテログループと結束する例が近年多く見られ、政治目的の海上テロと海賊行為の区別が付き難い状況になりつつあります。
「公海」、「いずれの国の管轄権にも服さない場所」の問題
この2つの定義は、便宜的に「公海」という括りにして考えてみましょう。この定義を当てはめると、各国の領海内で発生した「海賊行為」は海賊と見なされず、海上強盗の類ということになります。
しかしながら、この定義の最大の問題は、世界の海賊行為のほとんどが領海内で起きていることです。世界の海運業者からの拠出金で運営されている国際海事局(IMB)のデータによると、2001年世界で起きた263件の海賊事件のうち、公海で起きたものはわずか28件の10.6%に過ぎず、残りの90%は領海内で発生しています。公海での海賊行為に対しては、各国の海軍艦艇・航空機が警察権を有しており、自国で裁判を行う権限を与えられていますが、領海での海賊行為は全て主権国が取締ることになっています。領海の警備が不十分な国は多く、海賊多発地帯のマラッカ海峡ではインドネシア・マレーシア両国の警備能力の不備が問題となっています。そして、今回話題になっているソマリアは1991年から無政府状態にあり、まともに領海の警備が行われていません。そこの空白地帯に海賊が発生したわけです。
公海で海賊を取り締まろうとしても、そもそも公海には海賊はほとんどいないか、警備の手薄な国の領海に逃げ込まれてはどうしようもないのです。
IMBによる海賊の定義
先ほど名前が登場したIMBとは、世界的な民間団体である国際商業会議所(ICC)の商業犯罪対策部門の付属機関であり、世界の海賊情報を集め、船舶や当局に対して情報を随時提供しているNGOです。国際関係の問題で身動きがとりにくい国連の国際海事機関(IMO)と共同して海賊対策を行っており、事実上世界の海賊対策を主導している団体です。このIMBでは、国連海洋法条約とは別に海賊の定義を以下の様に定めています。
海賊行為とは、盗難やその他の犯罪行為あるいは暴力を振るう目的で、船舶に乗り込む行為
この定義では公海・領海の区別はなく、政治的・私的目的の区別もついていません。現実の海賊の定義としては妥当なものであり、世界の多くの保険会社でもこのIMBによる定義で海賊事件を取り扱っています。
ソマリアでの問題
前述しましたが、ソマリアでは長年の無政府状態により自国の保全もままならず、2005年以降海賊が急増しました。度重なる海賊被害に対し、国連安保理は2008年から相次いでソマリア海賊対策の決議を採択し、国連安保理決議1816では、外国艦船がソマリア領内での海賊行為防止の為の「適当と思われるあらゆる手段」を認めています。これにより、国連海洋法条約における海賊定義とは別に、ソマリア領海でも他国の艦船が海賊行為が取り締まれるようになりました。
しかしながら、これで問題が解決したわけではありません。IMBの海賊事件発生事件地図(リンク先参照)を見てみると、2009年2月までの世界の海賊事件の圧倒的多数がソマリア沖で起きていることが分かりますが、この地図をよく見てみると、海賊の多発地域はソマリア対岸のイエメン近海になっています。ソマリア海賊の特徴の一つに、沿岸から100海里を超える長距離で活動することが挙げられており、海賊を発見したとしてもイエメンへ逃げ込まれることが想定されます。ソマリアの周辺国家はソマリア内の各勢力に肩入れしているため、周辺各国への一時的な退避を防ぐと同時に各国への対応にも留意が必要でしょう。
海賊の定義一つとっても、かなりの問題を孕んでいます。もっとも、藤田議員がそこまで考えて「定義発言」したとは文脈上思えませんが……
参考文献
産経新聞『ソマリア派遣、対応遅い民主 いまさら「海賊の定義」議論』2009年2月3日
土井全二郎『現代の海賊 ―ビジネス化する無法社会― 』成山堂書店
山田吉彦『海賊の掟』新潮社
山田吉彦『現代海賊事情』日本航海学会誌 「NAVIGATION」 2006年6月号
高橋史克『海賊に関する私的考察』日本防衛学会 「防衛学研究」第29号
秋元 一峰、C.L. ヴィヴァル『海上テロの脅威と海軍の役割(1)シーレーンに潜む黒い影』兵術同好会 / 波涛編集委員会 編 「波濤」173号
全く軍事と関係無い、私的な話です。読み飛ばし推奨。
売れ筋Seagate製HDDに不具合、アクセス不能に
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20090119/323116/
先々週あたりから騒ぎになっているこのニュース。私もSeagate使っているので他人事じゃないのですが、データ保存用HDDとして使っているので、まあいいかとは思っていました。
ところが、何気なく調べてみたらデータ保存用にしているというのは勘違いで、Cドライブとして使用していたという事実が発覚し、大慌てでサーバにバックアップ取ってます。ファーム更新するのまだ怖いですし。
バックアップを取っているものの、ギガビットイーサ未対応スイッチがボトルネックになって遅い遅い……。HPのProCurveのギガビットモデル買うかなあ……。
今週最大のニュースは何かと言いますと、やはりアメリカでオバマ大統領が就任したことでしょう。100年に一度とも言われる金融危機、世界情勢の混迷と課題が山積みですが、黒人初の大統領、8年ぶりの民主党政権ということもあり、注目が集まっているのは周知のことです。
一方、日本もリーマンブラザーズ破綻直後の2008年9月24日には麻生新政権が発足。様々な困難に世界が直面する中、日米新政権下で日米同盟はどう変わっていくのでしょうか?
