京つう

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2025年01月23日

役をとられ面白くない沖田は、休憩と

役をとられ面白くない沖田は、休憩と一言発せば麗の元に寄った。



「久しぶりに打ち合いでもしませんか」



「なに、気にくわなかった??仕方ないでしょ、近藤さんに言われてるんだから」



「減らず口」



二人はフンと鼻で笑えば、木刀の切っ先を双方に向けた。

だが、途端に麗は懐をあさると、それを藤堂に渡した。



「持っておいて、誰かさんは私をのめすつもりだから……。」


「頑張れよー、麗」


麗は道場の真ん中で沖田と打ち合いを繰り返す中、藤堂はそれを握りしめた。



「ぱっつあん…俺、毎回思うんだけど、これって形見??」



「形見…形見になんのかな…」


「高級なもんだよな…これ」


「短刀だが、俺には高級かそうじゃねえかはわかんねえな」


藤堂はくるくるとそれを裏、表と見始めた。https://postherefree.com/61/posts/1/1/2340742.html https://adguru.net/en/%E9%A1%94%E3%82%92%E4%B8%8A%E3%81%92%E3%82%8B%E3%80%82/126992?preview=1 https://www.lacartes.com/business/-/2620895
それは、短刀だった。

短刀の鞘を抜く藤堂は、光に照らしたりと興味津々に刃の角度を変えた。



道場の真ん中では激しい打ち合いが繰り返されていたが、ダンッと強い踏み込みをかました沖田が、木刀の切っ先を麗の胸元ですん止めさせた。



「また腕をあげましたね」



麗は一つ舌打ちをすると、沖田の木刀を防ごうと、斜めに構えた木刀を床に下ろした。



「また負けた…三段突きには勝てないわ」



「太刀筋が読めない麗の刀もなかなかですよ」



二人は鼻で笑うと軽く頭を下げたが、周りに座る門下生は目が点の状態だった。



゙人間の動きじゃない…″門下生達の目には、二人が人間離れした動きに見えていた。

近藤からはじまり腕のたつものが軒を連ねる試衛館の人間。

その中でも麗は変わっていた。

天然理心流の剣術を元に、オリジナルを加え、改良している剣だ。

太刀筋が読めず自由奔放とも言える型。
だが、体の柔軟性を使い相手の急所をとらえる。

一風変わった剣術を使う。


そして、天性の才能をもつ沖田。

太刀筋が綺麗な沖田の剣は相手に読まれやすいが、しとめるとなったら絶対的な三段突きを会得している剣である。

共に刃を持てば目つきが変わるという、内に秘める狂気は未知数。

二人はまだ19歳だ、若さとは裏腹に剣の才能に恵まれていたのも事実である。

木刀を壁にかける二人の姿に門下生は次々に唇を動かした。



「あの二人がまともに戦ったらどっちが勝つんだろうな……」



「沖田先生だろ」



「いや…翁田先生だろ…」



「そう言えば漢字が違うだけで読み方は一緒だよな、あの二人…それにお似合いだよな…」



「でも久しぶりじゃねぇか…あの二人がまともに話してんの見たのは…」



「確かに…ここ最近なかったもんな…」



門下生の間では口々に、噂が飛び交った。


《二人は恋仲の関係だ》


《実は兄弟だ》


どれも違うが、勝手に噂をう呑みにする門下生は多々いた。


そして、門下生達は密かに麗に対し、恋心を抱く者もいた。
女を捨てていると言われても麗は容姿が綺麗な方だ。
がさつな性格だが、面倒見のよい性格に門下生達は目をとろんとさせていた。


人の恋心は読めるのに、恋愛に疎い麗はその気持ちに全く気づいていないのだが…。


そんな麗は近藤の部屋の前にいた。



「なんで総司がいるの」



「私も呼ばれたんです、その言葉そっくりそのまま返しますよ」



「減らず口」
  

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2025年01月08日

「そういや、何であんな急いでたんだ?」

「そういや、何であんな急いでたんだ?」

永倉が藤堂に聞いた。


確かに、始め物凄い勢いで走ってきて、それにぶつかり、今に至る。


「あぁ!!そうだ!!」


藤堂は勢い良く立ち上がった。


「俺、会津に向かってたんだ!!」

「「会津ぅ!?」」


永倉と原田は顔を見合わせた。

「土方さん達なら蝦夷へ向かうんだろ?それに会津は惨敗って…」

一応それなりの情報は持っている。
永倉は首を傾げた。


「それはそうなんだけど、今会津に一が一人で残ってるらしいんだよ!!」


「はぁ?なんでだぁ?」

切羽詰まったように話す藤堂に原田は頭を抱える。


「なんかわかんないけど、一が一人で頑張ってるんだ!だから俺は、個人として新撰組にでなく、『斉藤一』と『会津』に助太刀に行こうと思って」

「なるほどね……」


永倉は頷いた。

「じゃあ!!久しぶりでもっと一緒にいたいんだけど、ごめん!!俺行くわ!」


藤堂は頭に笠を被り直した。


「おい。待てよ」

藤堂の肩をガシッと掴む。
振り返ると永倉、原田が笑っていた。


「今度こそはお前一人で行かせるかよ」

「俺らももちろん行くぜ?」


みるみる内に藤堂の目は輝き出す。https://mathewanderson7.pixnet.net/blog/post/171403957 https://mathewanderson.e-monsite.com/blog/--5.html https://share.evernote.com/note/0f101106-9f1c-ab28-5d51-19b895f2847e

