編集Yです。読者の皆様、こちらが「本当に人が乗って操縦できる」ロボット、クラタス(写真上)の製造・販売を行う水道橋重工の“創業者社長”、倉田光吾郎さんです。
倉田:Yさん、ちょっとまって、煽りすぎ。それにクラタスは作ったけど社長じゃないから(笑)。
クラタスの前はサッカーボールのキックマシン(カストロール1号)、その前は、アニメに出てくる「ボトムズ」の実物大を作っていましたよね。
倉田:はいはい。インタビューしていただきました(編注:記事リンク先は「日経ビジネスEXPRESS」時代のページなので、表示が乱れます。ご容赦下さい)。
初めてお話を聞いてからもう9年、倉田さんが一人で鉄を叩いて溶接して作った「ボトムズ」は乗れるけれど動かなかった。それがついに、乗って操縦できるロボットを作って、販売サイトまで立ち上げて「メーカーを名乗る」までに。ここまでの経緯をかいつまんで教えて頂けますか。
クラタスの販促デモ動画。ヘッドホンを着用してどうぞ
倉田:クラタスにつながっているのは、カストロール1号(具体的な説明はこちら)ですね。木谷(友亮、株式会社カイブツ)が持ってきた仕事を僕が受けて、2人でやったと。
BPカストロール社が、2010年FIFAワールドカップのスポンサーになったことを記念して、イベント用に時速200km超のキックが放てるマシンを作ってくれ、という(※編注:実物の写真は、他社さんですがこちらを)。
倉田:はい、無茶な話だな、と思ったんですが受けてみました。どーやったら200キロでボール蹴れるか分からない、ノープラン状態で。でも、大抵のことはやってみたらできるもんですよね。
やればできる。そういうもんかなあ。
サービス仕事で「油圧」を学ぶ
倉田:実際に時速200キロを達成してギネスにも登録されたんですが、スローでみると凄いですよ、ボールが蹴る足に巻き付くように変形してから飛んで行くというか、むしろ「ボールって凄いな」って感心しました。
そこか。
倉田:あと、威力がありすぎて、ゴールのネットを突き抜けちゃう。なので、ゴールしても全くネットが揺れない。おかげであまりダイナミックに見えなかった。ステンレスワイヤーのネットとかも作れば良かったと後悔してます。
そう来たか。
倉田:このプロジェクトは広告案件としては、かなり自由に作らせてもらって、最低条件をクリアすればその他は比較的自由でした。初めは自走とかする予定じゃなかったんだけど、面白みが少ないな…と思って。予算とギャラそのままでいいからやらせてくれって言ったり、最終的には油圧で立ち上がる機構までサービスで追加(笑)。
あれはサービスで付けたんですか。
倉田:でも、お陰で人のお金で油圧の勉強できたし、結果オーライ。
オーライか……?
倉田:それで、「あ、油圧って意外に簡単だぞ、1/1ボトムズと組み合わせたら動くロボットが作れるじゃないか」、と。ちょっと短絡的な流れですが。
文字通り短絡ですね。クラタス初号機の開発資金はどうされたんですか。
倉田:資金どころか、まず全部で幾らかかるのかさっぱり分からない。そんな話を木谷にしたら、広告方面でサポートするからとりあえず資金は自分持ち出しで始めよう、という感じに。
まずは自己資金で。
最初は自分のお金で作る
倉田:シリンダーとか、どこで買ったらいいのか分からない部品とかは、とりあえずヤフオクで買って、使い方が分からなければバラしてみたりとか。そういうとにかく安く済む方法で、どの程度の金額で製作ができるのかを知るための試作をしたのが、実機製作の始まりです。
それを通してなんとなく、「これは、そこそこお金がかかるぞ」、と分かってきたんですが、スポンサードや外部のお金を入れるのは、少なくとも製作中は止めようと。
なぜですか?
