2014年2月25日火曜日

クマ鍋を食べてみた

常々思っていた事ですが、日本では覚えきれないほど多種多様な魚介類が流通しているのに、肉類に限っては牛・豚・鶏の3種が市場に流通する肉のほとんど全てと言っていい状態です。お隣中国を見ると、マガモの家禽種であるアヒルは北京ダック等でポピュラーな食材ですし、スーパーではロバ肉も売られています。また、ドイツではシカ肉が多く消費されており、スウェーデンではノーベル賞授賞式後の晩餐会でライチョウやホロホロ鳥の料理が出されるなど、フォーマルな場にも出される食材として知られています。


ノーベル賞の晩餐会(ノーベル賞公式サイトより)


このように世界と比較しても、日本の食卓に上がる肉類のレパートリーは寂しいものがあります。そもそも、食肉加工場について定めた法律である”と畜場法”を紐解くと、法の対象となる「獣畜」は「牛、馬、豚、めん羊及び山羊」と定義されていて、それ以外の獣は対象外です。同様に” 食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律”で規定された食鳥も「鶏、あひる、七面鳥」の3種のみで、キジやアヒル原種のカモは対象外。対象外の獣肉・鳥肉は 法的に定められた検査の対象とならず、一般に流通することはほとんどありません。

近年、増えすぎた野生のシカやイノシシが全国的に問題化しており、環境省や地方自治体は駆除の担い手となるハンターの養成と、駆除後の獣肉の利用法としてジビエ(狩猟によって得られた野生鳥獣)料理を根付かせようと努力しています。しかし、前述の流通問題や、そもそも日本人にジビエは馴染みが薄いという需要の問題があり、上手くいっていないのが現状です。

こんな風に書いている自分も、牛・豚・鶏以外の食肉を口にするのは鴨南蛮(実はアヒルですが)やシカ料理がたまにあるくらいで、検査済みの食肉が流通に乗るはずの馬や羊ですら食べる機会は少なく、ヤギに至っては売られているのを見た事すらありません。法的に流通が容易なはずの食肉すら食べる機会がほとんど無いのですから、法以前に日本の肉食文化が諸外国より貧相なのかもしれません。

しかし、日本には多くの鳥類・哺乳類が生息しており、食肉文化の素地は決して低くないと思います。そこで、日本に棲む動物の肉はどんな味なのか。それも、なかなか流通に乗らないような肉で確かめてみようと、横浜にある珍獣屋という店にお邪魔しました。今回のメインターゲットは日本の生態系の頂点、クマです。

一口にクマと言っても、日本には北海道にのみ生息するヒグマと、北海道以外の本州・四国に生息するツキノワグマの2種おり、今回はヒグマとツキノワグマの両方を食します。熊本県のマスコットキャラのくまモンはクマがモチーフですが、熊本県のある九州ではツキノワグマは絶滅したと2012年に環境省は宣言しています。そう考えると、くまモンのあの無表情にどんな意味があるのか、あらぬ想像をしてしまいます。

さて、メインのクマは鍋ですので、鍋が出てくるまで酒を飲みつつ、アテに変わった肉を食べてきます。まずは「ヘビのぶった斬り網焼き」です。


ヘビのぶった斬り網焼き

ヘビというと小骨が多そうなイメージがありましたが、これは骨抜きもしっかりとされており、鶏肉に近い食感です。むしろ、鶏肉と言って出されても、ヘビだと気付かないでしょう。


次に、日本にいない生き物ですが、ワニの顎軟骨が出てきました。



鶏の軟骨と異なり、サイズは2周り以上大きく、コリコリとした食感は弱く、鶏の軟骨と肉の中間くらいの食感です。鶏軟骨のコリコリ感を期待した方には、ちょっと肩透かしを喰ら うかもしれません。同じ爬虫類だけあって、ヘビと同じく鶏に近い蛋白な味です。鳥類の起源は恐竜だと言われていますが、似ている味もそのせいかもしれません。味からも進化の過程が分かるような気がします。