「しんぱっつぁん…左ノ!!」

「おっしゃ!!会津、行ってやるか!!俺ら三人に怖いもんなんてねぇ!!」



「「「おぉおぅ!!」」」


三人は大きく腕を挙げると走り出した。


一方土方達は、榎本の戦艦で蝦夷地へ渡るべく、仙台へ向かっていた。

会津の近況はあまり分からない。
新撰組隊士も何名か斉藤と残った。

現在は、美海、土方、沖田、市村ぐらいとなった。


ちなみに、本来の歴史上では、沖田総司は近藤の死後、慶応4年5月30日に千駄ヶ谷の植木屋で近藤の死を知らず、一人で亡くなったという。
幾度なく黒猫を斬ろうとしたという逸話も残っている。



が、当の本人はピンピンだ。

「すみませーん。お腹空いたんですけどー」

なんて、呑気なものだ。


「私もお腹空きました~。土方さ~ん。なんか甘味処でも入りましょうよ~」

「ばっ!おめぇら!!自分の立場わかってんのか!?」


死ぬはずの沖田、いないはずの美海がいることによって、土方の旅はひとりぼっちではなかった。

仙台で数日は平穏な時を過ごせるため、少しは気が楽になっている。


「いいじゃないですか。死ぬ前に好きなもん食べときたいじゃないですか」


「あーあ。土方さんのせいでこの世に未練が残ったー。死ぬ前に甘味が食べたかったなー」

美海が白々しく沖田に便乗する。


「んな縁起でもねぇこと言ってんじゃねぇよ!!
第一、あんな中入ったらどうすんだ!新政府軍が攻めてきたら!!お前らは呑気に菓子食ってんのか!?」

美海と沖田はジト目で土方を見つめる。


「うっぜぇ…。……はぁ。市村ぁ。なんか甘ぇもん全部買ってこい」

土方は市村に金を渡した。
美海と沖田はニヤリと目を合わす。


「私もいきまぁす!!」

「おめぇらは残れ馬鹿!!顔割れてんだろうが!!」

土方は怒鳴りながらもどこか楽しそうに笑った。「どうぞ!!」

市村は腕に大量の干菓子を抱えて店を出てきた。


「これで満足かアホ共」


土方は美海と沖田に吐き捨てた。
沖田はうんうんと頷いている。


「副長!!」

沖田が干菓子を口に運んだ頃、突然市村が真剣な顔で叫んだ。
目線は土方の後ろにある。


土方は柄に手を掛けてすかさず振り向いた。
沖田も目付きを変えて刀に手を掛けている。
  

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2025年01月07日

バタバタバタバタッ

バタバタバタバタッ

「ふ…副長!!もうお身体は大丈夫なんですか!?」

美海の声を聞きつけ、市村が走り寄ってきた。

「あたりめぇだ。いつまでも休んでられねぇよ。斉藤くんを会津に向かわせたままだしな」


そう言うと土方は笑った。

あれから長い間、きっと一人で考えて、考えて考えて、乗りきったのだろう。


「迷惑掛けたな」

「いえ!!」


その一言だが、土方からは以前とは違い、新たな覚悟が見られた。

彼はこれからも、多くの重いものを背負わなくてはならない。


それが近藤さんが土方さんに最後に残したもの。



誠を背負うということ。


「本当に。迷惑掛けすぎですよ」 https://classic-blog.udn.com/3bebdbf2/181569993 https://carinaa.blog.shinobi.jp/Entry/11/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-122.html

