はじめに
もう1年近くの前の話になりますが、去年の今頃、僕は小学校のPTAの会長をやっていました。
そしてその頃、一番頭を悩ませていたのが、次年度のPTA会長の選出です。
このエントリでは、なぜそんなにPTA会長の選出が大変なのか、そして、PTA会長をスムーズに選出するためにどういう工夫をしたのかについて書いてみます。
【もくじ】
PTA会長選出が大変な理由は「自ら立候補することが必須」だから
お通夜状態のまま校長室で深夜0時超え!?
さて、まずPTA会長の選出が大変な理由についてですが、これは息子の小学校では「PTA会長は必ず自ら立候補した人でなければならない」というルールがあるからです。
つまり、「最後はくじで決める」みたいなオプションが使えません。
PTAの会長は15名程度の地区の代表者(=次年度のPTA役員)を校長室に集めてその中から1名を選出するのですが、聞くところによると、夜8時頃から始めた会議が「お通夜状態」のまま、深夜0時を超えて続くこともよくあるそうです。
最後は根負けをした人が「じゃあ、私がやります・・・」と手を挙げ、その人がPTA会長として選出されることになります(まるで生け贄決定、みたいな構図・・・😱)。
僕はさっさと帰りたかったから手を挙げた
じゃあ僕はなんでPTA会長になったのかというと、深夜0時までお通夜状態で校長室に居続けるのが時間の無駄としか考えられなかったからです。
実際、去年の話し合いもすぐに「お通夜状態」に突入してしまったので、開始30分程度で「こりゃダメだな」と見切りを付けて「誰もいないんだったら僕がやります🙋🏻♂️」と手を挙げました。
(みなさんだったらどうしますか?深夜0時まで校長室に残りたいですか?)
しかし、「僕の次のPTA会長」を決めるときはそういうわけにはいきません。
なぜなら、手を挙げるのは必ず「僕以外の誰か」でないといけないからです。
あー、いやだ!!夜遅くまで学校になんていたくない!!
だいたい僕は早寝早起きが基本なので、毎晩9時には寝るんです。
深夜0時なんて完全に営業時間外です。
そんな時間まで絶対に起きていられません!!
そもそもなんで立候補制なの!?
ところで、そもそもなぜくじ引きがダメで、立候補制にしなきゃいけないのか?という点が気になりませんか?
僕は大いに気になったので、その理由について校長先生のところに話を聞きに行きました。
校長先生の回答は、「当たるべきではない人に当たってしまう可能性があるから」ということでした。
ときどき、親の介護問題のような大変な家庭の事情を抱えている親御さんがいたりするらしく、くじ引きでそういう人に当たってしまうリスクをなるべく避けたい、とのことでした。
うーん、大なり小なり、どの家庭も何かしらの問題は抱えていそうな気がしますが、たしかにくじ引きで「相当深刻な家庭の事情を抱えている人」に当たってしまうのは問題がある気がします。
(「それなら、そういう人を地区の代表者として出してくるな」という声が聞こえてきそうですが、そこには各地区ごとのローカルルールやら歴史的経緯やらがあって、学校はコントロールしづらい領域なんです)
というわけで、学校側に了承をもらった上で、「くじ引き」は避けながらも「お通夜状態で午前様」を避ける工夫をいろいろ考えて実践してみることにしました。
人はなぜ、「お通夜状態」になってしまうのかを考える
PTA選出会議で人々が「お通夜状態」になってしまうのはいくつか原因があると思いますが、一番大きな理由は「PTA会長を引き受けてしまったときに、自分の身に何が降りかかってくるか、まったく予想が付かないから」ではないでしょうか?
