今回は、いま就活の真っただ中で戦っている学生の皆さんにお送りしたいと思います。
この連載を大幅に加筆・修正を行い、FFS理論(開発者:小林 惠智博士、詳しくはこちら)に基づく診断テストを加えた『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み』を出版したところ、本を読んだ方のツイートに、就活生の方々がとても多かったのです。この本を「自己分析」の手掛かりにしていただいているようです。
本の中の「『決められない』のは立派な個性であり武器である」という項目を読んで、「自分が決められないことをネガティブに捉えていましたが、それでいいんだと安心できた」という感想や、「一度つまずいて、過度に慎重になっていたところ、一歩踏み出せないムッタ(マンガ『宇宙兄弟』の主人公)の話を読んで、自信になった」というコメントを見て、改めて考えました。こうした声は何を意味しているのでしょう。
就活は、多くの学生にとって、「自分自身の強み」を見つけ、それを他人にアピールする初めての機会です。その際に、自分の強みを「勘違い」して、あるいは自分の本来の強みに「気がつかず」に、“理想の自分”とのギャップに悩んだり、不得手な武器を使いこなせなかったりして、苦しんでいる人が多いのではないか。そこでこの本が、その悩みを解消する役に立ったのでは。そんな印象を受けました。
「理想の自分」を求めて、苦しんでいませんか?
「自分はこうありたい」という思いはとても大事なものです。
しかし、単なる憧れから「こうありたい」と思い込む前に、まず、自分の強みは何なのか、持っているカードはどんな強みがあるのか、ここを正しく捉えることも重要です。
「こうありたい」を優先して、自己認識を誤ってしまうと、自分の個性からくる本来の良さや魅力を採用側に伝えることができません。
せっかく戦える武器を持っているのに、その武器を活かしきれていない。
隣の人が持っている武器が輝いて見えて、自分は持っていないのに無理やりマネして戦おうとする。
そういう状態に陥っている人は意外に多いのではないでしょうか。
そもそも就活は、内定数や入った企業の知名度を競うことに意味はなく、自分の良さ、強みに合った会社を見つけることこそが「成功」です。なぜかといえば、そのほうが、入った後に絶対幸せだからです。他の人は知りませんが、私はそう考えています。
どちらにしても、まず正しい自己理解(自分の「強み」を理解する)が大事です。
今回はいつもと趣向を変えて、就活生の方々に向けて、正しい自己理解の仕方と、就活での自分の強みの活かし方(面接やエントリーシートでのアピールの仕方)をお伝えしたいと思います。
「エントリーシートに書くことがない……」
私は仕事の関係で、企業の採用担当者や応募する学生から生の声を聞く機会があるのですが、学生から、実際にこんな相談を受けました。
エントリーシート(ES)を書くとき、「サークルやゼミなどで、これと言える肩書がなくて、語れる(派手な)エピソードがありません。どう書けばいいか分かりません」という悩みです。
この学生は、とても誠実に学業やアルバイト、趣味に打ち込んでいます。授業に真面目に出席し、夏休みに短期の海外留学に行き、アルバイトは4年間同じところで、同じバイトたちをまとめる立場になりました。昔から続けている書道は三段。
地道に取り組んだ結果として、それぞれ際立ったレベルに至っています。ところが、「特に肩書があるわけではないですし」と、卑下するようなことを言います。
この学生が落ち込んでいたのは、友人のESを見せてもらったためでした。
彼の友達のESには、大企業でのインターン、学生NPOの立ち上げ、サークル活動の実績などなど、華々しい活躍のエピソードが並んでいたそうです。それと(一見地味な)自分のESを比較して、落ち込んでいたのでした。
相談の主は、FFS理論で個性診断すると、「保全性」が高いタイプです。
「保全性」の高い人は、「物事をコツコツと確実に進めていく」特性の持ち主です。日本人に最も多いタイプ(「受容性」「保全性」が高い人が多い)ですので、今回は「保全性」の高い人の強みを生かした、就活での戦い方について見ていきましょう。
「保全性」が高い人がハマる「拡散性」への憧れ
保全性の高い人は「確実に進めたい」、つまり「失敗したくない」という気持ちが強い。
ですから、とても慎重です。
また、周囲からの評価も気になります。「できないんだな」と思われることを嫌がります。そのため、何事も始めるときは十分に準備をしてからでなければ最初の一歩を踏み出せません。
一方、彼の友人は真反対の個性のようです。FFS理論で分析すると、おそらく「拡散性」の高いタイプです。
「拡散性」の高い人は、瞬発力が最大の強み。しかも、手順、ルール、枠組みを飛び越えてしまうことに躊躇がありません。
ですので、人がなかなかできない体験をしたり、意外な人とのネットワークを築いたりします。また、自分で「こうしたい」と主張することにもプレッシャーを感じないので、集団の中で「リーダー」や「代表」という肩書を獲得しやすいのです。こうなると、ESに書ける派手なエピソードに事欠きません。
