みなさんこんにちは。月に1度の書評コラムです。
先日、参議院選挙があり、予想通り自公両党の政権与党が勝ちました。しかし選挙は盛り上がらず、投票率は52.61%と、公選法施行後では補選を除いて史上4番目の低さでした。自民党は圧勝しましたが、有権者に占める得票率は約18%にすぎません。つまり、市民の5人に1人の支持しか得ていないのです。こういう結果を見てみると、政治とは何かということを皆で考えることがいかに大切かと痛感します。
参院選もちょうど終わった今、もうあと3年は選挙がありませんので、少し日本の政治についてじっくり考えてみましょう。
田中角栄を通じて戦後政治史を知る
日本の政治といえば、55年体制ですね。55年体制を描いた本はたくさんあるのですが、個人の伝記を通して、55年体制を見事に描き切った本が、『田中角栄 戦後日本の悲しき自画像』(中公新書)です。

著者は元朝日新聞記者の早野透さん。55年体制を象徴する政治家である田中角栄首相の番記者だった早野さんが、55年体制とはどういうシステムだったのかを、田中角栄の個人史を通じて解き明かす本です。戦後の政治についてこれほど明瞭に描き切った本はほかにないと思います。これ1冊で、戦後の政治の大きな流れが理解できると思います。私自身は田中角栄さんとは考え方が全く違うのですが、それでも、これを読んで田中角栄さんはすごい人だったのだなと思いました。
高度成長とともに政治家として影響力を強めていった田中角栄がいかにしてその地位を築き、いかにして力を失ったのか。膨大な取材の蓄積の中から選りすぐった事実が、緻密で、かつ品のある文章に凝縮されている力作です。早野さんは、田中角栄の後援会である「越山会」の真実を知るために、新潟支局への赴任を希望したといいます。現地で一軒一軒たずねて、取材を積み重ねてきたジャーナリスト魂の結晶です。田中角栄の人物像と、55年体制の全貌が理解できる、一石二鳥のお得な本と言えるでしょう。
しかし、戦後の政治システムは、実は小選挙区になってからかなり変わっているのです。田中角栄が亡くなってからもう20年経ちました。細川護煕、小沢一郎が手掛けた小選挙区制度は、日本の政治の大きな分水嶺だったという気がしています。その変化が一番わかりやすく整理されているのが、『首相支配――日本政治の変貌』(竹中治堅著、中公新書)だと思います。

1選挙区で1人しか当選できない小選挙区制度が衆院選に導入されたことで、いわゆる市場の力がさらに強くなったことで、55年体制そのものもかなり変わりました。要するに、1990年代の政治改革はなんだったのか、ということを、この本は政治学者の視点で構造的に整理しています。早野さんの本とこちらの本を読めば、戦後の政治の大きな流れのようなものはほぼカバーできると思います。
今一番問われているのは、劇場型政治、あるいはポピュリズムということです。小泉政権も「小泉劇場」などと言われましたが、民主党も鳩山由紀夫さんや菅直人さんのポピュリズムでしたし、安倍首相も、もしかしたらポピュリズム的なのかもしれません。
小選挙区が様変わりさせた政治風景

選挙制が変わる中で、政治はかなり変貌したと思います、選挙制度とともに民主主義そのものも変わったのだということで、『変貌する民主主義』という、かなり読みやすくてよい本を次にご紹介します。中国・韓国のナショナリズムや新自由主義などとの関係は、一度押さえておかなければいけません。そもそも、民主主義とはどういうものだったのかということを、この本で整理できます。政治において、一番考えなければならない厄介な問題は、ポピュリズムであり、ナショナリズムであり、はたまた新自由主義のような考え方だと思うからです。
古典的な民主主義から、市場主義経済が蔓延する中でポピュリズムやナショナリズムが生まれてきたのだという流れがよく理解できます。

さて、ここまでわが国の政治状況を中心に頭を整理した後で、次は政治の原点を考えるために古典を読んでみましょう。ほとんどの政治家はこれを読んでいます。マックス・ウェーバーの『職業としての政治』です。
近代のほとんどの知性はマックス・ウェーバーから始まると言っても過言ではないと思います。著書には『職業としての学問』があり『職業としての政治』があり、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』があります。マックス・ウェーバーの名前を聞いたことのない人はいないでしょうね。
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