「総司!」

沖田が柱に背をもたれて立っていた。

「早く行かなきゃ、斉藤さんまいってますよ」


「お前、身体は大丈夫なのか?」

「大丈夫です。土方さんは自分の心配をしてください」

「ふっ…。違いねぇ」

土方は小さく笑った。
沖田も笑った。


「会津へ、行くんですね。お供します。どこまでも」

沖田はふと真面目な顔になると、土方の前にひざまずいた。

沖田もまた、重いものを土方と共に背負っていく覚悟はできていた。

「あぁ…」

土方は沖田の手をとった。


会津へ向かう。と言っても、実は既にここは会津。

土方は会津に運ばれ、3ヶ月近くの療養生活を送った。

土方が運ばれたのは、まだ戦争の火の粉が降りかかっていない城下町。

会津へ向かう。と言うのは、今、たくさんの会津兵士とそれを率いる斉藤がいる会津の端の方だ。
辛うじて防衛しているが、時期に城下まで来ると予想している。

「土方さん。今からは?」

「白河口はもう駄目だ。おそらく斉藤くんは母成峠付近にいるとみている」


「母成峠……会津若松への道ですね」

沖田が言うと土方は頷いた。

「会津若松への道!?大分攻めてきているじゃないですか!」

市村が声を挙げると土方はまた頷いた。

「急ぐぞ」


「「「はい!!」」」


白河口の戦いは最初ばかりは会津が先手を打って白河口城を抑えたのが、直ぐに新政府側に落とされ、そこからは惨敗だったと聞いた。

新政府側も奥州越列藩同盟もうまく連携は取れなかったのだが、新政府側は徐々にあつまり始め、会津は負け続けた。

閏4月25日から始まり、春から夏まで約3ヶ月間掛けた戦いは会津の惨敗で終わった。


いよいよ会津城へ向けて敵は進軍している。

急がなければ会津城は火の海だ。


「斉藤隊長!!」

市村は斉藤を見つけるなり駆け寄った。

あまりにしっくりときていてすぐには気づかなかったが斉藤は髪を切っていた。

ポンポンと市村の頭を撫でている。


土方の予想通り、母成峠に向かう途中で斉藤と再会した。


斉藤は見ない内にボロボロになっていたが、特に目立った外傷はない。


「斉藤さん怪我は?」

沖田も遅れて彼の前へ行く。
なんやと心配だったのだ。


「ほとんどない。彼らが守ってくれていた」

斉藤が指す方向を見ると会津藩士が敬礼して立っている。

すっかり馴染んでいるようだ。


よく見れば彼らも洋装になっている。古典的戦い方をするのが特徴だった会津なため、少々驚きがあった。


「斉藤くん」

「土方さん」

斉藤は土方に向き直った。

「近藤さんの…ありがとな。ちゃんと、埋葬してもらった」

「いや。俺も近藤さんのは…あんなとこに晒されてちゃあ気がすまないから…」

近藤さんの?

美海は土方と斉藤を交互に見る。


「天寧寺だ」

「わかった」

沖田もそれは同じなようで不服そうな顔をしながら聞いた。


「ちょっと!さっきから近藤さんのとか言ってますが、なんですか?知りませんよ?」

「遺体、もらえたんですか?」

斉藤は残念そうに首を振った。

「遺体はもうみつからなかった…」

おそらく新政府軍に棄てられたのだろう。

「首だ」

土方が言った。

「首!?」
  

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2025年01月07日

なんとなく美海には想像がついた。

なんとなく美海には想像がついた。

だが、あれは危険すぎる。

少しは自分の身のことも大事にしてほしい。

「土方くんは怖じ気づく兵士達の先頭に立って、自分が一番に突っ込んでいったんだ」

「そういう人なんです」

沖田は頷いた。

「本当に今回はよくやってくれたと思う。流石新撰組の副長だ」

大鳥は覚悟を決めたように美海と沖田を見た。


「土方くんに伝えてくれ」

「はぁ」

美海は曖昧に答えた。


「『悪かった。君のことは認める。早く回復して、また合流してくれ』」

「それって…」

大鳥は困ったように笑った。

「彼の実力は本物だ。彼の力が必要なんだ。だから、席は開けて待っているぞ」

「そんなの自分で伝えてくださいよ」

美海はシレッと言った。

「柄じゃないんだ」


大鳥はまた困ったように笑った。
憎めない人だ。

「全く。似た者同士ですね。そりゃあ仲が悪いはずだ」

沖田はなんだか嬉しそうに言った。

「わかりました。確かに伝えておきます」

「頼んだぞ。私はこれで失礼させてもらう」

「早いですね。お茶でも出しますよ?」

美海は首を傾げた。

「いや、結構。これからの話し合いがあるんだ」

「そうですか。ではまた」

「あぁ。また後程、蝦夷地で会おう」

大鳥は手を挙げて去っていった。

また、か。

美海は自然と頬を緩めた。


土方が陥落させた宇都宮城は、数日後、東山道総督府からの援軍と合流した官軍に呆気なくに取り返された。

土方が負った傷は中々に酷くて、私達は伝習隊と会津へ行く途中に、療養していくことになった。


「土方さん…大丈夫ですか?」 https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-120.html https://note.com/carinacyril786/n/n806490114426?sub_rt=share_pb https://annapersonal.joomla.com/2-uncategorised/2-2025-01-05-14-61-69
「あぁ……」