一寸先が真っ暗闇な状態で「誰か一歩前に歩いてくれませんか?」と言われて、自らすすんで前に出たがる人はまずいません。
また、「PTA会長を引き受けたら負け。完全に損」と思われている面も大きいと思います。
つまり、まったくメリットが見えず「ただ余計な仕事が増えるだけ」と思われてしまったら、やはり立候補する人は出てこないでしょう。
最後に、「人が集まっているだけで、場の空気がまったく暖まらないこと」も「お通夜状態」になる原因の一つだと思います。
隣の人が誰だかわからない、どんな人かもわからない、何を考えているのかもわからない、という状態では発展的な会話が何も生まれず、人々は「ただただ沈黙するだけ」になってしまいます。
「お通夜状態」を避けるための3つの鍵
というわけで、「お通夜状態」を避けるための鍵は、
- PTA会長の仕事内容や仕事のボリュームをきちんと伝えること
- PTA会長になるメリットも伝えること
- ある程度お互いのことを知った上で、会話が生まれやすくなるように場の空気を暖めること
の3点ではないかと考えました。
それでは、PTA会長選出会議の当日に、僕が具体的にどんな施策を打ったのか、このあとで紹介していきます。
会議開始!最初は積木式自己紹介でアイスブレイク
校長室に集まった15名の新役員さんたちはみなさん緊張した面持ちで、室内はやはりしーんと静まりかえっています。
そこで今回はアイスブレイクとして、「積木式自己紹介」をやってもらいました。
積木式自己紹介というのは、
- Aです。
- Aさんの隣のBです。
- Aさんの隣の、Bさんの隣のCです。
- Aさんの隣の、Bさんの隣の、Cさんの隣のDです。
というように、前の人の名前を全員覚えながら自己紹介するゲームです。
ちょうど、新役員さんたちは2列に並んでいたので、半分の7〜8人ずつ、この積木式自己紹介をやってもらいました。
名前を忘れてしまったらもう片方のグループの人が名前を教えても良い、という特別ルールも作ったので、出席者全員がワイワイガヤガヤとこの積木式自己紹介を楽しみました。
積木式自己紹介を一通り終えたあと、
「さあ、場が盛り上がったところで、誰か立候補してくれる方はいませんか?」と聞いてみましたが、さっきまでの盛り上がりがウソのように、
シーーーン・・・・
と静まりかえってしまいました。(あ、ヤバい😅)
PTA会長の仕事内容をプレゼン
まあ、これだけで決まるはずはないですよね。
というわけで、次の手は「PTA会長の仕事内容とやってみた感想」を伝えることです。
事前に作っておいたパワーポイントのスライドと校長室にあったパソコンを使って、どんな仕事をやってきたのか、どれくらい大変だったのか、そしてPTA会長になるとどんなメリットがあるのか、といった点を紹介していきました。
ちょっと脱線:実際のところ、PTA会長の仕事ってどうだったの?
思っていたほど大変ではない(本当に!)
1年間、PTA会長をやってみた感想ですが、僕個人の感想としては思っていたほど大変ではなかったです。
ネットではよくPTAの悪評を聞いていたため、もっと辛い仕事が待っているんだろうな〜と覚悟していたのですが、PTAの会議やイベントは学校側がメインで段取りを組んでくれるので、僕自身がゼロから手を動かして何かを生み出すということはほとんどありませんでした。
(僕の学校だけかもしれませんが、悪名高いベルマーク集めの作業もなかった!)
会議やイベントはまあまあの頻度で発生しますが、忙しくて都合が悪くなったときは副会長さんに代理をお願いしていましたし、本当にどうしようもないときは会議を欠席することもできました。
また、わからないことが出てきたときは、前年度の会長さんや学校にいつでも質問や相談をすることもできました。
このように、何かあったときは周りの人たちの手を借りることができたので、PTA会長の仕事は「思ったほど大変ではなかった」と僕は思いました。
校長先生や学校の先生たちと気軽に連絡が取れる、というメリット
次に、PTA会長になるメリットについてですが、PTA会長になると校長先生や学校の先生たちとの距離がすごく近くなるのが印象的でした。
気軽に校長先生や学校の先生たちとお話しできるので、通学路の安全面で気になっていることや、学校生活の環境改善案などを直接伝えたりできたのが良かったです。
ただの「保護者」の立場だと、いきなり校長先生に話しかけるのはハードルが高いですよね。
あと、セコい話ですが、運動会や音楽発表会といった催し物があるときに、利便性のいい「来賓用駐車場」を堂々と使わせてもらえるのも良かったですね(笑)。
トータルで見たら「やって良かった」
もちろん、いろんな会議やイベントに出席するのはそれなりに時間が取られますし、学校ってなんか非効率なことをやってるなーと思ったりしたことがないわけではありません。
ですが、トータルとして見ると「いろいろといい勉強になった。子どもたちの環境改善に直接コミットできてる実感があったし、面白かった😄」というのが僕の感想です。(ウソじゃないよ!)
PTAは何かと悪く言われることが多い昨今ですが、実際にやってみると「保護者である我々と学校の先生方が協力して、子どもたちの安全を守り、子どもたちの環境を改善していく活動」として、前向きに取り組む価値はあるんじゃないかなと思いました。(問題点もいろいろあるので、無条件にほめるわけにはいきませんが)
なので、そういった話を上記のスライドにも盛り込みました。
緊張感をほぐすための休憩タイム
さて、スライドも紹介して、これで誰か立候補者が・・・と期待して、聞いてみましたが、相変わらずの「しーん」でした😣
この時点で会議開始から1時間ほど経っていたので、ここで10分ほどの休憩を挟みました。
この休憩時間中、僕は意図的に席を外しました。
おそらく新役員さんたち同士で、僕の前では話しづらい話をするんじゃないかなーと思ったからです。
また、新役員さんたちも「会長になりたくない、なりたくない・・・!!」という気持ちがいっぱいで気が張り詰めていたと思うので、緊張感をほぐしてもらう目的もありました。
休憩終了、会議再開
休憩時間が終わったので校長室に戻ってみると、役員さんたち同士がわいわいと話していました。
ここまでは予想通りです。
「さあ、みなさん、休憩が終わってちょっと気が変わったよ、会長やってもいいよ、って人はいませんか〜?😊」と優しく聞いてみましたが、みなさん突然の「無言モード」に。
「うーむ、やっぱりハードルが高いな・・・。やっぱりこんな調子で深夜0時までやらなきゃいけないのか??(汗)」と思いましたが、気を取り直して次の作戦に打って出ました。
ダメな理由を語ってもらう作戦
次の作戦は「ダメな理由を語ってもらう作戦」です。
この作戦はその名のとおり、各人に「PTA会長を引き受けられない理由」を語ってもらいます。
そのときにひとつルールがあって、理由を話すときは必ず「引き受けたいのはやまやまなんですが・・・」という出だしで語り始めてもらいます。
これは、ダメな理由だけがストレートに語られると、「一方的に拒絶された感」が出てしまうからです。
また、こういう出だしを付けると、たいていみんな苦笑いになるので、「場の重たい空気や、話し手の後ろめたさを中和する効果」も狙っています。
なお、理由が語られたあとは誰が何をしゃべったか忘れないように、おおよその理由をホワイトボードにメモしていきました。
そしてついに・・・自ら立候補する人が出た!
