1963年(昭38)講談社刊。日影丈吉はフランスのミステリーの翻訳家としてのほうが馴染みがあった。この作品は昔読もうと思って書棚に並べたこともあったが、読めなかった経緯がある。どこかジョルジュ・シムノンに似た作風に思えた。 群馬県の渋川とその周辺の村が主な舞台。妻をお産で亡くした男は、生まれた子供も生後半年で病気で亡くす。その子は妻の実家で育てられていた。葬儀で妙な出来事が起きなければ、その男の時間経過における心象風景を丹念に綴った文芸作品のように感じられる書き方だった。全般的に暗澹としたタッチなのは、その男の生きる姿勢が保守的で、あまり意志や目標や未来が見えてこない点にあると思えた。また、親…