1日目、土方が城を落とした日は旧幕府軍は2200人。
土方は別動隊として大鳥本隊と東西から挟み撃ちする予定であった。


ちなみにその中の新撰組は30人。
来ていたのは伝習隊、歩兵第七連隊、桑名藩、回天隊など。

土方はその中で参謀を任されていたようだ。
ちなみに大鳥は総督。

邪険に扱ってしまったが、結構すごい人だったようだ。


土方は道すがら家々に放火していったらしい。

上手いタイミングなのかそれを分かっていてなのか、宇都宮には南東の風が吹いて宇都宮城下にはものすごい勢いで火がまわった。

寺町も構わず放火し、その時寺に軟禁されていた老中を救出。


その後は回天隊は今小路門へたどり着くものの隊長が銃にやられ苦戦。
同時刻に新撰組は中河原門、下河原門へ接近するも、宇都宮城守備隊により戦死者続出。

竹藪を挟んでの壮絶な攻防戦に入ったが、どういう分けかどんどん官軍は下がって行く。

一旦城に退いたが、よっぽど焦っていたのか橋は落とさなかったため旧幕府軍は簡単に侵入。

宇都宮城は土方の放火により火の海。

ちなみにこの時歩兵隊が使っていた銃は標準より射撃間が短く、射程距離も倍だったとされている。


官軍は逃げ場を失い、これに圧倒され退いたはずだった。

この夜は宇都宮城の炎は消えずに燃えつづけたという。だが、官軍が引いたのも戦略あってのこと。
ただ引いたわけではなかった。


今回の土方隊からの宇都宮奇襲を守り切ったとしても、北西から迫ってくる大鳥本隊が到着してしまえば足元をすくわれる。
  

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2025年01月06日

新撰組の大将にこんなところでくたばられては困る。

新撰組の大将にこんなところでくたばられては困る。

なるべく人のいない獣道を選んで夜の月に照らされながら歩く。

特に話す話題はない。
なんだか口を開けばマイナスな言葉しかでない気がして。


「……すいません…」


沖田が何の前触れもなしに急に謝ってきた。

「えぇ!?何がですか!?」

美海は努めて明るく振る舞う。

なんとなくなんのことかはわかっていた。

「いえね。私がいない方が上手いこと話が進むだろうと思って」

「そんなこと…!」


結局、沖田はどこの屋敷でも中々気が持たず、刀を抜いてしまったのだ。


こんなに不器用な人じゃなかった気がするんだけどな。

いつもなら笑顔で上手く立ち回れるはずだ。


「…沖田さんがいなかったら、私が抜いていましたよ」

美海は苦笑いしながら近くの枝を折り、刀を振るように動かした。


「でも…」


「それに、私一人だったらあんなにたくさんの家は回れませんでした」

いらなくなったのか、美海は枝を地面に投げ捨てた。
「それに、あなたは何も悪くない」

美海は真っ直ぐに前を向いたままそう言った。


私達、新撰組も、幕府という木から折って使われ、要らなくなったら棄てられる。

そんなイメージが、ふと頭に流れた。


そんなことを思っている内に、境内に着いてしまったようだ。

「あ。斉藤さん。鉄くん」

「先輩!!」

市村が声を発すると、斉藤が小さく手を挙げた。https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/dccca06c491ffe1b3c0dba75b7761d14 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/12/25/190423?_gl=1*1k9rlce*_gcl_au*LTPe21veLZJBRJPdfAmRozqD1N1yu8xRDZ. https://ameblo.jp/freelance12/entry-12880124299.html

流石に春といえども夜なため、まだ肌寒い。

息が白くなった。


市村の元へ駆ける美海を沖田はぼんやりと眺めていた。

「鉄くん!どうだった?」

美海はそうは聞いて見たものの市村のその表情で返事は察した。


「駄目でした…。先輩も」

「駄目」

「ですよねぇ…」

二人は落胆の息を吐いた。

美海は神社の鳥居の下の階段に腰を下ろした。

ここのところ歩きっぱなしで足が痛い。
夜も落ち着いて眠れないし。
いったい、いつになったらこんな状況は終わるのだろう。


誰もいない境内は不気味な雰囲気はなく、やっと静かな場所にこれたからか逆に落ち着いた。


「すまない。俺のせいなんだ」

「斉藤隊長!それは違いますよ!」

「え?」

美海は首を傾げた。


「俺が刀を抜いたんだ」

「嘘!?」

その一言に沖田が飛び跳ねる。
予想外の台詞だったからだろう。


市村によると、市村はまた不躾な幕臣に腸が煮えくり返る思いで、とうとう湯呑みのお茶をぶっかけようとしたらしい。
それを斉藤が制し、刀を突きつけた。
「すまん…つい」

なんとなく美海は想像出来て首を振った。
きっと無表情で刀を突きつけていたのだろう。
美海はチラリと沖田を見た。


「いやぁよかった。私だけじゃなかったのか」

沖田はホッと息を吐いた。

「え?総司もか?」

沖田と美海は頷いた。

「そうか…」

その一言を期に話すこともなく沈黙が続いた。

皆分かっている。
同意しあっている場合じゃない。
焦りが段々と表面化してきている。
この様な状況が続くと、とてもじゃないが、近藤救出は難しい。

──どうにかしなきゃ。

美海はそう思うものの、何一つ案は浮かばなかった。

「副長はどうだったんでしょうか」

「さぁ?どうだろうねぇ」

今のところ意外にも土方が一番可能性がある。


「…帰りましょうか」

沖田がそう言った。

「ええ…」

美海が答えた。

それからまたあの獣道を下る。
今度は前に市村、美海。後ろに斉藤、沖田だ。


各自黙々と歩いている。
現在一体何時なのだろう。
体がダルい。早く眠りに就きたい。

「コンッ…ケホッ…」

「総司…?」


沖田の渇いた咳が、静かな森に響いた。
沖田はゆっくりと人差し指を口元にもっていく。

──静かに。
か。

「大丈夫ですから。ただの空咳です」

「気をつけろよ…。最近働きっぱなしだからな」

沖田は頷くと、また歩み始めた。
  

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2024年12月30日

「そういや何故天保山岸壁に?」

「そういや何故天保山岸壁に?」
土方が聞いた。


「あぁ。なんだか、天保山岸壁に榎本って人が率いている軍艦が沢山停留してるとのことです」

松平は近くの壁に体をもたれさせた。

佐川は聞いているのか聞いていないのか未だに歩兵心得を読んでいる。


「榎本…。ふーん」

誰だ?

