ファクトチェックは難しいよ。
LINK: 「ディズニープラス」契約者は訴え起こせず、不法死亡訴訟でディズニー側が主張 – CNN.co.jp
本当はD23関連の記事を書きたかったけどちょっと気になったので。
CNN.jpは「「ディズニープラス」契約者は訴え起こせず、不法死亡訴訟でディズニー側が主張」というタイトルの記事を公開しました。フロリダ ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート、ディズニー・スプリングスのレストランで食事をした夫婦が、自身が持つナッツと乳製品のアレルギーに対し、アレルゲンがないか何度も確認したにもかかわらず、レストランでアレルギー反応を起こし、死亡したという大変痛ましい事故が元にあります。
しかし、
これに対してディズニー側は、ピッコロさんが19年に動画配信サービスのディズニープラスで1カ月の無料トライアルを契約していたことを理由に、訴えを退けるよう求めた。トライアル契約には、紛争が発生した場合は全てディズニーとの仲裁によって解決するという条項が含まれていた。
と記事にはあります。
本当にディズニーのみの過失なのか?
が、この日本語版の記事には抜けている情報が多数あります。CNN.comの元の記事を。
まず、事故が起きたレストランは、ディズニー・スプリングスの「Raglan Road Irish Pub」です。このレストランは、リゾート内にある商業施設であるディズニー・スプリングス内の有名な場所ですが、運営は独立しており、ディズニーが所有/運営しているものではありません(ディズニー・スプリングスは東京ディズニーリゾートにおけるイクスピアリみたいな場所)。
LINK: Raglan Road Orlando | Irish Restaurant & Pub
そのため、本来であればRaglan Road Irish Pubの運営者と原告との問題であり、ディズニーの過失はないとはいえないかもしれませんが、ごく限られた部分になるはずです。ディズニーのスポークスパーソンは今回の“ディズニープラス契約がもとで訴訟を破棄”の部分に関しても反応しており、このようなコメントを出しています。
We are deeply saddened by the family’s loss and understand their grief,” a Disney spokesperson said Wednesday. “Given that this restaurant is neither owned nor operated by Disney, we are merely defending ourselves against the plaintiff’s attorney’s attempt to include us in their lawsuit against the restaurant.
(ディズニーの広報担当者は水曜日に「私たちはご家族の喪失を深く悲しみ、その悲しみを理解しています。このレストランはディズニーの所有でも運営でもないことから、私たちは、原告側の弁護士がこのレストランに対する訴訟に私たちを含めようとしていることに対して自衛しているに過ぎません」とコメントしている)
このスポークスパーソンのコメントは現時点ではCNN.co.jpの記事は反映されていません。
ディズニープラスのトライアルが原因なの?
訴状被告側であるディズニー側が提出した文書はこちらです。これを読む限り、原告はDisney+の(上記で述べられた)トライアル契約と、My Disney Experienceにて、事故が起きた2023年にフロリダ ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートのパークチケットを購入したことが“同時に”関係してくると述べられています。事故の起きたタイミングのパークチケット購入時にもアクセプトしたことが本件のポイントとなります。
Then, in September 2023, Piccolo also agreed to the My Disney Experience Terms and Conditions (Streit Decl. ¶ 9). At that point, Piccolo had agreed to the Terms of Use (id. ¶ 7) Piccolo logged into his Disney account (id. ¶¶ 7-9). After entering the email address used to create his Disney account, Piccolo was prompted to “review & accept Walt Disney World terms” (id. ¶8). The webform included a checkbox that states, “I have read and agree to the My Disney Experience Terms and Conditions” (Streit Decl. ¶ 8). Piccolo selected the checkbox and “Agree & Continue” directly below the disclosure (id. ¶¶ 8-9). The Terms and Conditions were underlined in blue font and provided a hyperlink directly to the document (id.). Piccolo could not have completed the login without agreeing to the Terms and Conditions and Terms of Use.
LINK: Case No. 2024-CA-001616-0
また、この中では原告がディズニーを相手に訴えを起こす理由として、メニューがウォルト・ディズニー・ワールドのウェブサイトに掲載されていた、ということを挙げています。そこに対し、ディズニー側はDisney+、そして直前のパークチケット購入にて規約に同意したという根拠を持ち出しています。
The Complaint alleges an agency relationship between landlord and tenant. But the only facts supporting this theory are “representations” about Raglan Road’s “allergen free food” on the Walt Disney World website. Piccolo alleges that he relied on the website in choosing to dine at Raglan Road. But Piccolo ignores that he previously created a Disney account and agreed to arbitrate “all disputes” against “The Walt Disney Company or its affiliates” arising “in contract, tort, warranty, statute, regulation, or other legal or equitable basis.” This broad language covers Piccolo’s claims against WDPR. Because the parties agreed to arbitrate these claims, the Court should compel arbitration and stay the proceedings.
LINK: Raglan Road™ Irish Pub and Restaurant | Disney Springs
Opinion: From the “D”post
ディズニー・スプリングス内で発生した痛ましい事故ではありますが、運営者が異なるとなると、ネット上のように過剰に反応するのもおかしな話に見えます(ディズニーの責任がゼロとは思わないですが、少なくとも「ディズニープラスのトライアルを一度でもしていたらどんな訴訟も起こせない」とはまったく思わない)。基本的にネットではディズニーは嫌われ者なのでこういったゴシップに流されがちですが、落ち着いて事実をチェックするのが良いと思います。
まあ確かにディズニーがなぜそんな条項を引き出してきたのかは謎ですね。それは同意するけれど背景を見ておかないと判断ができません。察するにディズニーが行った弁護士的表現をそのまま外に出すことで、原告が世論を味方につけようとしたって感じだな(そしてそれが的確にヒットした)。
調べていないですが、ディズニー以外にも同様の条項が含まれるように思えます。その辺は識者に任せたいと思います。
「何らかの損害が生じても、お客様はApple、その取締役、役員、社員、関連会社、代理人、請負業者、またはライセンサーに対し訴訟を提起せず、損害賠償を求めないことに同意するものとします」
LINK: Legal – Apple Media Services – Apple
TechnoEdgeはバランスのよい記事をあげています。
LINK: ディズニー、リゾート内の死亡訴訟を『ディズニープラス規約』根拠に取り下げ求める。裁判外解決を主張 | テクノエッジ TechnoEdge
追記
続報が出てきました。ディズニーは本件を法廷で争うことになり、時間をかける選択を取りました。