倉田:例えばクライアントがある仕事だと、“ここをもう少し踏み込んだらスゲー面白くなるのに!”というところをいろいろな理由でブロックされる事って、普通に起きるじゃないですか。
私の仕事だと、芸能関係の方のインタビューでよくありますね。本人よりも周りの人が気にする場合がほとんどです。たいていすっごくつまらなくなる。「自分が話した内容なら、ノーチェックでOK」という方のほうが、実際、話も面白いんだ。
倉田:でしょうね。もの作りの場合も、企業が相手だと、例えばどんなに必然性があっても「ロボットに銃を持たせる?とんでもない!」となる。
倉田:常識の範囲に抑える、それは「仕事」として分かるんですが…そもそも作家の仕事って、こういう「一般常識」の先にあるものだし、だからこそ単に商業的な物よりも魅力があるものが作られる可能性がある。
ああ、でも製作前にスポンサーが付いたとしても、「兵器っぽく見えないようにしてね」とか言われる可能性は高いでしょうね。
倉田:自分としては巨大ロボだったら武器持たせたいよなー、安全なミサイルとかバンバン撃ちたいよなーとか、そこら辺がスタート地点になるんだけど、スポンサーが居る仕事だったら多分できないよ、って。
もの作りのスタイルとしても、コンセプトや具現化のプロセスではできる限り一人でやる方が良い結果が出せるので、この段階で外部からお金を入れることは考えてなかった。
とはいえ、最初のお金はどうしたんですか。
倉田:いつもの通りに。「稼いだお金はその日に使え」(こちら)という感じで。
じゃあ、カストロール1号で稼いだ分を突っ込んで。
倉田:ほぼそうですね。
でも、稼いだお金は全部次の作品に使いたい、という発言は独身時代の話。今は結婚されて、状況変わりましたよね。
倉田:……ハイ。
ですよね。大丈夫ですか?
倉田:ヤバイですよ。
ヤバイですか。
最初に、住むところを確保した
倉田:とりあえず、クラタス作ってる間は大きなプロジェクトとか抱えられないので収入は減るどころか、むしろお金突っ込んでる状況になるので、非常にマズイ。
その時に借家なのに家賃が払えない!というのはまずいので、とりあえず家だけは建てておこうかと。
なるほど、クラタスの開発は「家を建てる」ところからスタートしたんですね。
倉田:そうそう。昔ドームハウスは建てた事あったし場所さえあれば何とか。
ん。もしかして、家、また自分で建てたんですか。
倉田:もちろんです。今回は基礎工事から。友達がユンボをタダで譲ってくれたから、穴掘って型枠組んで生コン屋さんに来てもらったり。これでとりあえずは家賃問題は大丈夫ということで。
ユンボくれる友だちがいるんですか。
倉田:はい。返さなくていい、と言われたので、穴掘り終わったら解体してクラタスの試作部品にしちゃいましたけど。
ちなみにどういうお家なんですか。
倉田:今回は2階建てをやってみたくて。
建てちゃったと。工期は?
倉田:丸1年くらいかな、冬の終わりくらいに始めて、翌年の秋頃に仕事が忙しくなっちゃったので、外壁の外張りとかは大工さんにお願いしました。外張りがないまま冬になっちゃうと家の中で寒さで死ぬ、と思って。その他はほぼ自力で。そういえば、途中で高所恐怖症がぶり返して、高い所の作業はけっこう奥さんにやってもらってた。
「搭乗型ロボットがいる現実」を見てみたい
うーむ、さすが倉田さんの奥様。しかし、開発に入る前に家を建てるという手法は斬新です。「頼むお金がなければ自分でやればいい」という9年前の話(こちら)が、さらに進化してますね。あっ、建てたのは「3.11」の後ですか?
倉田:前です。地震で真っ先に心配したのが「家、なくなっているかも」でしたが、無事でした。
そんな感じで、カストロールの途中から、もうロボットは頭にあって、家を建て始めました。クラタスに実際に着手したのは、2010年の秋頃だったかな?
先ほどちらっと言いましたが、コンセプトは、あの「ボトムズ」が実際に動くイメージでした。ボトムズは関節をちゃんと作っているので、制作途中でちょっと押すと、ゆらーっと全体が揺れたりするんですよ。あの巨体が動いたときの恐怖感がすごくあった。アニメだと「全高4m」というのはすごく小さいですが、それが実際目の前に来て動いたら、人はどう思うのか。「これはちょっと見てみたいな」と思ったんですよね。
なるほど。
※注 「ボトムズ」とは、サンライズ制作のアニメ「装甲騎兵ボトムズ」のこと。2004年、作品内で搭乗する「スコープドッグ」と呼ばれる人型の兵器を、実物大のサイズで倉田氏がひとりで制作し、話題に。2005年には東京・水道橋で展示会も開かれ2万1000人を動員。原作アニメの監督、高橋良輔監督のコラムも当サイトにございます(「 “アンチ天才”のボトムズ流仕事術」)。【追記:この欄で「ドッグ」を「ドック」と誤記しておりました。お詫びして訂正します。サンライズのS様、寛大な掲載許可とご指摘に感謝いたします(Y)】
倉田:あと現実的にも4mというのが、個人で作れる最大サイズかな、というのもありました。胸部に人が乗り込むのもボトムズのそのままですね。
話がちょっと先に飛んじゃうんですけど、クラタスって「水道橋重工」で売ってるんですよね?
【初割・2カ月無料】お申し込みで…
- 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
- 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
- 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題