土方は適当に頷いた。

「よければ、またお二人と仲良くしたいのですが」

「こちらこそ。松平さんにはまだまだ学びたいことがあります。よろしくお願いします」

土方が答えた。
松平はニッコリと笑う。


「佐川さん」

「ん?」


「それ、あげますよ」

松平は歩兵心得を差した。

「いいのか!?」


「えぇ。気に入っていただけたようで嬉しいです。土方さんにも」
松平はもう一枚出して土方に渡した。


「いいんですか?」

「はい。仮にも僕は新任歩兵頭なんでこれぐらいは頭に叩き込んであります。遠慮なさらずに貰ってください」


「では。頂きます」

土方は新しいおもちゃを貰った子供のように笑った。

「ではまたよろしくお願いします!」

松平は頭を下げた。

土方も頭を下げる。
佐川は手だけ挙げていた。https://jennifer92.livedoor.blog/archives/37581245.html https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/12/30/185827?_gl=1*1k0sss1*_gcl_au*Mjk4NTg2MTE2LjE3MzE3NDQyMDY. https://jennifer92.livedoor.blog/archives/37581255.html

「これ…すげぇ…。うちの藩士にも読ませよう」


佐川がポツリと呟いた。


あれから土方は山崎の様子を見に行った。


ガラッ

「山崎くん?」


「土方さん…。すいません」

山崎が布団から顔を出した。


「何言ってんだ。ちっとドジ踏むことぐらい誰だってあるさ。お前だって完璧じゃねぇんだ」

土方は自分の想像以上の山崎の怪我に一瞬目を見開いた。


「12日に江戸に移動するらしい。江戸の空気はうまいぞ。山崎くんの怪我もすぐ良くなるさ」


もはや山崎のは怪我というレベルを越えていた。
だが江戸で良くなると信じたい。


「土方さん。…俺お荷物になってしまったなぁ」

天井を見上げながら山崎がポツリと呟いた。


「何を言う」


「俺は監察や。何も身動きとれん監察なんか必要ない」


「直ぐに動けるようになる」

山崎は黙った。




「……土方さん」

「ん?」




「俺を…おいていってください」

「はぁ!?」


「皆の足手まといにはなりたない。俺はきっともう…」

山崎の言い掛けた言葉を土方が遮った。


「これは命令だ。隊務だ。死ぬな」


「土方さん…。それは…」

「俺にはまだお前が必要なんだよ。大丈夫。絶対に治る」


土方は部屋の襖に足を運んで言った。

「お前は今まで隊務をしくじったことなんて一度もなかった」

それだけ言うと、出ていった。


生きろ。死ぬな。ってことか。

山崎はしばらく天井を見つめていた。
「ふぁぁあっ…」

美海が大きなあくびをした。
大阪湾から潮風の匂いがする。


現在時刻は朝の4時ジャスト。
まだ日も登っていない暗闇に包まれている。


美海達新撰組は大阪を発つために軍艦『富士山丸』に乗り込んでいた。


並んでいる間、あくびが全く止まらない。

「本当美海さん寝起き悪いですよねー」

沖田が後ろから声を掛けた。


「だって…。総司おじいさんはいいかもしれませんが、流石にいくらなんでも早すぎでしょ」

美海は頭をバリバリと掻く。
寝起きのままで髪がボサボサだ。


「私がおじいさんなら美海さんはおばあちゃんですね」

沖田の皮肉に美海は無視した。眠いのだ。


ぼんやりと軍艦を眺める。
大きい。


山崎は松本がついてずいぶんと先に入れられた。
中には洋式のベッドがあるらしく、おそらくそこに寝かされているのだろう。


「江戸に行くのかぁ。楽しみだなぁ」

沖田の言葉にやはり美海は答えない。


「ほれ。早く歩け。落ちんなよ」

乗り継ぐための板の横に土方が立っている。

ただの板なため寝ぼけている美海は落ちかねない。
沖田が手をひいて美海を歩かせた。

「美海。江戸まで結構かかるから乗ったら寝てていいぞ」

土方にそう言われたが、美海は目を擦りながら首を横に振った。

今は油断できない状況なのだ。山崎が。
  

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2024年11月27日

土方は後ろを向かない。

土方は後ろを向かない。
平静を装っているつもりだろうが、窓枠にさっき使った形跡がある硯と急いで隠したであろう『豊玉発句集』が足元からはみ出ている。



クスッ

山南は小さく笑った。

「美海くんは沖田くんが好きらしい」


バッ

「本人が言ったのか?」

土方は勢いよく振り向くと目を大きく見開いた。



「いや。本人は言うどころか気付いてもいないけどね」


「じゃあなんで…」

山南は先刻の話を土方にした。


「なるほど…。こりゃ総司と同じ種類だ。総司も何ヶ月か前までそんなこと言ってたな」


「相談されたのかい?」


「あぁ」



「なんて言ったんだ?」

「あいつは究極の鈍感だからはっきり言ってやったさ。そしたらあいつ急によそよそしくなりやがった」

土方は話ながら微笑している。


「二人共異常なぐらいに色恋に疎いからね…」
山南は苦笑いだ。
「で…。なんだ?あんたが悩みあるんじゃないか?」 https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/5242866.html https://mathewanderson.blogg.se/2024/november/entry.html https://mathewanderson.asukablog.net/Entry/8/