次に来たのが、日本にも生息しているアナグマのつくねです。日本にいると言っても、見た事がある方は少ないかもしれませんが、古くはムジナと呼ばれたイタ チ科の哺乳類です。タヌキに姿形が似ている為に混同される事が多く、タヌキも広いアナグマの巣に同居することがあったため、「同じ穴のムジナ」という諺が生まれています。

ニホンアナグマ

アナグマはユーラシア大陸に亜種含め広く分布していて、肉の味の良さから古くから狩猟対象でした。犬のダックスフントもアナグマ猟の為に作られた品種です。日本でもお伽話の「たぬき汁」は、アナグマ汁だったのではないかという説があります。



上の動画は以前アナグマを撮影したものです。喰っておいてなんですが、結構可愛い奴です。

さて、料理はアナグマのつくねです。つくねは赤身の部分のようで、肉汁に旨味が多く含まれています。残念なのは、匂い消しの生姜の匂いがキツく、アナグマ 本来の香りが失われていた事と、つくねなので肉の食感が分からない事ですね。猟師に聞いた話では、冬の巣ごもりしているアナグマは脂がのっており、鍋にす ると美味いとのことでしたので、いつかは鍋にして食べてみたいと思います。

アナグマのつくね
さて、メインのクマ鍋の前に、クマのレバ刺しです。レバ刺しと言えば、中毒多発により牛のレバ刺しですら見かけなくなりましたが、これは野生のクマです。めっちゃリスク高そうなので、最初は私含む3名はレバ刺し食べない宣言をしたのですが、食べた人が口々に美味い美味い言うので誘惑に負けて食べてしまいました。

クマのレバ刺し(ヒグマかツキノワグマかは忘れた)
確かにこのレバ刺しは今まで食べてきたレバ刺しの中でも上位にある味です。血生臭さを感じさせない風味、レバーなのにしっかりした食感で、舌の上に乗せると濃厚な味が味が溶け出すように口の中に広がります。これは凄い。

ただ、後で調べたらクマは旋毛虫という寄生虫キャリアの可能性があり、これは筋肉中に住む寄生虫らしく、肝臓は汚染部位なのかどうか分かりませんでした。食べるのは推奨しません。ああ、放射線殺菌が合法化されたら、寄生虫も肝炎ウィルスも心配いらないのに……。


さて、メインのクマが運ばれてきました。写真の左側、牛肉のような赤身肉が熟成されたヒグマ肉、右が山形県で穫れたツキノワグマ肉です。

左がヒグマ、右がツキノワグマ

同じクマでも随分と見た目が違いますが、処理の仕方に違いがあるようです。味噌ベースの鍋で、ツキノワグマは時間をかけて煮込み、ヒグマはしゃぶしゃぶ風に火を通し、すき焼き風に卵につけて食べます。寄生虫のおそれもあるので、しゃぶしゃぶは少し入念に火を通します。



熊鍋



火を通したヒグマ肉に、溶き卵につけて食べる

すき焼きは元々味噌風味の鍋が起源で、肉を食べるようになった明治期、品質の良くない臭い肉でも味噌たれで煮込み、卵で匂いを消して食べれるように工夫された結果生まれました。独特の匂いがある野生獣にもピッタリな調理法なのかもしれません。

さ て、味の方はヒグマは柔らかく、癖もない上品な肉だったのに対し、ツキノワグマは味噌で煮込んでも癖が抜け切れませんでした。山中で穫れた野生獣は、解体 まで時間がかかると品質が落ちるため、品質を一定に保つのは困難です。恐らくは、血抜きなどの処理がヒグマとツキノワグマで条件が違ったのではないかと思 います。

