CA1762 – 国立国会図書館サーチとディスカバリインタフェース / 原田隆史

PDFファイルはこちら

カレントアウェアネス
No.311 2012年3月20日

 

CA1762

 

 

国立国会図書館サーチとディスカバリインタフェース

 

1. 国立国会図書館サーチの公開

 2012年1月6日、国立国会図書館(NDL)は新しい情報探索用ツールとして国立国会図書館サーチ(以下、「NDLサーチ」という)の提供を開始した(1)。このNDLサーチは、従来のNDL-OPACおよび国立国会図書館デジタルアーカイブポータル(PORTA)に代わるサービスという位置づけである。しかし、それだけではなく今後の図書館システムのモデルとなるような、次世代OPACまたは「ディスカバリインタフェース」という言葉で示される新しい仕組みを備えたシステムであるという点でも注目されるものといえよう。

 さらに、書誌データの標準化を意識しダブリンコアをベースにしたDC-NDLを採用していることや、システムを実現するために用いられているソフトウェアがオープンソースソフトウェアを中心としており、将来的にはNDLサーチ自身のソースコードの公開が想定されていることなども大きな特徴といえるだろう。

 著者は、NDLサーチの基本的なソフトウェアとして採用されているオープンソース図書館システムNext-L Enjuが開発されるきっかけとなったProject Next-L(CA1629参照)の代表であり、国立国会図書館非常勤調査員としてシステム設計の段階からNDLサーチの開発に関わってきた。その立場から、特にNDLサーチの新しい仕組みについて述べることとする。

 

2. ディスカバリインタフェース実装のポイント

 ディスカバリインタフェースは、大学図書館を中心に近年利用が始まってきた、新しい図書館OPACの姿である。その特徴については既にいろいろなところで紹介されている(2)。片岡は、このようなディスカバリインタフェースを実装するにあたっては、以下の5項目がポイントであると述べている(CA1727参照)。

(1)メタデータの収集(データ収集先の拡大のための標準的な仕組みの必要性など)

(2)メタデータ・エンリッチメント(表示内容の充実のためのデータを入手することや、ユーザがレビューレビューを登録するソーシャル機能なども含まれる)

(3)メタデータ・マネジメント(書誌同定、著作同定、FRBR(3)化、ファセットなど)

(4)全文検索エンジン(Solrの利用や、形態素解析とN-gramといったインデクシングに関するチューニングなど)

(5)インターフェースのデザイン

 

3. NDLサーチでの実装

 NDLサーチでは、上記5つのポイントのうち、特にメタデータの収集、メタデータ・マネジメントの充実、インタフェースデザインの統一を中心に、全般に渡って検討を行い、開発を進めてきた。

 

3.1 メタデータの収集

 メタデータ収集範囲の拡大は、収集のための仕組みを実装するといった技術的な点と、収集ポリシーの策定や連携先との交渉といった実務的な点の両面がそろってはじめて実現可能である。

 NDLサーチでは、外部機関からのメタデータ収集に際して、従来の総合目録ネットワークシステム(ゆにかねっと)で実現されていたFTPやHTTPによるファイル転送だけではなく、OAI-PMHなどの標準的なハーベスティング手段も実装し、多様な収集が可能となっている。また収集先についても、従来の連携先以外に、JPO近刊情報センター(4)やサピエ図書館(5)など、多くの拡張が図られている。さらに、データを収集していない機関については横断検索の仕組みを整備してNDLが収集したデータと同時に検索できる仕組みを整備しているが、その横断検索先についても韓国国立中央図書館など多くの機関との連携が図られている。検索対象の多様さや網羅性は、まだまだ十分とはいえないものの、できるところから着実に進めているという姿勢は評価されてもよいだろう。

 さらに、NDL内のデータが整備され、統合的かつ速やかに提供する仕組みが整えられたことは図書館以外にも影響力が大きいと思われる。たとえば、近代デジタルライブラリーのデータについても図書と統合的に検索できるほか、新刊書についても刊行から早い時期に検索が可能となっている。特に後者は、個人による利用など広い範囲での活用が想定される。

 

3.2 メタデータ・マネジメント

 メタデータ・マネジメント機能として、ゆにかねっとや近代デジタルライブラリーのデータとNDLの蔵書をまとめて書誌同定する仕組みの導入、さらにFRBR化を指向して著作同定の仕組みが取り入れられたことはNDLサーチの大きな特徴といえよう。