本日は当ブログでも何度かレポをお伝えした平成20年の防衛省技術研究本部研究発表会における特別講演、森本敏氏によります「日米新政権下における日米同盟」の要約をお伝えしようと思います。
森本敏氏とは?
本講演は防衛省技術研究本部研究発表会において、技術以外の特別講演として行われたものです。講演者の森本敏氏は1965年に防衛大学校卒業、航空自衛隊に入隊。1979年に外務省に入省し、退官後は野村総合研究所首席研究員、拓殖大学海外事情研究所所長・同大学院教授を務めている国際政治学者です。元自衛官であることから、安全保障問題についても著書があり、テレビ出演もされていますのでご存じの方も多いと思います。まあ、氏の経歴の詳細はWikipediaをご覧になった方が早いと思いますが……。
講演要約
今回は講演の中で、外交・安全保障についての話を中心に要約してみたいと思います。例によって、ノートとうろ覚えの記憶からですので、話し半分に聞いて下さいね。
外交政策全般
対中関係
対日関係
私感
以上が講演の要約になります。全体的にはブッシュ政権の失策を批判しつつ、オバマ新政権へは好意的な内容だったのですが、行為とは別に日本にとっては難しい舵取りを迫られることになるとことでした。麻生政権に対しては批判的トーンが強く、給付金問題で自民党をまとめられていないことを批判していました。どちらかと言うと、森本氏は保守傾向の強い方と思っていたのですが、講演内容は非常にバランスがとれており、全くもって同意できる意見でありました。
さて、日本の安全保障と外交にとって頭が痛い問題が多いですね。特に米軍再編変更とアフガンへの対処は重大問題で、前者は防衛政策の根本から再考を迫られますし、後者はほぼ確実にアフガンへの自衛隊派遣に繋がり、戦闘に繋がる恐れが非常高いでしょう。ブッシュ政権は単独主義だと世間では批判されていましたが、裏を返せば単独主義と言うのは、自国のリソースを問題解決に注ぎ込むものです。今のアメリカにリソースはありませんから、必然的にオバマ新政権は多国間協力を取らざるをえません。つまりは、同盟国のリソースを使うことになります。
まだスタートしたばかりのオバマ新政権は、その要求を外国には示していません。森本氏が言うように、日本は新政権とどの様に向き合うかを決め、オバマ新政権が要求を出す前に向こうに投げるべきでしょう。その中には自衛隊のアフガン派遣という、「出血」を伴うであろう選択も含まれることになります。
「出血」をアメリカに強要されるか、日本が主体的に行うか。同盟のあり方が問われています。
プロフィール欄にも書いてはおりますが、このブログにはミリタリー関連の資料置場としての機能があります。
もっとも、映像資料はそれなりに貯まりましたが(ニコニコ動画のサービスに丸投げとはいえ)、軍関係の理解に役に立ちそうな資料はあんまないということに最近気が付きました。そういう訳で、自分の勉強も兼ねてメモとして資料を掲載していきたいと思います。
軽装甲車両の防護基準
今回は軽装甲車両の防護基準について、NATOが策定しましたNATO統一規格(STANAG)第4569号に定められた軽装甲車両又は支援車両が備えるべき抗堪性の基準を挙げてみます。
まず、下の表が小銃弾等・155mm榴弾破片に対する抗堪性の基準です。各レベルで車体全周に対して90%以上抗堪することで基準を満たすとされています。
次は地雷等に対する抗堪性の基準です。レベル2以降は対戦車地雷を想定していますが、想定されている地雷は爆風効果型であり、成型炸薬(HEAT)型の対戦車地雷は従来の装甲技術では抗堪が困難であるため対象外となっております。
ここで以前アップした82式指揮通信車の耐弾試験の動画を見てみましょう。
この動画を見る限りでは、82式指揮通信車は最低でも7.62mmNATO普通弾と対人地雷に抗堪していることが分かります。12.7×99mm普通弾(推定)による試験が行われている様子を映した動画もありますので、それを加味すると82式指揮通信車の小銃弾等に対する防護レベルは、NATOの基準ではレベル3から4ほどは最低でもあると推定されます。(155mm榴弾は不明な点もありますが)
一方、地雷等に対しては最低でもレベル1にあると推定されます。もっとも、基本的には路面を走る装輪装甲車ですからこの程度で良い、若しくは装輪車両の限界なのではないかと推測されます。
参考文献
陸戦研究海外部会「海外情報(533) 軽装甲車両の防護力基準等について」陸戦研究 2007年12月号