肉の風味は強いて挙げると牛に近く、特にヒグマは乳のような優しい風味がありました。牛にも乳臭い肉はありますが、牛とは違って鼻に抜ける感じは悪 くありません。溶き卵につけると非常にマイルドで、子供でも食べれそうです。ツキノワグマと比べて獰猛なイメージがあるヒグマだけに、これはちょっと意外な発見でした。

鍋のシメはうどんです。クマの出汁が取れた鍋に、たっぷりチーズと細身のうどんを入れます。店では日によって、うどんの他にリゾットにもするそうです。ク マの匂いが味噌とチーズでマイルドになり、独特の風味も違和感なく食べられます。個人的には、ヒグマ肉だけならチーズ無しでも十分イケるように思えましたが……。

鍋のシメは、クマエキスたっぷりの汁にたっぷりチーズとうどんを投入

さて、世界的にもポピュラーではないクマ肉食というハードル高い肉に挑んでみましたが、今回熊鍋を食した方に話を聞くと、いずれも好評でした。今年度の猟期もほとんどの県で終了しましたが、珍獣屋さんでは4月までヒグマを出せそうと伺いました。魚の乱獲と漁獲量の減少が問題になっていますが、一方で国内では大型哺乳類の増加が問題になっています。国産ジビエの振興で、少しは落ち着くと良いのですが……。


なお、後日譚として、寄生虫絡みで調べていたら、旋毛虫の生活環を解明した学者が19世紀ドイツの病理学の大家で、時の宰相ビスマルクを批判して決闘を挑まれた際、旋毛虫入りソーセージで戦う事を提案して、ビスマルクはリスクが高いと取り下げたというエピソードを発見。

その顛末はこちらで。

togetter:クマ肉の生食からビスマルクに至る


あと、ちょっと値ははりますけど、熊肉普通にアマゾンに売られていますね。なんでもあるなアマゾン。


熊肉【信州産/月の輪熊】(200g)カット冷凍






2014年2月22日土曜日

ウクライナが洒落にならない事になっている件

日本での報道は今ひとつ影が薄いのですが、ウクライナの政治状況がこの数日で急激に悪化しています。ヤヌコビッチ大統領の官邸及び私邸にデモ隊が突入し、大統領は首都キエフを脱出したとされています。

博物館から略奪され、バリケードに使われる大戦中の対戦車砲



大統領私邸へと向かう群衆(@Euromaidan PRより)

発端は昨年、財政危機の最中にあるウクライナの救済を巡り、ヤヌコビッチ政権がEUとの経済調印棚上げし、ロシアから150億ドルの経済支援を得た事です。これに抗議するデモ隊が、昨年末から首都中央の広場を占拠するなどの抗議活動を行い、政府の腐敗一掃を要求する幅広いデモに拡大しました。しかし、政権と野党勢力との話し合いは行き詰まり、20日にはデモ隊と警察の停戦合意が合意後数時間で破られると、首都で大規模な衝突に発展しました。


当局との衝突で亡くなったデモ隊(@Euromaidan PRより)

また、ウクライナ国会も野党勢力が力を増し、21日にはヤヌコビッチ大統領の政敵で、職権乱用で収監されていたティモシェンコ前首相の釈放を可能にする法案を可決しました。現政権は治安維持から、国会運営を行う能力を既に喪失しているようです。現在、大統領はウクライナ北東部の都市ハルキウ(ハリコフ)にいるとも言われていますが、そのハルキウの治安当局の庁舎でも職員が書類の焼却を行っており、首都キエフ以外にも混乱が波及しています。


書類の焼却を行う治安機関(@Euromaidan PRより)

旧ソ連から独立したウクライナは、ウクライナ語話者とロシア語話者が混在するなど、多様性を持つ国家です。しかし、その多様性から、国内では政治的対立が長らく続いておりました。クリミア半島等のウクライナ各地では、独立をめぐる動きがあることが報道されており、ウクライナ語地域・ロシア語地域で分裂するかのような、国家が分裂する事態に陥る可能性があります。