 近年、資料組織の分野ではFRBRが話題となっており、OCLCでは総合目録データベースWorldCatのFRBR化を行っている(CA1665参照)。しかし、国内では大規模なデータを対象としたFRBR化の試みはほとんど行われておらず、ましてや利用についての検討は、世界的に見ても多くはない。NDLサーチは、谷口がJAPAN/MARCを対象に行った実験(6)を参考に著作同定のための仕組みを取り入れている。ただし、6,000万件を超える大量のデータを対象として、日々データ更新を行うことから、処理時間短縮のために谷口の手法の一部を実施しないなど、著作同定作業の大幅な簡略化も行われている。その意味で、著作同定に際して可能と考えられるすべての手法を実装していているわけではないが、NDLサーチでは実用システムとして許容される時間内で可能な多くの処理を取りこんでいる。また現在も、より望ましい手法に向けた改良の検討を行っている。

 NDLサーチでは、著作同定した結果を下の図1に示すようにまとめて表示している。図1では、「三四郎」が3冊まとめて表示され、この3冊以外の図書は「関連資料を表示」ボタンを押すことで表示される仕組みとなっている。

図1 NDLサーチの検索結果画面におけるまとめ表示の一例

図1 NDLサーチの検索結果画面におけるまとめ表示の一例

3.3 全文検索エンジン

 NDLサーチでは、全文検索エンジンとしてSolrを採用しており、Solrの持つ強力な検索機能を利用することができる。Solrの基本機能に加えて、「りんご」や「リンゴ」というキーワードで検索を行うと、「林檎」を含む書誌もヒットするなど、表記のゆれも吸収した検索が行えるように工夫がされている。さらに、国立国会図書館件名標目表や、国立情報学研究所で開発された連想検索エンジンGETAssocを利用して、入力された検索語の類義語・同義語などを表示する仕組みなども実装している。

 

3.4 インターフェースのデザイン

 NDLサーチは、操作性に関しても工夫をこらしている。たとえば、NDLサーチの検索結果画面では画面構成が3つのエリアに分割されているが、左側は「絞り込み」エリア、右側は「拡張検索」エリアなどという意味をもたせている。検索結果を中心として、出版年や所蔵館など、その内容を絞り込むためのファセットが左側の「絞り込み」エリアにまとめられており、右側の「拡張検索」エリアには連想キーワードや上位・下位語など新たな検索を行うためのヒントがまとめられている(図2参照)。

図2 NDLサーチ検索結果画面の一例

図2 NDLサーチ検索結果画面の一例

 さらに、視覚障碍者の方にも配慮して「JIS X8341-3:2010」(高齢者・障害者等配慮設計指針)に応じた画面デザインとするなど、幅広い利用者に対応できるように工夫している。

 

3.5 メタデータ・エンリッチメント

 メタデータ・エンリッチメントに関する機能についても多くの機能が実現されている。たとえば、日本語、英語、中国語、韓国語に対応した翻訳機能も実装しており、検索結果に英語・中国語・韓国語が含まれる場合に検索結果一覧を日本語に翻訳して表示することも可能となっている。

 さらに、収録資料全体に対する比率は非常に少ないが一部の資料については書影や目次なども収録している。

 このような表示内容の充実は、NDLサーチの利便性に直結する問題でもある。NDLの持つ様々なデータを利用するだけでなく、他の機関との連携も模索するなど、今後とも継続的に努力し続けていく必要があろう。

 

3.6 その他の機能

 その他、検索結果の「適合度順」表示や現物資料入手への案内、よく利用する図書館の登録や検索結果表示件数の変更などを行うためのパーソナライズ機能など、利用者が便利に使うための工夫も数多く実現している。

 ただし、検索結果の表示順序などは利用者によって求めるものが異なることが予想される。そのため,これらの機能を多くの人が満足する形で実装することは困難で、現在のNDLサーチでも暫定的な仕組みを採用して表示している段階である。使っていただいた上で得られた意見をもとに、今後少しでも適切な状態になるように検討を続けていきたい。

 さらに、現時点では実装が見送られているものも多い。NDLサーチは2010年から「開発版」の公開が行われてきたが、その過程では様々な実験的な試みがなされてきた。たとえば、検索語の入力時に候補となる語を補完して表示するキーワードサジェストなどは開発版の段階では実装されていたが、検索速度の低下などのために正式公開版では実装されていない。また、利用者のパーソナルデータを登録し、利用者の属性に応じた検索結果の適合度順出力や図書の推薦をしようとする仕組みなども計画され、実験も行われていたが、現時点では実装されていない。これらの機能を提供するかどうかも含め、NDLサーチに今後実装すべき機能の検討を深め、よりよいシステムへと改良を続けていきたい。

