冨山 和彦氏の、「ホワイトカラー消滅」という本を読んだ。

結論としては、良い本だった。

 

端的に言うと、この本は次の3点のことを主張している。

1.事務屋はAIの出現で(ほぼ)消滅する。

2.農業・医療・土木・小売・サービス・介護などを担う、現場の技能職(エッセンシャルワーカー)が雇用の受け皿となる。

3.エッセンシャルワーカーが活躍できる「ローカル産業」の、経営者の交代と高価格化をすすめなければならない。

 

要は、事務職が要らなくなるので、「現場」の生産性を高めて、デジタルで代替しにくい人材を増やせ。

そういう話だ。

 

これは、現在の「ホワイトカラー=大企業に数多くいる事務屋たち」にとって、極めて厳しい未来を予見している。

実際、冨山氏の主張は、ホワイトカラーにとって最終通告とも取れる。

ホワイトカラーの多くは、自分の食い扶持を自分の才覚や能力で稼がなければならないという感覚を喪失している。その代わり、努力賞で評価されようとする。毎日休みなく通っているから、これだけ苦労しているから、これだけもらうのは当然ですと主張する。しかしそれは、世界基準で考えると異常な感覚と言わざるを得ない。(中略)

 

彼の見立てによれば、生き残れるのは、ビジネスを生み出す「経営者」と、手と体を動かす「現場」のみ。

中間搾取しているホワイトカラーは必要なくなるという。

 

リアルに「事務仕事」は全滅する

どう思うだろうか?

「そんなオーバーな」

「人間の仕事は簡単にAIに代替できない」

「ホワイトカラーの仕事を舐めすぎ」

そういう方もいるだろう。

 

しかし、生成AIの導入の現場にいれば、誰でも冨山氏の主張は決してオーバーではないと感じるだろう。

 

2022年11月にChatGPTが出現してからわずか2年で、生成AIの能力は、すでに実務でかなり使えるレベルに到達している。

特に、ソフトウェア開発、営業、マーケティング、調査、コンサルティングなど、事務職においては、多くの領域で、生成AIの能力が、彼らの仕事を代替しつつある。

 

そして、この変化が雇用に影響を与えるのも、時間の問題だろう。

おそらく、5年から10年で、「デスクワーカー」は大きく減る。

そもそも、ホワイトカラーの仕事そのものが無くなるので、今後「新しく雇用する必要すらない」。

 

冨山氏は、次のように述べている。

ホワイトカラーに残る仕事は、本当の意味でのマネジメントである。現状、いわゆる中間管理職が担っている管理業務ではなく、経営の仕事だ。

これまでは数多くあったホワイトカラーの「部下仕事」は、生成 A Iに急速に置き換わる。 問いのある仕事、正解がある仕事において、圧倒的な知識量、論理力、スピード、昼夜働く力に人間は勝てない。

残るのは自ら経営上の問いを立て、生成 A Iなども使って答えの選択肢を創造し決断する仕事、すなわち「ボス仕事」だけである。言わば中間経営職ということになるが、そこで必要になる人員数は現状の中間管理職よりも一桁少なくなるはずだ。(中略)

 

きわめて高度にクリエイティブなデスクワークも残るだろう。クリエイティブなデスクワークとは、例えばデザイナーであればチーフデザイナーの仕事である。

プログラマーであれば、プログラムを書く人ではなく、ソフトウェアの基本アーキテクチャを構築できる人である。文章を書くにしても、生成 A Iで事足りるウェブライターなどの仕事は代替され、記事としてのテーマを企画し、編集する人が担当する。

アカデミー賞を取るような脚本を書く人もそうだ。誰もができる仕事ではなく、世界で戦える仕事に純化されていく。言わば「プロ」の世界のボスたちだ。

 

これらの仕事で食べていける人は、これまたかなり限られた人だけである。そうなると、社会全体として、ボス仕事を担うアッパーホワイトカラーだけがグローバル産業で生き残ることになり、ロウワーホワイトカラーは消滅していく、あるいは賃金水準は下がっていく。

その人たちは、ノンデスクワーカーの世界に移動せざるを得なくなる。

 

実際、以下のような仕事はすでに「AI化」が始まっており、人間がすぐに凌駕されてしまう領域であることが確定している

 

資料作り

社内の会議調整

審査のための資料チェック

営業事務の多く

議事録作成

翻訳

コーディング

表計算での作業

SEO記事作成

プレスリリース

広告コピー/クリエイティブ制作

デスクトップリサーチ

 

おそらく8割、9割の「デスクワーカー」はほんの僅かな「トッププロ」を残して、不要になってしまう。

残るのは「お金」を伴う意思決定のみ。だからホワイトカラーには、トッププロと経営管理者しか残らない。

 

では「ホワイトカラー」ではなくなった人々はどこに行くのか。

それが現場仕事、エッセンシャルワーカーだ。

 

少し前から、ホワイトカラーは人が過剰供給になってきており、エッセンシャルワーカーが、代替として雇用の受け皿となってきた事実がある。

例えば下は、介護職員数の推移だが、待遇があまり良くないにも関わらず、増加してきた。

 

 

人対人、物理的な物を扱う仕事。

具体的には、看護師、介護士、農家、運転手、土木作業員、フィールドセールス、ツアーガイド、ホテルマン……

このような仕事は需要があるし、書類仕事のデスクワークと比べて、すぐにはAIに代替できない仕事だ。

 

現在はまだ、給与が低い水準の会社が多い。

しかし、経営者が交代し、DXやAI化で、業界の生産性が向上すれば、「待遇の悪さ」も徐々に改善するだろう。

だから冨山氏は、「人手不足で潰れそうな会社を助けるな」と言っている。

 

事実、最近では生成AIの利活用について、地方の中堅企業からの問い合わせがとても増えた。

そして、問い合わせの理由を尋ねると、「人手不足」と回答する企業がとても多い。

 

東京の大手企業よりも、生成AIの活用に真剣に向き合わざるを得ない。

そういう状況が、ひしひしと伝わってくる。

これまでのどんなことよりも、社会の変化が間近で感じられる、そんな時代に我々は生きている。

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【著者プロフィール】

安達裕哉

生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」82万部(https://amzn.to/49Tivyi)|

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Photo:Etienne Girardet