レビュー

【タイヤレビュー】高いグリップ力と摩耗性能を誇るダンロップ「DIREZZA ZIII(ディレッツァ ズィースリー)」をサーキットでテスト

同一車両で従来の「ZII スタースペック」と比較

目指したのは“ハイパー二刀流”

 2017年2月の発売を予定するダンロップ(住友ゴム工業)のハイグリップスポーツタイヤ「DIREZZA ZIII(ディレッツァ ズィースリー)」に、筑波サーキット コース1000で試乗した。

 ディレッツァについては「ZII」が「ZII スタースペック」になったときにもサーキットで試乗し、その進化のほどを確認している。そして今回のZIIIはマイナーチェンジではなくフルモデルチェンジ。ハイグリップスポーツタイヤとしてより高みを目指した最新ディレッツァの諸性能のジャンプアップぶりに大いに期待したいところだ。

 メインテーマはズバリ、サーキットでのラップタイムの短縮にある。さらに、高いグリップと摩耗性能の両方をハイレベルで両立した“ハイパー二刀流”を目指したと開発関係者は語る。そのためにハイグリップコンパウンド、剛性を高めたパターンデザイン、接地性を高めたプロファイルという3つの新技術を採用。グリップ向上剤を増やすと、摩耗性にはマイナスに作用するところを、高分子ポリマーを採用してゴムの強度を上げて対応。また、パターンでもグリップとコントロール性を高めるべく、負荷の偏る部分を減らし、ランド比を5%増やすなどしてパターン剛性を高めているのが特徴だ。

2017年2月に発売となる新ハイグリップスポーツタイヤ「DIREZZA ZIII(ディレッツァ ズィースリー)」。同社がモータースポーツでも使っている「新グリップ向上剤」を配合した新しい「ハイグリップコンパウンド」を採用するとともに、発熱性を高める「ハイスチレンポリマー」などを使ってグリップ性能を向上。一方でグリップ性能とは相反する耐摩耗性能を高めるべく、通常よりポリマー鎖を長くした「高分子量ポリマー」を採用するなど、正常進化が図られている
パターンでは走行時に負荷が大きくなるセンターリブを従来の「ZII スタースペック」からワイド化することで高剛性化を図ったほか、ショルダー形状をZII スタースペックのスクエアショルダーからラウンドショルダーに変更。旋回時の接地性を均一化することでグリップ力やコントロール性が向上した。これらの変更により、同社が岡山国際サーキットで2.0リッターのFR車で走行テストを行なったところZII スタースペック比でコーナリングスピードが約5.6%、立ち上がりスピードが約4.5%、区間平均スピードが約3.7%アップ。全体のラップタイムとしては最速ラップ(5周走行)で1.6%、平均ラップ(5周走行)で1.5%短縮することに成功したデータが公表されている

 実のところ、ZII スタースペックの問題点として高速コーナーでのフラつきが指摘されていた。それゆえラインが決まれば速いのだが、舵が決まりにくい傾向があった。ZIIIではそこが重点的に手当てされている。

 試乗車はトヨタ 86。まずZII スタースペックでコースを5周走行し、ピットインしてから同じクルマにZIIIを装着して再びコースインして5周走るという段取りで乗り比べた。

試乗した当日はZII スタースペックでコースを5周走り、ピットインして同じクルマにZIIIを装着して5周走るという段取りで実施。参加媒体の数だけタイヤ交換が行なわれた

高いグリップ感とコントロール性

 ZII スタースペックもよくできたタイヤであることをあらためて感じながらも、ZIIIを味わうとその差は小さくないことを痛感する。まず、走り出した瞬間から剛性感とグリップ感がだいぶ違うことが分かる。ZIIIはケース剛性が高く、ソリッドな印象がある。そして、ZIIだって温まるのが早いと感じていたのだが、さらに素早く温まって即座に高いグリップを発揮してくれる。

