特集「クルド 迫害の歴史と今」

イラクやシリア、トルコ、イラン、そしてアルメニアなどに暮らすクルドの人々。長きにわたり民族としての権利を認められず、各国でマイノリティとして迫害を受けてきました。その背景には、植民地時代の国境画定や、大国間の勢力争いの歴史が深く関わっています。
1980年代末のイラクでは、サダム・フセイン政権がクルド人組織を抑制するため、大規模な掃討作戦を行い、わずか7ヵ月あまりで10万人から20万人以上のクルド人が犠牲になったと推定されています。
こうしたクルド人に対する虐殺・民族浄化は、世界的にもまだ広く知られているとは言えません。そして日本では近年、クルドの人々に対する深刻な差別やヘイトスピーチが続いています。
長い間にわたりクルドの人々が晒され、今もなお残る暴力の実態と、その中で生きる一人ひとりの姿、共に差別に抗う人々の声を、国内外の現地取材から伝えます。
Contents 目次
取材レポート
クルド人への民族浄化―今も続く苦しみと、連帯への祈り(2025/3/21 佐藤慧)

2024年末、イラク南部の人里離れた砂漠で、約150人のクルド人女性と子どもの遺体が発見された。中には生後10日未満の乳幼児の遺骨もあったという。「アンファール作戦」による虐殺の被害者だと見られており、周辺には同様に遺体の埋まっている場所が数ヵ所確認されている。クルド人に対する虐殺は、未曾有の民族浄化でありながら、まだまだ世界的に認知されているとは言い難い。
ボクシングから生まれるパワーと連帯―イラク・クルド自治区、国内避難民キャンプに生きる女性たちの声(2025/3/18 安田菜津紀)

キャンプの片隅にあるコミュニティセンターを訪れると、プレハブの施設から、アップテンポの音楽と共に、「バチン!」とミットを弾く小気味良い音が響いてきた。グローブをつけた女性たちに、「ジャブ!ジャブ!」とよく通る声で指示を出しているのはナティーファさんだ。この日は「ボクシング・シスターズ」のプログラムで、10名ほどがトレーニングに励んでいた。
写真で伝えるクルドの「新年」ネウロズ(2025/3/17 佐藤慧・安田菜津紀)

勢いよく黒煙が上がったかと思うと、次々と狼煙のように煙が昇る。クルドの新年、「ネウロズ(クルド語で「新たな日」)」を迎えるための炎が、いたるところで焚かれているのだ。(中略)3月の春分の日前後には、新年を祝うこの祭りに人々が集う。これまで現地で取材した「ネウロズ」を、写真と共にお伝えする。
クルド人へのヘイトデモ差止裁判―日本国憲法前文「平和的生存権」を再考する(2025/2/12 安田菜津紀)

2025年2月12日、埼玉総合法律事務所にてとある裁判に関する記者会見が開かれた。被告は埼玉県南部の川口市や蕨市に暮らすクルドの人々に対し、ヘイトスピーチやヘイトデモを繰り返してきた渡辺賢一氏(日の丸街宣倶楽部)だ。そうした街宣活動の差し止めや、その被害に対する損害賠償を求め、本件裁判は昨年24年末に提訴されている。
取材短報
イラク北部クルド自治区現地取材――続く困難な日々、毒ガス兵器の影響は今も(2024/12/18 佐藤慧)

イラク、バグダッドから北東約260キロ、北部のクルド自治区の中でも東端に位置するハラブジャの街――。雪に染まる山脈を越えたらもうそこはイランだ。ハラブジャは1980年から続いたイラン・イラク戦争の最前線として、フセイン政権下のイラク軍に化学兵器を投下された。1988年3月16日、空から落ちてくる大きな鉄の塊は、のどかな街を地獄へと変えた。
Radio Dialogue
Radio Dialogue ゲスト:師岡康子さん「クルド人への差別と法規制」(2025/2/5)

日本に暮らすクルドの人々へ対する差別が深刻な事態となっています。ネット上だけではなく、路上でのヘイトスピーチや、行政や公権力による差別も生じています。ヘイトデモ首謀者に対する「デモ禁止の仮処分決定」が出ましたが、こうした対応にも限界があり、一部の市民からは実効性のある条例制定を求める声もあがっています。徐々に各地に広がる差別禁止条例、その先例としての川崎の条例、そして十分な審議もないまま進められる「後退した」条例など、『ヘイト・スピーチとは何か』の著者でもある弁護士の師岡康子さんと一緒に、差別と法規制について考えていきます。
▼Dialogue for Peopleではクルドの人々への取材を継続的に行ってきました。過去の取材発信についてはこちらから。
▼Dialogue for Peopleのフリーマガジン『VOICE OF PEOPLE』2025年春発行のVol.9では、「クルド人への民族浄化――ハラブジャの記憶」をテーマに、安田菜津紀・佐藤慧によるイラク北部クルド自治区の取材レポートを掲載。全国30カ所以上で無料にて配布しています。ぜひお手にとってご覧ください。
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