「発達障害のリアル」を、自身も発達障害(学習障害)の息子を育てるフリーランス編集者・ライターの私(黒坂真由子)が模索する本連載。このたび1冊の本になり、『発達障害大全』として近日、発売となる(アマゾンなどで予約販売中)。
今回のテーマはASD (*)。日本語では、「自閉症」や「自閉スペクトラム症」と呼ばれるASDは、対人関係が苦手で、こだわりが強いことを特徴とする。日本自閉症スペクトラム学会会長などを歴任する、ASD研究の第一人者、本田秀夫氏に話を聞いた。ASDの当事者などが一番困っているのは、実は、対人関係でもなければ、こだわりの強さでもないという。何が一番の問題なのか?
「発達障害」とは何かを、本田先生の言葉で、わかりやすくご説明いただけるとしたら、どういった表現になりますか。
本田秀夫氏(以下、本田):発達障害には、いろいろな種類やタイプがありますが、ひとつのジャンルとして発達障害を取り上げるのであれば、「子どものころから行動に何らかの通常とは異なる特徴があり、その特徴が、ある程度形は変わるかもしれないが、大人になっても残る。その人生のどこかの段階で、その特徴が見られることによって、日常生活の何らかの場面で支障が出るような状態」となります。
そのなかで、特に、ASDとは何かを説明するとしたら、どうなりますか。
本田:それについては、『自閉症スペクトラム』(SBクリエイティブ)という本を10年前(2013年)に出したときに相当、考えました。この本に示したように「臨機応変な対人関係が苦手で、自分の関心、やり方、ペースの維持を最優先させたいという本能的思考が強いこと」と説明するのがいいと思います。
「対人関係が苦手で、こだわりが強い」ということになりますね。
本田:そうですね。さらにいうと、最近では後者のほう、つまり「こだわり」がメインだと思っています。なぜなら、対人関係に関しては、ずいぶんと改善する方がいるからです。私は同じ患者さんを長期間にわたって継続的に診ているため、その変化を感じています。
対人関係が苦手ではなくなる人もいる、ということですか?

人付き合いはできるが、へとへとになる
本田:ええ。むしろ人一倍努力して、「自分は人よりも気遣いが上手だ」とすら思っている方も出てきています。特に「社会的カモフラージュ」と思われる人たちは、もう一見、普通の人とほとんど変わらないようなコミュニケーションをとります。
最近、ASDの人から「人と話すと、気を使いすぎて、疲れてしまう」という話をよく聞きますが、それと関係はありますか?
本田:まさにそれです。周りの人から見ると、普通に見えていて、普通に見えるぐらいにカモフラージュできているんです。でも、必死なんです。一般の人であれば、直感的にほとんど努力しなくてもできるようなことを、相当な努力をして獲得しているので、疲れやすいんですね。
人と会って家に帰ったらへとへとで、ぐったりしてしまうと聞きます。
本田:そうなんです。対人関係が苦手かと聞くと、「そんなことはない」とおっしゃるASDの人もいて、そんな方に「疲れやすくないですか?」と尋ねると、「そうです」とうなずかれたりします。
「擬態」という言葉も耳にします(「発達障害を持って生きるのは、エヴァンゲリオンの操縦と似ている」参照)。
本田:擬態は当事者が使うことのある言葉ですね。それに対して、カモフラージュは研究者の間で使われている言葉です。
対人関係の苦手を、学習である程度解決できるなら、ASDで目立ってくるのは「こだわり」になりますね。
本田:ええ。大人になっても、ASDの特徴としてしっかり残りやすいのは、こだわりのほうです。社会生活に支障が出やすいのも、対人関係の問題より、こだわりの強さです。ただ、こだわりよりもさらに社会生活に支障をきたしていることが、実はあるのです。
ASDの人と一緒に生活したり、働いたりする人たちが困っていることや、本人が困っていることの何割かは、ASDの症状や特性が原因ではないのです。
「対人関係が苦手」で「こだわりが強い」から困っているわけではないと。では、何が原因で困っているのでしょうか?
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