 コーナーへのアプローチでのフィーリングも違う。ZII スタースペックもわるくはないのだが、比べるとやや手応えがファジーな感もあるのに対し、ZIIIは操舵に対する応答遅れが小さく、微少舵域からリニアに応答してくれる。そして、大きな横Gがかかったときのタイヤのたわみが小さく、ロール角も浅くなっていて、コーナリング中にタイヤが路面をしっかり捉えている感覚がある。

 この感覚に効いているのがショルダー形状の変化だ。ZII スタースペックではスクエアショルダーだったところ、ZIIIではラウンドショルダーを採用した。ショルダー形状をどうするかというのはいろいろな考え方があって、まさしく一長一短だ。スクエア形状にも応答性が機敏になるなどのメリットがあり、ZII スタースペックには採用していたのだが、ZIIIについては旋回時の接地圧を均等にすることを目的にラウンドショルダーを採用したという。

 その上でサイドウォールを補強して剛性を確保したほか、コンパウンドや構造とのバランスを図ったとのこと。なるほど、コーナリング限界域でのグリップ感とコントロール性が高く、リアがしっかり粘るように感じられたのはこれらが効いているからに違いない。

ZII スタースペック(左)とZIII(右)の5周走行後の比較

もちろんラップタイムに違いも

 コース1000の中では比較的Gのかかる中速コーナーである1コーナーが、もっともフィーリングが違うように感じたが、一方でインフィールドのRの小さいコーナーでも、ZIIIのほうがインを向けやすい。これにはグリップの高さはもちろん、新しいパターンも効いているようだ。センターリブの太さを狭くするか太くするかも一長一短あるが、ZIIIでは太くするとともに、ZII スタースペックではつながっていた横溝を分断したのも特徴で、これにより剛性が高まって初期応答が向上している。

 ラップタイム計測の結果はZIIIの方がベストで約1.3秒速かった。ただし、筆者がコース1000を走ったのはかなり久しぶりだったので、少し差し引いて考える必要はありそうだが、タイヤ自体の性格も筆者の好みに合っていたようで、走っていて感じたとおりの結果と言える。

 周回を重ねるとグリップに落ち込みが感じられたのは否めないが、あるところからは特性が概ね安定していたように思えた。なお、総合性能のチャートによると、耐熱ダレ性能についてはZII スタースペックと同等という。また、ストリートでの快適性もそれなりに配慮しているとのことで、冒頭で述べたとおり耐摩耗性を維持しつつも、これほど諸性能が高まっているわけだ。

 そんなZIIIはZII スタースペックよりもやや多い、14インチから19インチまで全35サイズがラインアップされる。価格はオープンプライスだが、実勢価格は同等の性能を持つ競合品に比べてリーズナブルになる見込みで、そうなるとコスト面での強みも出てくる。街乗りでも使いつつ、サーキットでのラップタイムの更新をもくろむユーザーにとって強い味方になってくれそうな、大いに期待できるニューモデルの誕生である。

DIREZZA ZIIIの発売サイズ
インチ偏平率MFSタイヤサイズ
1935275/35 R19 96W
40245/40 R19 94W
1830285/30 R18 93W
295/30 R18 94W
35255/35 R18 90W
265/35 R18 93W
275/35 R18 95W
40225/40 R18 88W
235/40 R18 91W
245/40 R18 93W
45225/45 R18 91W
1740215/40 R17 83W
235/40 R17 90W
245/40 R17 91W
255/40 R17 94W
45205/45 R17 84W
215/45 R17 87W
225/45 R17 91W
235/45 R17 94W
1645195/45 R16 80W
205/45 R16 83W
225/45 R16 89W
50165/50 R16 75V
195/50 R16 84V
205/50 R16 87V
225/50 R16 92V
55205/55 R16 91V
1550165/50 R15 73V
195/50 R15 82V
205/50 R15 86V
55165/55 R15 75V
195/55 R15 85V
1455165/55 R14 72V
60175/60 R14 79H
185/60 R14 82H

※MFS(MAX FLANGE SHIELD)はリムプロテクター付きタイヤ

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。