ロシアによる調停・介入も行われつつありますが、情勢は断片的に伝わって来るのみで、政府に統一した主体が既に存在しない事を示しています。EU・ロシアの中間地帯であり、EU圏へのガスパイプラインの経由地であるウクライナの混乱は、EU・ロシアに大きな影を落としかねないだけに、国際社会による一刻も早い調停が望まれます。


◇ウクライナ情勢理解の為の参考になるサイト


ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版:ウクライナで何が起きているのか―理解のためのクイックガイド

WSJによるクイックガイドは、ウクライナでこの数ヶ月に起きた事を手短にまとめています。

以下はTwitterでの識者、ウォッチャーによるツイートのまとめです。「膠着から一転、急変したウクライナ情勢」は若干長めですが、リアルタイムのツイートですので、悪化の過程が分かると思います。

EUとアメリカの支援条件から見るウクライナ問題

膠着から一転、急変したウクライナ情勢(2014年2月17日~22日)

2014年2月16日日曜日

大雪が自然環境と人間に与える影響を考える

こんにちは、dragonerです。今、訳あってアメリカにいます。寒いし、乾燥しているし、アメリカからは艦これプレイ出来ないので、ケッコンカッコカリイベント出来ずにフラストレーション溜まっていて憤死寸前になっている間、”歴史的”大雪に日本が見舞われているようですね。

特に甲府・前橋・熊谷では過去120年ほど続く観測の歴史の中で最大の積雪に。「歴史的」と言っても良いほどの記録的な大雪になったのです。

この大雪により、各地で交通機関が麻痺するなど、日常生活に重大な支障が生じていますが、今後も大雪が各地で続くようです。

前線を伴った低気圧が三陸沖を北東へ進んでいて、あす17日にかけて、さらに発達する見込み。北日本ではきょう16日は大雪となり、また、17日にかけて非常に強い風が吹き、海は大しけとなる。大雪や暴風雪、高波に警戒が必要だ。

このように人間の生活に大きな影響を与えた今回の”歴史的”大雪ですが、影響を被るのは人間だけに限りません。山野に生息する野生動物にとっては、大雪は生死を左右する死活的問題であり、野生動物に起きた問題は長いスパンを経て、人間社会にも大きなインパクトをもたらします。災害が進行中の現在は、人間への直接の影響・被害報道に重点が置かれていますが、ここでは大雪による自然環境の変化が、人間に与える長期的な影響について、過去の事例から考えたいと思います。


エゾシカの大量死を招いた明治12年の大雪

先ほど引用したニュースの中で、「過去120年ほど続く観測の歴史」とありましたが、気象観測・記録が行われるようになった120年前より以前の明治12年(1879年)に、北海道で豪雪と暴風雨を伴う異常気象があったとされています。この大雪により、数十万頭に及ぶエゾシカの大量死が発生し、十勝川にはエゾシカの死体が溢れたとされます。この死体は気温の上昇とともに腐敗をはじめ、腐敗による臭気で十勝川の水が飲料出来なくなる等、時間を置いて人間生活にも影響を与える事になります。

今回の大雪での積雪は、多いところでは本州内陸でも1メートルを超えています。ホンシュウジカの場合、50cm以上の積雪が30日以上続くと死亡する個体が現われ、50日以上で多発するという研究がなされています。短足のイノシシも豪雪地帯での生存に不向きで、今回の大雪に加え、今後も低温によって雪解けが遅れた場合、これら野生動物の生息頭数に影響を与えるかもしれません。


増えすぎたシカが減ると?