 

4. NDLサーチへの期待

 現在、図書館サービスに対する利用者の期待は大きく変化してきている。図書館も、その期待に合わせて変化していく必要があろう。その際、図書館に来館する利用者に対するサービスだけではなく、非来館者も含む潜在的な利用者に対するサービスの提供も考慮することが重要と考えられる。ただし現時点では広い範囲の利用者がどのようなサービスを必要としているかについては明確とはなっていない。ニーズを把握するためには、失敗をおそれずに、試行的に新たなサービスを導入し、その結果を受けて改良するというやり方が必要な場合もあろう。

 著者自身も、Project Next-Lにおいて新しい図書館システムの仕様を策定するために、多くの図書館関係者の意見を集めることを目指したことがある。その時、単に意見を寄せて欲しいというだけでは集めることは困難であり、まずは実際に動くシステムを作成し、それを使ってもらうことで初めて多くの意見が寄せられるということを経験した(7)

 NDLサーチのようなシステムにとって重要なことは、最初の一歩を踏み出すことと、その後も継続的な改良を続けていくことである。NDLでは「次世代システム研究開発室」でNDLサーチを含めた様々なシステムの研究と開発が続けられることになっている(8)。NDLサーチの今後に大いに期待したい。また、多くの人々にも期待して欲しいと願う。

同志社大学:原田隆史(はらだ たかし)

 

(1) “国立国会図書館サーチが正式サービスとなりました”. 国立国会図書館サーチ. 2012-01-06.
http://iss.ndl.go.jp/information/2012/01/06_release/, (参照 2012-01-07).

(2) たとえば、以下の論文などがあげられる。
片岡真ほか. 図書館の検索インターフェースとユーザ支援技術. メディア教育研究. 2011, 7(2), p.19-31.
兵藤健志ほか. 九州大学附属図書館におけるCute.Catalogのデザインと開発: OPACからディスカバリ・インターフェースへ. 情報管理. 2010, 53(6), p. 311-326.
また、以下のようにディスカバリインタフェースではなく、次世代OPACという表現で紹介しているものも存在する。
久保山健. 特集, ファインダビリティ向上: 次世代OPACを巡る動向: その機能と日本での展開. 情報の科学と技術. 2008, 58(12), p. 602-609.
宇陀則彦. 特集, ウェブ検索時代の目録: 利用者中心の設計: 次世代OPACの登場. 図書館雑誌. 2009, 103(6), p.390-392.

(3) 「書誌レコードの機能要件」(Functional Requirements for Bibliographic Records)のこと。

(4) 日本出版インフラセンター(JPO)が運営する、近刊書誌情報の集配信とその標準的な運用を行うためのセンター。
JPO近刊情報センター. http://www.kinkan.info/, (参照 2012-02-21).
NDLサーチとの連携については以下を参照。
“近刊図書情報の提供開始、書誌情報のRDF出力機能リリースのお知らせ(2012年2月2日)”. 国立国会図書館サーチ. 2012-02-02.
http://iss.ndl.go.jp/information/2012/02/2_release/, (参照 2012-02-21).

(5) 日本点字図書館がシステムを管理し、全国視覚障害者情報提供施設協会が運営を行う視覚障害者への情報提供ネットワークシステム「サピエ」が提供するサービスの一つ。
サピエ図書館. https://library.sapie.or.jp/, (参照 2012-02-21).
NLDサーチとの連携については以下を参照。
“障害者向け資料検索機能の追加、アクセシビリティ対応のお知らせ(2011年9月12日)”. 国立国会図書館サーチ. 2011-09-12.
http://iss.ndl.go.jp/information/2011/09/12_release/, (参照 2012-02-21).

(6) 谷口祥一. FRBR OPAC構築に向けた著作の機械的同定法の検証: JAPAN/MARC書誌レコードによる実験. Library and Information Science. 2009, (61), p. 119-151.

(7) 原田隆史. Project Next-LとNext-L Enju: 日本初のオープンソース統合図書館システムの開発と現状. 情報管理. 2012, 54(11), p. 725-737.
http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/54/11/54_725/_article/-char/ja, (参照 2012-02-14).

(8) 中山正樹. 国立国会図書館におけるデジタルアーカイブ構築: 知の共有を目指して. 情報管理. 2012, 54(11), p. 715-724.
http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/54/11/715/_pdf/-char/ja, (参照 2012-02-14).

 


原田隆史. 国立国会図書館サーチとディスカバリインタフェース. カレントアウェアネス. 2012, (311), CA1762, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1762