「負けるのが怖い」「勝敗をつけられたくない」「他人と比べられたくない」。今の時代、そう考える人は多い。「みんな仲良く」が正義とされ、会社や学校から「誰かと競うこと」が排除された結果、「競争への免疫力」が低下してしまった。
この現状に警鐘を鳴らし、「競争には素晴らしい価値がある」と語るのが、金沢大学教授の金間大介さんだ。モチベーション研究を専門とし、現代の若者たちを分析した著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』が話題になるなど、メディアにも多数出演している。その金間さんの新刊『ライバルはいるか? ー科学的に導き出された「実力以上」を引き出すたった1つの方法』では、社会人1200人に調査を行い、「誰かと競うこと」がもたらす驚くべき価値を解明した。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「幸福に関する意外な調査結果」を紹介する。
「誰かと競うこと」は「悪」である。
近年、とくに若い世代を中心に、こういった考え方が広まっているように感じる。
しかし、競争することは本当に「悪」なのだろうか?
競争を排除し、「みんな仲良く」を徹底した「行き過ぎた協調社会」になったことで失われたものもあるのではないか。
この問いに答えを出すために、今回、社会人1200人を対象とした大規模な調査を行った。
ここでは本研究において、「最も衝撃的」であった調査結果を紹介しよう。
「幸福度」に関する驚きの調査結果
本研究では、次の設問を設けた。
「あるはしごを想像してください。一番上の10段目があなたにとって最も理想的な状態で、一番下の0が最悪の状態を表します。あなたは今、どの段にいると思いますか?」
これはOECDが国際的なウェルビーイング調査で使用している「カントリルの梯子(はしご)」と呼ばれる設問を、本研究にそのまま展開したものだ。日本では、いわゆる「幸福度調査」と呼ばれる。シンプルでわかりやすいがゆえに、使い勝手がいい。
本研究では「ライバル」という概念に対するイメージも問うているため、それをポジティブ/ネガティブに分けた上でまとめたのが、下記の結果だ。各年代における回答の平均値を示している。
ライバルが「一度もいない」+「ネガティブ」なイメージ
・20代:3.8 ・30代:4.2 ・40代:4.2
ライバルが「一度もいない」+「ポジティブ」なイメージ
・20代:4.4 ・30代:4.5 ・40代:4.6
ライバルが「現在いる」+「ネガティブ」なイメージ
・20代:4.6 ・30代:4.8 ・40代:4.7
ライバルが「現在いる」+「ポジティブ」なイメージ
・20代:5.3 ・30代:5.1 ・40代:5.1
結果はご覧の通り。
「ライバルあり」の方が幸福度が高く、かつ「ライバルに対しポジティブなイメージを持つ」人たちの方が、「ライバルに対しネガティブなイメージを持つ」人たちの幸福度を凌駕している。
最も差が大きいところでは、「ライバルに対しポジティブな印象を持つ、現在ライバルがいる20代(5.3ポイント)」は「ライバルにネガティブな印象を持つ、一度もライバルがいたことがない20代(3.8ポイント)」と比べて、幸福度が39%も高い。
ライバルがいる人の方が「幸せ」
ライバルがいる人の方が、幸福度が高い。
この点については年代における差異はほとんどなく、全年代型の傾向と言っていい。
なぜ、ライバルがいる人の方が幸福度が高いのか。もちろん、因果関係が逆の可能性も十分にある。もともと幸福な人たちの方がライバルを見つけやすい、という可能性だ。
ただ、その他にも合理的な根拠が研究を通して明らかになった。
どのような要素が「ライバルあり」派の幸福度を上げているのか。以降の章でじっくり検証・解説していこうと思う。
(本稿は、書籍『ライバルはいるか?』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)
書籍『ライバルはいるか?』では、社会人1200人に行った調査や、世界中の論文や研究からわかった「競争」の認識が変わる様々な事実が掲載されています。本書を読めば、「競争」を力に変えて、「充実した人生」を手に入れられるでしょう!
★仕事の満足度が高まる★
★挑戦する勇気をもらえる★
★人生の停滞感を打破できる★
研究者が1200人を調査して解明。
知れば人生が変わる
「競争」の真実!!
誰かと競うことは本当に「悪」なのか?
1200人を徹底調査してわかった「意外な真実」!!
★ベストセラー『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』の著者、渾身作!!
現代では「みんな仲良く」が正義とされ、「競争」は徹底的に排除された。しかし、本当に競争は「悪」でしかないのだろうか?
そこで1200人を対象に調査を行い、世界中の研究や論文を調べたところ、驚くべき真実が見えてきた。
「競争」から逃げて、実力を秘めたままでいるか。
「競争」の力を借りて、実力以上を発揮するか。
賢く選ぶために知っておきたい真実を、この本でお伝えしよう。
第1章 ライバルは敵か、味方か―1200人調査で判明した意外な事実
たくさんいる人たちの中で、どこか気になる存在/ライバルは相反する感情をもたらす/1200人のライバル実態調査の結果から/ライバルはどこに現れる?/「幸福度」に関する驚きの調査結果……など
第2章 現代からライバルが消えた理由―こうして日本社会は競争を葬った
「競争相手」のいない世界/競争は、いつから「悪」になったのか?/「みんな仲良く」という時代の副作用/「無菌状態化」する日本企業の職場環境/競争がなくなったことで失われた光景……など
第3章 ライバルの真のイメージ—それは本当にネガティブな存在なのか
負けることは、恥ずかしいことなのか?/1151人が抱くライバルのイメージ/ライバルがいない人ほど、ライバルを「恐れる」/ライバルがもたらす、大切な「ある感情」……など
第4章 ライバルがいるから頑張れる―意欲と満足度に与えるプラスの影響
入社3年目の「社内マップ」/ライバル観の4つのタイプ/なぜ若手にとって「目標型ライバル」は重要なのか?/統計に表れた「ライバルの有用性」……など
第5章 ライバルこそがあなたを成長させる―競争の果てに得る4つの成長実感
スーパー技術者たちの戦い/なぜ勝者も敗者も、同じ感情を抱くのか/ライバルの有無と成長実感の関係/あの人がいなかったらここまで来れなかった……など
第6章 恋のライバルと戦う—敗北は人生に何をもたらすのか
人が恋に落ちる瞬間/エスカレーターの一段に無限の宇宙を感じる/「恋のライバル」という残酷な存在/4人の恋の結末……など
第7章 ライバルの効能を科学する—世界の研究が明らかにした成功との相関
25秒もタイムが縮まったランナー/膨大な先行研究から導き出した2つの有用性/「比較された従業員」が辿る、正の道と負の道/ライバルのいる人といない人、どちらの年収が上か……など
第8章 ライバル意識のダークサイド―敵対心という心の闇との向き合い方
アメリカで出会ったイケメンの友だちと天才/勝たなければいけないという気持ちが行きつく先/「勝利至上主義」の是非とライバルに対する敵意/「足を引っ張る」ことに喜びを感じる日本人/どんな人が現れても、揺さぶられない自分でありたい……など
第9章 自分という最強のライバル—勝者であり続ける人が戦っているもの
ライバル研究「最大の疑問」/「若くして頂点を極めると成長が止まる」は本当か/藤井聡太がダークサイドと決別した瞬間/364日は「過去の自分」の勝ち/過去の自分に勝つ方法……など
第10章 ライバルと手を組むとき―最高のチームが誕生する瞬間
真に「競争から協調へ」が実るとき/「チームの一員としてふさわしいか」というプレッシャー/この世界は個人戦でできている/自分にしかできない何かを見つけるために……など