土方は山南を真っ直ぐ見つめる。


「……ははっ。なんでもわかるんだね。土方くんには敵わない」

山南は一瞬びっくりしたような顔をして、すぐに苦笑いになった。


「まぁ伊達に新撰組副長してるわけじゃあるめぇよ」


「……近藤さんも呼んでくれ」


「…わかった」

山南の顔を見るとかなり思い詰めている。ただ事ではないと感じた土方は急いで近藤を呼びに行った。



ここまでとは…。


いったい何が彼をあんな顔にさせてるのか。土方さえ見当もつかなかった。




ガラッ


「サンナン!なんだ?」

近藤は急いで来たようで息が荒い。
土方からただ事ではないと聞いたのだろう。



「座ってくれ…」

山南が席を用意した。

座敷は前に土方、近藤、向かいに山南が座っている。


「率直に言う」


近藤と土方は息を呑んだ。








「私を降格させてくれ」

「…え?」
近藤はポカーンとしている。

なるほど。

土方はそう思った。


「私を元の副長職に戻してほしい」

かなり悩んだ結果なのだろう。冗談ではない。


「な…なんでだ?」

土方は黙っている。
「総長には私の居場所はない。参謀ができた今、なんの役に立つと言うのだ」

その通りなのだ。只でさえ近藤の相談役のような立場なのに『参謀』という位置ができたため、もはや山南はすることがない。飾り物だ。


山南が副長に戻りたい理由はまだあった。

まだあるというより一番の理由かもしれない。

隊士への指揮権が全くないのである。指令は局長、副長、助勤、隊士と流れるためだ。

「うむ…。確かに…」
近藤は頷く。


「戻してくれ」


「わかっ「駄目だ」



近藤の言葉を遮ったのは土方だ。

このまま副長に戻れると思っていた山南は目を見開いた。


「何故だ」

「指揮官が多ければ多いほど隊全体が混乱する」

副長は俺一人でいい。
そう言いたいのだろう。


「じゃあ土方くんが総長に格上げしてもらったらどうだ」


「それは無理な話だ」

いつもは温厚な山南も引かない。お互いがズケズケとした言い方になる。


近藤はオロオロとその場を見守るだけだ。



「土方くんは新撰組をいったいどうしたいんだ!本来は我々も志しているはずの攘夷を説く志士を見つけてはバサバサと斬り倒して!これじゃあ本当にただの人斬り集団じゃないか!」


「あんた。本当にそう思ってんのか…?」

土方は下を向いてフルフルと震えている。


「は?」


「本当にここを人斬り集団と思ってんのかよ!」

土方はいつになくキレている。
「あぁ!そうだ!」



お互い息を荒くしながら座っている。


「………失望したぜ」


「それはこっちの方だ」


「あんた…。伊東が来てからおかしくなったんじゃないか?」

「歳!」
近藤は土方が伊東と言ったことが気に障ったのだろう。


「なにを!」

ガタンと山南は立ち上がる。

「剣を握らない男に指揮官が務まるか」
  

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2024年11月27日

「お!ええの?はっ!もしや美海ちゃんも!?」

「お!ええの?はっ!もしや美海ちゃんも!?」


「美海が提案したんだ」

「もしや美海ちゃん俺と撮りたくて……!」

ゴンッ!


「何アホなこと言ってるんですか。死んでください」

それを聞きつけた美海が山崎の頭にげんこつを落とした。最近美海の山崎への態度はますます酷くなっている。

永倉はドン引きした目で山崎を見ていた。
「うちにそんな金はねぇ!只でさえ貧乏なんだ」

土方が必死に言う。


「自分で言ってて虚しくなりませんか?」
美海は真顔で聞き返した。

「とにかく!駄目だ!」




「土方さん。ほとがらを撮ると聞いたのだが」

「斉藤くん!」


藤堂に連れられた胴着姿のままの斉藤が後ろにはいた。

藤堂に無理矢理連行されたのか、手には竹刀を持ったままだ。



「いいんですか?土方さんだけ撮らないんですか?仲間外れですよ?」

沖田がニヤニヤと言う。

もう辺りには試衛館派の幹部が集まってしまっていた。https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/5242509.html https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/5242528.html http://carinacyrill.blogg.se/2024/november/entry.html