現在、北海道を始め、日本全国でシカを始めとする野生動物による農業・山林被害が増加しており、平成23年度の農業被害額はシカによるものが83億円、イノシシが62億円となっており、年々増加傾向にあります。また、JR北海道管内では、シカによる列車の運行障害が、2004年以降は年間1000件を超えるようになるなど、人間生活への影響も見逃せません。

エゾシカの食害により剥き出しになった樹皮(北海道森林管理局サイトより
このように野生動物と人間社会との間の軋轢が年々増している最大の理由は、野生動物の生息頭数が特にシカ・イノシシで増加している事にあります。このような頭数増加と農業被害を受け、環境省ではこれまでの保護前提の管理政策から、捕獲等による抑制に切り替える方針で、今国会では鳥獣保護法の改正を目指しています。ここで問題になるのが、今回の大雪の影響です。大雪により、過去のように大量死が発生した場合、産業にも影響が出始める恐れがあるのです。


鳥獣保護法の改正に与える影響は

鳥獣保護法改正では、民間業者による駆除の解禁も検討されており、既に法改正後の参入を検討している企業もあり、ビジネスチャンスと捉える向きがありました。しかし、今回の大雪により、仮に一部地域でシカの大量死が発生した場合、その地域でのシカの生息数管理は抜本的見直しを迫られる事になり、民間参入が「無かったこと」にされる可能性もあります。そうなると、参入準備をしていた企業にとっては大損以外のなにものにもならない事態になるでしょう。

異常気象等による野生動物の大量死は珍しくない現象で、過去も度々起きています。ところが、明治に大量死の発生と食肉・毛皮需要の増加があってから、日本の野生動物の生息頭数は適正頭数より低めに推移してきており、少々の異常気象があっても食料を奪い合う同種が少ないため、広範囲での突発的大量死は近年見られませんでした。近年の野生動物の生息数増加は、大量死の可能性も増している事を意味しており、今回の大雪でそうなった場合、ある意味で日本に自然なサイクルが戻ってきたと言えるのかもしれません。

歴史的大雪とは言え、まだ積もってから間もないため、野生動物に今後どう影響するかは現時点では不透明です。しかし、過去の事例から想定されるシナリオに備え、今審議が進んでいる鳥獣保護法改正と、改正後を睨んだ企業の動きに今後注目した方が良いかもしれません。


参考文献
依光良三「シカと日本の森林」
太田猛彦「森林飽和―国土の変貌を考える (NHKブックス No.1193)」
河合 雅雄、林 良博「動物たちの反乱 (PHPサイエンス・ワールド新書)」




これをアップした今、ニューヨークは深夜です。クッソ眠いです。雪で飛行機帰れるか心配です。レベル99は大井だけなのが救いです。

2014年2月10日月曜日

韓国軍を嗤う新聞。ソースはネット

最近、やたら韓国・中国ネタが雑誌記事を賑わせていますが、新聞でも盛り上がりを見せているようです。特に最近の産経新聞は韓国軍ネタを多く取り上げてますが、「それって、何年か前に2chで話題になった話よね?」としか言い様がない、古いネタを引っ張ってくる安い紙面作りだったりします。週刊誌ならともかく、新聞社様がそれをやるのはどうよという気がしないでもないですが、今回の産経は韓国を嘲笑おうとして、とんでもない墓穴を掘ってしまったようです。


一方、圏内に入ってきた不審機にスクランブルをかける戦闘機はというと、最新の「F-15K」は機体の安定を保つピッチトリムコントローラーなどの部品不足で共食い整備が常態化しているうえ、運用面でも問題が山積。07年には有名な「マンホール撃墜事件」も起きている。
機体修理のため滑走路から整備場へ移動させていたF-15Kがマンホールに左主脚を突っ込み、左主翼が破損、大破したという事件だ。
誘導路から外れてわざわざマンホールの上を通過させる運用も問題だが、現地報道でこのマンホールの工事が手抜きだったことも判明。周囲の隙間をセメントで充填(じゅうてん)しなければならないのに、適当に板を張って上にセメントを塗っただけだったのだ。そこへ重さ約15トンの戦闘機が乗ったのだから、陥没するのも当然。普通の道路でも大問題だが、こんな手抜き工事を空軍基地で施工するのが韓国水準だ。