「保全性」の高い人からすれば、どれも自分にないものです。そんな「拡散性」の高い人を、羨ましく感じるのもうなずけるのですが……。
しかし、個性が違えば、強みは異なります。
「保全性」の高い人には、「保全性」の強みがあります。
「保全性」の高い人に注意していただきたいのは「拡散性の人の強みがいかに眩しく見えても気にするな」ということです。
慎重な個性の人が、失敗をものともせずに飛び込んでいける人をマネしても、辛いだけですし、どこかで必ず綻びが生じます。そもそも「保全性」の強みが出せなくなってしまいます。
「慎重さ」という強みをどうアピールすればいいか
では、「保全性」の高い人は、就活でどう戦えばいいのでしょうか。
難しく考える必要はありません。繰り返しになりますが、正しく自己理解できれば、自分の個性を活かした戦い方はおのずと見えてきます。
正しい自己理解のために、FFS理論による個性診断をぜひ活用してください。自分の個性を構成する5つの因子を把握した上で、「拡散性」と「保全性」の違いを理解すれば、本来の強みである「保全性」の特性を武器として使うことが自信になると思います。
「保全性」の強みは何かといえば、ズバリ「慎重さ」です。
「それのどこが強みになるの?」と思う方もいるかもしれません。
「慎重さ」をポジティブにアピールしよう
最近の「保全性」の高い学生たちには、「慎重」というフレーズがネガティブに聞こえるようです。
無理もありません。就活で企業側が求める人材としてよく聞くフレーズは、どれも「革新」「改革」「挑戦」「創造」といった、妙に前向き過ぎるものが多く、「慎重」という言葉はまず出てきません。採用側に「あなたの会社は、拡散性が高い人がそんなに好きなんですか、活躍できるんですか?」と聞きたくなることもあります(これは同時に、拡散性の人の就活の注意点にもつながります)。
こんな風潮では、「慎重」=「動かない」「挑戦的ではない」というイメージになってしまいます。そこから逃れるために、「活動的な自分」を偽ってアピールしようとする。でもそれは「拡散性の罠」にハマっている証拠です。
「保全性」の高い人は、慎重だからこそ、「準備段階でたくさんの情報を集め、想定されるリスクも検討した上で、具体的な計画に落とし込む」ことができます。リスクヘッジも得意で、最悪の状態を回避する策もちゃんと考えます。
さらに、「粘り強くて、できるまで諦めない」ことを得意にしています。「周りから『できない』と思われるのが嫌」だから、できるようになるまで努力を惜しみません。だからこそ、時間がかかっても、何事も成功に導くことができるのです(その点、「拡散性」の高い人は途中から飽きてしまいがちで、物事を達成したり、刈り取ったりすることに興味を持てないことが多々あります)。
つまり、会社がプロジェクトを実際に進める際には、「慎重さ」はとても重要な特性です。ビジネスパーソンとして仕事を取り組む上で有効な武器になるのです。
「海外留学」の経験をアピールするならば
その自分の持ち味、「慎重さ」を、面接やエントリーシートでどう伝えるのか。ここが重要です。慎重さを魅力として伝える方法が分からないから、ぱっと目を引くエピソードに頼りたくなるわけですが……。
実例で考えてみましょう。
例えば、「海外留学」の経験を面接で話すとします。
ちなみに、最近の「保全性」の高い学生は、面接で以下の活動をアピールする傾向があります。
- 海外留学
- NPO/NGO/ボランティア団体に所属して積極的に活動している(海外にも行っている)
- 体育会やサークル、学生自治会などの役職を経験している
並べると、そのキラキラっぷりに「どこが慎重派の保全性なんだ」と突っ込みたくなるかもしれません。
これらの活動は、従来は、未知の領域に臆せず飛び込んでいける「拡散性」の高い学生に多かったものです。ところが今はSNSなどで情報入手が容易になり、留学もNPOも、すでに「こうすれば大丈夫」なルートが存在しています。
すでに道ができていれば、山登りのようにしっかりステップを踏んで進んでいくのは「保全性」の高い人の得意中の得意。「拡散性」でなければできなそうな見栄えのするエピソードが「保全性」でも手に入る! と、学生の間にどんどん広がっています。留学、NPO、役職、私はこれを「保全就活生の『三種の神器』」と命名しました。ちなみに、拡散性の高い学生はあまり流行を気にせず、自分のしたいことを好きにやっているので、この手の「三種の神器」に該当するものが生まれにくいようです。
なんだか揶揄するような言い方になってしまいましたが、留学もNPOも自治会も「保全性」が高い人がやることは大賛成ですし、何も問題はありません。
気を付けなくてはいけないのは、例えば「海外留学」一つとっても、「拡散性」の高い人と、「保全性」の高い人とでは、「語るべき内容が異なる」ということです。
「拡散性」の高い人が語るとしたら、恐らくこうなります。
「興味があったので、何の準備もせずに、とにかく現地に飛びました。行ってみたら想像と違うことや、失敗やトラブルも多かったのですが、その都度『こうやったらどうだろう』と、仮説・検証を繰り返しながら学んでいきました。偶然、現地の大学に講演に来ていた教授に心酔して、途中からその人の下で学ぶため、大学を変わりました。そうしたら、一緒に起業しないかと誘いが……」