「だー――!もう!わかったよ!」

土方はとうとう了承した。唯一の楽しみの島原に行けなくなるのは気の毒だ。


「よっしゃ!!」

「早く塗ろうぜ!」


「待ってよ~!」

原田、永倉、藤堂はお互いに白粉を塗りだした。明らか楽しんでいる。
何をしても楽しいのだろう。


「ほら!一も!」

斉藤も引っ張られ、三人に無理矢理押し付けられる。悲惨だ。

「よし!俺も参戦やぁ!」
山崎も入り、もはや雪合戦のようになっている。



「土方君は塗らないのかい?」

山南が聞く。

「いや。俺はいい。もともと色白だし…。大丈夫だろ。山南さんは?」

「私も……ね…」

二人は苦笑いで顔を見合わせる。


「「なに言ってんですかぁ!!」」



綺麗にハモった声が聞こえ、二人は振り向く。


「ぅわぁ!」

「キモッ!」
山南は美海に習った言葉を使った。振り向いた先にいたのは顔を真っ白に塗った沖田と美海だった。

まぁ美海に関しては変ではないのだが。



「土方さん!塗ってあげますよ~」

両手に白粉を着けた沖田がニヤニヤと土方に近寄る。

「く!来んじゃねぇ!」

土方は後退りする。


「原田さん!」

「おう!」

ガシッ



「ぅわっ!てめ左ノ!離せよ!」

原田に腕を固定され、土方はかなり焦っている。
絶体絶命とはまさにこのこと。


山南はこっそりとその場を離れようとする。


「山南さん?」

が、美海がにっこりと笑う。



ビクッ

「ななななんだい?」

山南は冷や汗をかきながら笑った。



「逃げられるとおもってんですか?」




「「ぅわぁぁぁぁぁあ!!」」








「よし出来た!」
美海は清々しい顔で言った。

暴れる二人を抑えながらなんとか塗ったのだ。


「いや~!土方さっ!変っじゃないですよっ!」

沖田はプルプルと震えながら口元を抑えている。


「く…そ!お前ら!後で覚えてろよ…」

土方はギラリと目を光らせた。


「お!歳もサンナンも出来たか!じゃあ撮ろう!」

近藤はにこにこしている。

「うおー―――!遂に!」
「どんな格好する!?どんな格好する!?」


「肩組もうぜ!」

永倉、藤堂、原田は相変わらず楽しそうだ。
「はーい。じゃあ詰めて並んでくださいね~」


カメラマンが声を掛けた。長い間待っていてくれたのだ。


内心、やっとかよ…と思っているに違いない。




真ん中にはもちろん局長の近藤が座り、右隣に副長の土方、左隣には総長の山南が着いた。

原田、永倉、藤堂はいつも通りくっついていて本当に肩を組んでいる。

ただ、後ろで中腰なのだからその体勢はかなりキツいと思うのだが…。


斉藤は土方に呼ばれ、隣にいる。


山崎と沖田は美海を取り合うように挟んでいた。


もう前列以外はグダグダである。


「はーい。じゃあ撮りますよ~!息を止めといてくださーい。吸っちゃ駄目ですよ~」

そうカメラマンに言われ、撮影が始まった。
  

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2024年11月24日

「そうですね」

「そうですね」

まぁ。ただの好奇心だし見れなくてもいいけど…。



ガラッ

「お待たせいたしました」
綺麗な芸姑が三人入ってきた。



「待ってたぜ!酌してくれ!」

原田がニカッと爽やかに笑う。
芸姑達もなんだか楽しそうだ。
相手が新撰組イケメン隊士達だからだろうか。



「美海!お前も呼ぶよな?」
永倉が美海に問う。


「あ。いえ。私は…。山南さんとこ見てきます!」

芸姑は色っぽく酌している。
藤堂も原田も楽しそうだ。





ガラッ

美海は急いでその場を去った。



やっぱ苦手だなぁ。

隣の部屋の前で立ち止まる。


山南さんもデヘデヘしてるのかな…?


カラ…


美海はこっそりと隙間を開ける。
目を隙間に当てると山南の姿が見えた。https://carinadarling.joomla.com/3-uncategorised/5-2024-11-23-21-14-29 https://johnsmith786.livedoor.blog/archives/5232146.html https://plaza.rakuten.co.jp/johnsmith786/diary/202411160000/


「明里」

「なんどすか?」

残念ながら明里の姿は見えない。

「最近苦労はないかい?」


「んー…。そやねぇ…。あるけど、山南さんに会えるから全然苦しくないんよ!」

なんだかほのぼのした空気だ。


「そっか。で。そこにいるのは誰だい?」

「?」

流石山南さん。




カラ…

「すいません…。お邪魔ですよね?」

「美海くん!?なんでここに?」


「永倉さんに誘われたんですよ」
美海は苦笑いだ。
「その髪…もしかして…立花美海さん!?」


「え…あ…はい」

美海がふとその声の主を見る。

かなりの美人だ。先程部屋に来た芸姑とは格段にレベルが違う。まるで人形のようだ。


あー。似てるって言われたけど…。
女装(女だけど)した時の私に似てなくもない。



「きゃー――!凄い!本物なん!?ほんまに茶髪なんやねぇ」

ガシガシと美海の頭を撫でる。


「あ…は…はぁ」

テンション…高っ。



「明里。美海くんが困ってるよ」

「あ!すいまへん!うちったらつい」

山南に言われ、明里は急いで手を止めた。


「あなたが明里さんですか?」

美海は念のため聞く。



「そうどす。紹介が遅れました。初めまして。天神の明里と申します」


明里は綺麗に正座すると美海にお辞儀した。


「あ!こちらこそ!新撰組一番隊隊長補佐の立花美海です。よろしくお願いします」

美海もついつい正座をしてお辞儀をした。


「ぷっ!立花さんはお辞儀せんでもええのに!そんな人あんまおらんわ」


明里はクスクスと笑っている。
かわいらしい笑顔だが、笑い方は上品だ。


「ははは…」
思わず美海も照れ笑いをする。

「しっかし…」
明里は美海に近寄りマジマジとまん前から顔を見る。


な…なに?


