2002年に開発されたファイル共有ソフト「Winny」。画期的な内容で瞬く間にシェアを伸ばしていく一方、違法アップロードが横行して社会問題へと発展。開発者・金子勇の逮捕へとつながっていく。しかしその裏には、国家権力の横暴が潜んでいて……。
実在の事件を松本優作監督、東出昌大と三浦貴大の共演で劇映画化した『Winny』が3月10日に劇場公開を迎えた。本作でナカチカと共に配給を務めているのが、KDDIだ。言わずと知れた通信サービス会社はなぜ、配給事業にチャレンジしたのか? プロデューサーを務める金山氏にその真意を伺った。
作品選びの基準は「顧客満足度」
――そもそも金さんが映像事業に関わられたきっかけは、どのようなものでしたか?
僕がKDDIに入社したときは「電子書籍元年」と言われていて、最初は電子書籍やワンセグの事業を担当していました。その一環で映画の出演者にインタビューする機会があり、「この業界は面白そうだぞ」と興味を持ったんです。そこから出資事業を立ち上げ、同時にKDDIのお客様にどう映画を楽しんでもらえるかを考えて「auマンデイ」等のサービスも始めました。言葉は悪いですが映画には中毒性があって、関わる人たちの「絶対にヒットさせる」という熱に感化され、どんどんのめり込んでいきました。
――2010年の『ゴールデンスランバー』に始まり、KDDIは『犬鳴村』『花束みたいな恋をした』等々、様々な作品に出資されてきました。作品選びの基準等はあるのでしょうか。
やはり顧客満足度です。僕たちが抱えているお客様(auスマートパスプレミアム会員)が1,300万人ほどいるとして、皆さんが満足できるような作品を提供したい。となると、お客様は全国にいらっしゃるわけですからどうしても全国規模の作品が中心になります。顧客満足を目指しながら数か所で限定公開される作品に携わるのは「自分が住んでいるエリアで観られない」という問題が生まれてなかなか難しいですから。
ただ一方で、プロデューサーの端くれを目指している身としては『Winny』のような作品をお客様に提供したいとも感じていました。
どうしても『Winny』をKDDIで配給したかった
――ちなみに、金さんが『Winny』に携わるようになったきっかけはどのようなものでしたか?
ちょうど2年くらい前に伊藤主税プロデューサーを紹介されて、開発中の脚本を共有いただいたのが始まりです。僕自身もWinny事件をリアルタイムで見ていた人間なので非常に興味を持ち、色々と意見をお伝えしました。その時点で関わりたかったのですが、色々な事情があって実現しませんでした。
そこから1年ほど経ってもやっぱりこの企画が気になっていて「どうなっていますか?」と状況を聞いて、そこから参加することになりました。
――金さんをそれほどまでに引き付けた理由は、どのようなものだったのでしょう。
ひとつはいまお話ししたように、自分にとって身近な事件だったことです。僕自身も当時を経験し、いま通信会社で働いていることもあって「あの出来事をどうしても映画として伝えたい」という気持ちが強くありました。
――それが今回の配給につながったのですね。
これまでも劇場公開と配信が同時の作品などは手がけてきましたが、劇場映画は『Winny』が初です。恐らく、従来であれば本作はミニシアターを中心とした規模感での上映になっていたはず。でも今回は、その部分もチャレンジしたいと思っていました。KDDIが入ることで、シネコンでの全国公開を目指したいと考えたんです。
――その部分、ぜひ詳しく伺いたいです。