「こいつはどこまで転がっていくんだ」と思わせる行動力、積極性などが「拡散性」の強みです。
「保全性」の高い人も、「派手なエピソードを手に入れた」という意識から、同じようにやってしまうかもしれません。
留学の手配を業者に頼んだとか、NPOは実は先輩から運営を受け継いだとか、積み重ねの部分を隠して、すべて自分でゼロからやってのけたような言い方を、ついしたくなるものです。
評価されるのは「ゼロからやりました」だけではない
でも、そこが罠です。
面接官は「風呂敷を広げる」学生に敏感です。
「話を盛っているな」と思われたら、発言を素直に受け止めてもらえる可能性が大きく下がります。
「どうやってその国を留学先に選んだの」
「NPOはどうやって設立したの」
といった面接での問いに、「ゼロからやりました」と、「拡散性っぽい」答えを返したくなるかもしれませんが、あなたの取るべき手は、「真実を話す」の一択です。
ただし、それでもちゃんとあなたの強みが伝わる言い方はあります。
「保全性」の高い人が、自分の強みをアピールしようとするなら、こうなるでしょう。
「ネットはもちろんですが、大使館に行ったり、実際に行った人から話を聞いたりして、しっかり準備して現地に向かいました。最初は英語での授業に慣れなくて苦労しましたが、言葉のハンディがある分、ネイティブの学生の2倍以上の時間を予習にかけて授業に臨み、テスト勉強のときはさらに時間をかけました。その結果、クラスでトップの成績を取ることができました」
あなたが伝えるべきは、「行動の大胆さ」ではなく「周到な準備を惜しまない」姿勢です。
リスクを踏まえ、一見無駄になりそうなことでも時間をしっかりかけて、想定できる範囲で確実に取り組むことで物事を成し遂げる、「保全性」の強みが伝わります。
(これはすなわち、「保全性」の高い人が就活のために行動するならば「準備」に時間を惜しまないことが最も有効だ、ということでもあります。最大の武器なのでもしそこに手を抜くと、戦いはなかなか厳しいことになるでしょう)
「保全性」が高い人がESや面接で「強み」を生かすための心得を、もう少し具体的に言いましょう。
ポイントは、事実ベースで1つのエピソードを掘り下げながら、「なぜそう行動したのか」「考えた背景は何か」「成功体験・失敗を通じて学んだこと」を伝えることです。それが、「準備と積み重ねに強い、という、自分の強みを自覚している」ことのアピールになります。
採用面接官が知りたいのは、まさにここです。彼ら彼女らはつまるところ「その人の強みがどこにあるか、それを本人がどの程度認識しているか」を確認したいのです。それこそが就活で多用される「自己理解」のほんとうの意味です。
面接官は、FFS理論や「保全性」という言葉を知らないかもしれません。それでも、こんなアピールをするあなたを見れば「この学生は自分の強みを知っていて、それをどう使えば仕事に活かせるかをつかんでいる」と思ってくれるはずです。
自己理解している人は、地に足が付いていて、壁にぶつかっても解決できる胆力があります。企業が求めているのも、そういう人なのです。
「保全性」が高い学生の方へのアドバイス
「保全性」の高い人へのアドバイスをまとめます。
「保全性」の高い人は、「拡散性」の高い人に目立つ「活動量の多さ」や「肩書のきらびやかさ」の罠に陥らないこと。「積極的で行動力のある自分」は、一つの理想型かもしれませんが、あなたが目指す理想型とは限りません。
地味で、地道だ、と思えることであっても、一度すべての経験を棚卸ししてみましょう。
あなたが慎重であるが故の、準備の仕方、情報の集め方、計画性の高さなどに着目して、自分の強みを整理します。
慎重だけど努力を怠らない個性だからこその、「何事もなし得る強さ」をアピールすれば、採用担当者の心をグッとつかむプレゼンができます。実のところ、多くの企業で一番求められているのは、口だけの改革屋ではなく、任された仕事を誠実、着実に達成していく、あなたのような人なのです。
「保全性」が高いならば、「慎重な自分の個性を活かした活動」を意識し、その強みを磨いていきましょう。
大学1~3年生の皆さんも、ぜひ一度FFS診断を行って、自分の「強み」をつかむヒントにしてください。
© Chuya Koyama/Kodansha(構成:前田 はるみ)
あなたの知らない あなたの強み
個人の力を引き出し、チーム全体の歯車をかみ合わせるために、ソニー、ホンダ、LINEなど約800社が採用する「FFS理論」。
FFS理論の視点から人気コミック「宇宙兄弟」の名シーンを読んでいくことで、
「自分の知らなかった自分自身の強み、その活かし方」
「他人の個性を理解する手がかりの見つけ方」
「チームの力の引き出し方」
が、どんどんインプットされていきます。
本書購読者限定の「Web診断アクセスコード」が付いているので、自分の強み、弱み、そして自分に近い宇宙兄弟のキャラクターが分かります。ぜひお試しください。
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