2007年に韓国空軍のF-15Kが基地内を移動中にマンホールに脚を突っ込んだ事故です。これは韓国軍のお粗末な状況を示す例としてよくネットで挙げられています。ところが、この記事中にある「事故を起こしたF-15」の写真ですが、これはどう見ても韓国軍が持っているF-15Kでありません。



この写真は米空軍が保有するF-15の脚がトラブった写真なのですが……。韓国を馬鹿にする記事で、まさかのアメリカを馬鹿にする記事。天下の産経新聞が、ネットで見つけた韓国話に付いてた写真を裏取りもせずに紙面に載せるほどお粗末だとも思えないので、実は韓国軍をバカにするつもりで米軍をコケにしたいという、岡田敏彦記者の高度な深謀遠慮が働いているのかもしれません。


韓国軍のF-15K戦闘機

さて、産経新聞の仰るとおり、韓国空軍が高価な戦闘機の脚をマンホールに突っ込ませたのは、実にお粗末な事故です。ただ、機体の損傷は軽微なレベルで、事故としての程度は重大なものではありません。ここで、ここ20年間に起きた、お粗末な原因による航空機の重大事故を振り返ってみましょう。

  • 1995年。訓練中、僚機のF-15を撃墜。全世界のF-15で、唯一の公式被撃墜記録。
  • 1996年。環太平洋合同演習(リムパック)中、標的を曳航していた米海軍のA-6曳航機を誤って撃墜。
  • 2007年。F-2支援戦闘機の配線を逆に挿したため、離陸直後に墜落、炎上。

いずれも死者が出なかったのが不幸中の幸いでしたが、機体は修復不可能なまでに破壊された重大事故です。問題はこれ、全て日本がやらかした重大事故なんですが……。

韓国の軽微な事故を嗤っていると、日本はもっと重大な事故を複数回起こしている事でブーメラン喰らいますよ? F-15が1972年に初飛行してから2014年の今日に至るまで、「世界唯一のF-15撃墜国(ただし味方の)」が日本だという事実の重大さを、少しは冷静になって考えてみる必要があるでしょう。


世界で唯一「撃墜」されたF-15。千葉のゲーセンに転がっている(提供:MASDF)

さて、ここまでコケにする調子で書いてきましたが、真の問題は無関係の写真を載せたことでも、実は日本の方が重大事故起こしている事でもありません。産経新聞は盛んに日本を「平和ボケ」とする論調の記事を出し、安全保障についての危機意識を国民に喚起しており、安全保障について一言ある新聞のはずです。

昨年末、我が国の安全保障政策の基本となる「国家安全保障戦略」が策定されました。この中で、アメリカとの関係強化に続き、韓国との軍事的協調関係を築くことが下記の通り強調されております。


隣国であり、地政学的にも我が国の安全保障にとって極めて重要な韓国と緊密に連携することは、北朝鮮の核・ミサイル問題への対応を始めとする地域の平和と安定にとって大きな意義がある。このため、未来志向で重層的な日韓関係を構築し、安全保障強力基盤の強化を図る。

このように、現状の日本の防衛政策は、韓国が味方か、最低でも敵対しない関係にある事が大前提になっています。しかし、現実には日韓関係は冷えきっており、首脳会談の見通しすら立っておらず、日本が韓国を味方であると一方的に決め付けている状況です。中国の影響力増大により、「韓国は味方」と言う前提が崩れるかもしれないと近年言われている中で、韓国軍を嘲笑する記事を日本の新聞社が書く事を「平和ボケ」と言わないのならば、何を平和ボケと言うのでしょうか。こちらが味方だと見做している国の軍隊に対し、軽微の事故をあげつらう産経新聞の姿勢はあまりに無節操です。

韓国をバカにするネタを出す一方で、日本唯一の韓流エンタメ新聞"韓Fun”を発刊し、好韓嫌韓双方から搾取してきた愛されてきた産経新聞社。今月一杯で韓Fun休刊を決定したことで、より一層嫌韓相手の商売に邁進されるんでしょうか。