「失礼やけど女の子みたいやねぇ…。藤堂さんと似た美人さんや♪」

明里はニッと笑う。相変わらず笑った顔はかわいい。
「あ。ありがとうございます?」

喜んでいいのか分からない。今はあくまで男だ。




「おいおい明里。美海くんを気に入ってしまったかい?」

「やだわぁ山南さん!うちは山南さんが一番に決まってるやん!立花さんごめんねぇ」


「は…はぁ」


「いやぁ嬉しいねぇ。ははははは!」

「うふふふふ!」


二人は今にもハートの幻覚が見えそうな程ラブラブだ。


バカップル…。
この時代にもいるんだなぁ。
もう勝手にしてくれ。



「じゃあ…私はこれで…」

美海はげんなりとしている。


「もう行かはるん?」

「はい。明里さんを一目見たかっただけなんで」


「あらぁ!嬉しいこと言ってくれはるねぇ!」



「じゃあお二人は気になさらず楽しんでください!」


「美海くん悪いねぇ」

そういう山南さんは何処か嬉しそうだ。


幸せそうな顔しちゃって。

クスリと美海は笑った。



遊廓ってそんな悪いとこじゃないのかな?


こうして美海は山南の部屋を離れた。




ガラッ


美海はすぐ隣の原田達のいる部屋を開けた。


ワァァァァア!


中は山南と明里のようなほんわかした雰囲気は漂っておらずどんちゃん騒ぎだ。

何をどうしたらこの数分でこうなるんだか。「はぁ…」
美海は小さくため息を着いた。
  

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2024年11月21日

ついでに、酒も失敬してきて壷に降りかけた。

ついでに、酒も失敬してきて壷に降りかけた。
封印したので中を見た者はおるまい。
お神酒と勘違いしている者もいるだろう。

燃え上がった火の先に、その壷が見えた。
中は二重にして油紙の中に藁や縄、端布、木っ端などを入れ、中身がこぼれ出た時に燃えやすくした。

転がっていた太刀を投げつけ破壊すると、中身が飛び散り火の勢いが増した。
さらに手前にあった壺も破壊し、痛みを覚悟で二層目の狭間から下流側の道に飛び降りた。

そこへ矢が飛んできた。
すんでのところで身をかわし、近くに転がっていた矛を、五間先で弓を手にしていた兵の太もも目がけて投げつけた。

兵が倒れ、視界が開けると蹄の音を鳴り響かせながら砦に向かってくる馬たちの姿が見えた。
最後尾の馬上には義久と姫の姿があった。
下流側の兵の注意は、そちらに向いていた。https://bloggererica.doorblog.jp/archives/35600233.html https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/11/21/202932?_gl=1*1qzxi2v*_gcl_au*LTPe21veLZJBRJPdfAmRozqD1N1yu8xRDZ. https://bloggererica.doorblog.jp/archives/35600280.html

砦の屋上に目をやると、階下の火に気づいた兵が避難のための縄梯子を板壁に沿って投げ落とした。
それでもすぐに退避しようとはせずに五人の兵が弓を手にした。

痛む足を引きずり、先ほど、背負子とともに落とした革の筒袋と弓を拾いあげ、こぼれ落ちていた自分の矢と敵の矢、四本のうち二本を筒袋に放り込む。

下流側に歩を進めながら連射した。
屋上の兵四人を倒した。だが、ここで矢がなくなった。

火だるまになった兵が二層目から飛び降りてきた。
着地もできずに叩きつけられ、嫌な匂いをまき散らした。
三郎の最後の匂いだった。

三層目からも火の手は上がったものの、仕掛けが遅れたために火の回りが遅い。
このままでは姫と義久は格好の的になるだろう。
かといって、再び火をかけて回っている時はない。

――姫の胸に足に、義久の目に腹に、次々と矢が降り注ぐ――その光景が目に浮かんだ。

気がつくと雄叫びを上げていた。
呼応するように谷底から吹き上がった風が真っ紅な髪を舞い上げた。

風は、炎をも舞い上げた。
炎が縄梯子に燃え移ると状況は一変した。

縄が火を噴き、まるで踊ってでもいるかのように尻を振り、矢のような速さで砦をなめまわした。

    *屋上の中ほどにいた兵が、あわてて戦勝祈願の符だを貼った油壺に足を突っ込み、割って転がした。

さらに倒れ際に、もう一つの壺を割った。

こぼれ出た油が滑るように広がり、板壁を伝い、柱を伝い、谷底に流れ落ちて行った。

そこに縄の火と二層目と三層目の狭間から吹き上がる火が燃え移った。

地獄に滝があるのなら、かようであろうと思うほどの流れと勢いに、その場にいた者たちは一人残らず息を飲んだ。

     *巨大な砦の中央が、あっという間に炎に包まれた。

尋常な勢いではない。
イダテンが、なにやら細工でもしたのだろう。
あやつが動けば信じ難いことが次々と起こる。

だが、馬は、臆病な動物だ。
これ以上、燃え広がれば脚を止めるだろう。

幸運なことに道の上の砦は、まだ火に包まれていない。
黒駒の腹を蹴り、勢いをつけた。

    *

逃げ回る兵どもが油壺を蹴倒し、割って混乱に拍車をかけた。
筒状の通路を伝い、火が横に広がった。

燃え広がる炎が、これまでとは違う形の壺を包みこんだ。
壺の小さな口からのぞいている紐が勢いよく火を噴いた。

その炎が壷の中に吸い込まれると、それは、閃光を放った。
近くで見た者は目を焼いた。
音を失い、炎に包まれた。
  

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