2019年のノーベル化学賞受賞が決まった旭化成の吉野彰名誉フェローが23日、日経ビジネスの単独インタビューに応じた。日経ビジネスと日経Automotiveが同日主催した「Future Mobility Summit:Tokyo 2019」に登壇した吉野氏は「2025年以降はAIEV(人工知能が運転する無人自動運転の電気自動車)がマイカーにとって代わる」と予言。インタビューでも自動車産業に大きな転換点が訪れていると指摘し、ハードからソフトへの業態転換が欠かせないとした。主なやりとりは以下の通り。

10月23日、日経ビジネスの単独インタビューに応じた吉野氏(写真:新関雅士)。
10月23日、日経ビジネスの単独インタビューに応じた吉野氏(写真:新関雅士)。

プロ野球の日本シリーズでは見事な始球式でした。ちまたではすごいフォークボールを投げたと評判です。投球フォームも非常にきれいでした。

吉野彰・旭化成名誉フェロー(以下、吉野氏):完璧だったでしょ(笑)。昔取ったきねづかですよ。もう野球はしていませんが。今やっているのはテニスくらいですね。

ノーベル化学賞の受賞は想定の範囲内だったのでしょうか?

吉野氏:欧州の関心事は環境問題です。リチウムイオン電池の用途は2010年くらいまではモバイルIT向けでした。それだけならストックホルムも私にノーベル化学賞は出さなかったでしょう。でもリチウムイオン電池は車向けが伸びてきた。EV(電気自動車)に載ってきた。つまり環境に具体的にリンクしたのです。これでノーベル賞が来るな、と思いましたよ(笑)。

 しかも出るなら今年かな、と。リチウムイオン電池はそもそもが(1981年に日本人として初めてノーベル化学賞を受賞した)故福井謙一先生の理論をもとに、(2000年にノーベル化学賞を受賞した)白川英樹(筑波大名誉教授)先生が具体的にポリアセチレンという具体的な化合物を発見したことが原点で実用化にこぎつけたのです。見てください。19年周期なんです。リチウムイオン電池でノーベル化学賞がもらえるのは。ですから今年だな、と思っていました(笑)。

リチウムイオン電池の実用化に向け研究しているときは、今のように自動車、EVに活用されると思っていたのでしょうか。

吉野氏:車の電動化なんて全く想定していませんでした。モバイルITに使われることも想定していなかったくらいですから。1981年ごろでしょうか。当時はポータブルが流行語で、ソニーの8ミリビデオカメラなどが広まりました。でもまだ、どでかかった。(リチウムイオン電池で)それをもっと小型化できるということは考えていました。

研究者として一番の醍醐味は何でしょうか。

吉野氏:それは自分の研究で世界を変えることですね。しかもそれが現実になったのですから。

吉野さんの言うAIEVが普及すると、今の自動車産業は大きく変わります。特にマイカーが消えシェアリングになると、新車が売れなくなるのではないでしょうか。

吉野氏:新車市場は確かにものすごくシュリンクするでしょう。でもしょうがないですよね。もう自動車メーカーは今のままでは生き残れないですよ。今のような産業だったらいずれ、組み立てを手掛ける単なる下請けになってしまいます。

 その危機感を、トヨタ自動車の豊田章男社長はわかっていますよね。だからあんなに危機感を前面に出しているのだと思います。だけど周りがその危機感についていけてないような気がします。だから豊田社長が怒っている(笑)。

新車市場が大幅に縮んだら、自動車メーカーは固定費が賄えなくなって赤字に陥り崩壊するのではないでしょうか。

吉野氏:ですからそうなる前に業態転換すればいいのです。ハードではなくソフトに。もう製造業だと思っていてはダメでしょう。

トヨタ自動車という社名から「自動車」という単語が取れてしまうようなことすら想像しなくてはいけないのでしょうか。

吉野氏:そうだと思います。

日本の自動車メーカーはそうしたことに対する備えが海外のライバルと比べてできているのか、できていないのか、どちらでしょうか。

吉野氏:海外の大手自動車メーカーものんびりしていますよ。その危機感に関しての差はあまりないのではないでしょうか。ただ同業のライバルと比べても(しょうがない)。アメリカにはグーグルなどがいますからね。

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

初割実施中

この記事はシリーズ「インタビュー」に収容されています。フォローすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。