リスト::小説家 作家、小説家。大蟻食。1962年新潟県生まれ。1991年『バルタザールの遍歴』で第3回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。 2003年『天使』で第53回平成14年度芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。2008年『ミノタウロス』で第29回吉川英治文学新人賞を受賞。 夫=佐藤哲也(小説家)
タイトル 「ミノタウロス」(文庫版)著者 佐藤亜紀文庫 392ページ出版社 講談社発売日 2010年5月14日 <<この作者の作品で既に読んだもの>>・今回の「ミノタウロス」だけ << ここ最近の思うこと >>海外翻訳小説が読みにくいと思うようになったきっかけは『タイ麦畑でつかまえて』だったと思う。十代の終わり掛けか、二十代前半くらいに読んだと思うんだけど、馴染みのない文章と単語とスラング?のようなもので構成された物語が全く理解&共感が出来ず、終始「?」のまま読み終わった。時を経て、中年になった現在にあの物語を思い返してみる。するとやっぱり頭の中には「?」しか浮かんでこない今日この頃(笑)では…
第二次大戦末期。敵軍が迫る中、国有財産=ユダヤ人からの没収財産を積んだ「黄金列車」が行く。積荷の財宝を巡ってさまざまな人々の思惑が交差する中、主人公たちは官僚の論理を駆使して淡々と問題に対処し、列車と財宝を守り抜く。そんな感じの話。 黄金列車 (角川文庫) 作者:佐藤 亜紀 KADOKAWA Amazon 正直に言うと、最初から最後まで、退屈な小説であった。ところが、である。三分の一ほど読み進んだあたりから、この「退屈さ」の意味が変わり始める。淡々と積み重ねられる「退屈な」描写を背景にして、登場人物たちが確かに心の中に持っている芯のようなものが、鈍く重い輝きを放ち始める。読み終えて、深い余韻が…
読んだ本 『喜べ、幸いなる魂よ』 佐藤亜紀 KADOKAWA 佐藤亜紀作品は『スウィングしなけりゃ意味がない』『黄金列車』『バルタザールの遍歴』を読んだことがあり、どれもおもしろかったのでこの本も読んでみました。今までの作品とちょっと違う気がします。これは、18世紀のベルギーで亜麻を扱う商家の双子の姉ヤネケと幼なじみのヤンを中心に展開する家族の物語。さぁ、いったいどの切り口から読んだらいいのだろう?どの登場人物に心惹かれるのかにもよるなぁ。 最初に思ったことは、子供産みっぱなしだし、ヤンのことも突き放してしまうし「ヤネケ、クールでドライすぎない?」 よく考えてみると今の価値観とは違うこの時代に…
界隈の文脈があるのでそれを知っていないと理解できない話。
祝・復刊!佐藤亜紀『ミノタウロス』 ミノタウロス (角川文庫) 作者:佐藤 亜紀 KADOKAWA Amazon 長らく品切れ状態だった佐藤亜紀『ミノタウロス』が、角川文庫から復刊された。めでたい。『スウィングしなけりゃ意味がない』が出て以来、入手困難だった佐藤亜紀の本がどんどんKADOKAWAから復刊されているのでありがたい限りである。どんどん読まれてほしい。この小説は雑誌「本の雑誌」による2007年に出た本のベスト1に選出され、また第29回吉川英治文学新人賞受賞も受賞している。私が読んだのは話題になってからずいぶん後、講談社文庫版が出た頃だったと思う。 20世紀初頭のウクライナ、内戦サバイ…
今日読んだのは、 佐藤亜紀『吸血鬼』です。 舞台は1845年のオーストリア帝国領最貧の寒村・ジェキ。 土着の風習が色濃く残る土地で、次々と人が怪死していきます。 が、ホラー小説やファンタジーなどではなく、著者の歴史に対する深い洞察に基づいた小説で、これ1冊で19世紀のポーランドの在りようが大体わかってしまいます。 ちなみに、翌年の1846年はクラクフ蜂起が起こった年で、この出来事も物語に大きく関係してきます。 しかし、色々と調べていて思ったのですが、ポーランドという国は、あらゆる国に分割され統合され、歴史にもみくちゃにされた不遇な国ですね……。 それでは、あらすじと感想を書いていきます。 あら…
今回ご紹介するのは、佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』です。 ナチ政権下のハンブルクで、敵性音楽のジャズに夢中になる少年たちの危うくも輝かしい青春と、何もかもを台無しにする戦争の滑稽さと狂気。 あの狂気の時代にも、自分の感性と力をもって生きようとした若き命があったことが瑞々しく退廃的な文章と、登場するジャズのナンバーから伝わってきました。 それでは、あらすじと感想を書いていきます。 あらすじ おすすめポイント 輝かしい不良少年たち 奪うものへの憎悪 今回ご紹介した本はこちら その他のおすすめ作品 あらすじ 1940年、ナチ政権下のドイツ、ハンブルク。軍需会社経営者の父を持つブルジョワの…
英雄的でない「歴史」について書くということ 入手困難だった佐藤亜紀の傑作、『吸血鬼』が待望の文庫化である。私が読んだ佐藤亜紀作品の中では一番好きな作品なのでとても嬉しい。ぜひ多くの人に読んでもらいたい。 吸血鬼 (角川文庫) 作者:佐藤 亜紀 KADOKAWA Amazon 舞台は19世紀のポーランドの僻地の村である。しかし実のところ、19世紀にポーランドという国は存在しない。プロイセン、オーストリア、ロシアの三国による三度にわたる「ポーランド分割」により、ポーランドという国は消滅していたのだ。再度の独立は第一次世界大戦の終結を待たなければならない。 この作品の舞台となる村は、上記のうちオース…