若松真平
岡下順市さん(61)は、東京都世田谷区にある運送会社の社長を務めている。
創業家一族ではないが、働きが認められて4年前に会社を任された。
70台ほどの車両を使って新聞や食品の輸送、家具や家電の組み立て設置などを手がけている。
昨年8月13日の昼過ぎ、出先にいた岡下さんの携帯電話が鳴った。
かけてきたのは、本社の運行管理者だった。
「ドライバーから事故を起こしたと連絡がありました」
止まっていたごみ収集車をよけようとして、民家のカーポートにぶつけてしまったそうだ。
インターホンを鳴らしたが、住民は不在だという。
岡下さんは「現場を離れず、まずは110番するように伝えて」と指示した。
夕刊を輸送中で急いでいたが、そこを離れてしまっては当て逃げになるからだ。
まもなく警察官が駆けつけて現場を確認。
確認が終わった段階でいったん夕刊を配送し、再び民家の前で待機させることにした。
しばらくして住民の女性が帰宅。
ドライバーが平謝りすると「ちょっとこすったぐらいですから大丈夫ですよ」と言ってくれたそうだ。
「大丈夫とのことだったので、いったん会社に戻るそうです」
運行管理者から連絡を受けた岡下さんは、それを聞いても安心できなかった。
自分の目で確かめるべく、電話をした上で直接謝罪に行くことに。
「ぶつけてしまった運送会社の社長をしている岡下と申します。本当に申し訳ありませんでした」
すると女性は「気にしなくていいですよ。運転手さんも平謝りでずっと待っててくださったんですから」と言ってくれた。
カーポートを確認したところ、ゆがみなどはなく、塗装で対応できそうだった。
ぶつけてしまったドライバーは塗装の技術もあったので、後日、自分たちで補修することを申し出た。
約1週間後、ドライバーだけでなく岡下さんも作業に同行。
ジリジリと日が照りつける、暑い日だった。
同行したのは、あらかじめ「自分がやろう」と決めていたことがあったからだ。
そのために持ち込んだものが、…