「ダメな理由を語ってもらう作戦」はなかなか興味深かったです。
「おお、それは本当に大変そうですね😰」というご家庭の事情を話す人もいれば、「引き受けたいのはやまやまなんですが・・・」のあとに大した理由が出てこなくてしどろもどろになっている人もいました(苦笑)。
とはいえ、みなさんの話を聞いていくと「なるほど、そういう事情なら、わからなくもない」という理由を抱えている人が多かったです。
そして、理由を語る人が半分を過ぎたあたりである男性が、
「引き受けたいのはやまやまなんですが、私は夜勤が多いので・・・まあ、引き受けてもいいといえばいいんですが、副会長さんにすごく迷惑をかけそうで・・・」
と話し始めました。
「おおおおっっ!!!」
とざわめく室内。そこで僕が、
「いやいや、みなさん、迷惑だって思われる方はいますか?副会長になった人は、〇〇さんを助けてくれますよね?」
と尋ねると、全員大きく頷いています。するとその男性は、
「私も今日は早く帰りたいですし、じゃあ・・・やります!」
とOKを出してくれました。
パチパチパチ👏と拍手が巻き起こる校長室。
これでついに新会長が決まりました!
会議が始まったのが19:30頃で、新会長が決まったのが21時過ぎです。
なので、今年は約1時間半で新会長を無事に選出することができました。
おかげで午前様にならずに済みました。あ〜、良かった〜!
この「ダメな理由を語ってもらう作戦」、隣に座っている人がどんな人で、どんな家庭の事情を抱えているのかがわかるので、「自分も大変だけど、他のみなさんも事情は同じだから、それだったらやるか」と思わせる効果があったみたいです✌️
余談:最後の一手は「投票」にするつもりだった
今回は「ダメな理由を語ってもらう作戦」が功を奏したのでそこで終わりましたが、それでも誰も立候補者が出なかった場合は最終手段として「投票」で決めることを考えていました。
この投票では各地区の代表者の氏名が書かれた投票用紙を配り、以下のルールに従って投票します。
- 会長に適任と思われる方1名に「○」を付ける。
- 事情を聞く限り会長にするのは避けてあげてほしいと思う人に「×」を付ける(複数可、ただし自分は除く)。
適任者に「○」を付けるだけでなく、避けてあげてほしい人に「×」を付ける、というところがこの投票のポイントです。
「ダメな理由を語ってもらう作戦」で各人の家庭の事情がわかっているので、「さすがにこの人が会長になったらかわいそうだろう」という人を除外しやすくなるのが「×」を付ける目的です。
そして、「○」は1ポイント、「×」はマイナス1ポイントで一番得票が多かった人を新会長として選出する、という方法を考えていました。
ですが、立候補者が出てくれたので、今回はこの投票用紙の出番はありませんでした。
まとめ
というわけで、このエントリでは僕が去年実際にやってみた「PTAの会長をスムーズに選出するための工夫あれこれ」を紹介してみました。
できるだけ「お通夜状態」になることを避けるために、場の空気を暖めることに注力していたせいか、会議が終わった後に校長先生から「話し合い中に笑い声が聞こえてくることは、これまで一度もなかった」というコメントをもらいました。
また、会議に出席していた新役員さんたちからも「スライドのおかげで、会長の仕事内容がよくわかった」「各人がダメな理由を語っていくのが良かった」といった感想をもらいました。
もちろん、この工夫は去年1回しか実践していないので、いつでもどこでも通用するかどうかはわかりません。
ですが、何もせずに「例年通り、誰かが手を挙げるのをひたすら待つ」よりかは良い効果があったと思います。
息子の小学校と同じように「PTA会長は立候補で決める」というルールを持っているPTAの方は、このエントリの内容を参考にして「できるだけ新役員さんたちが手を挙げやすくする工夫」を試してみてください😃
オススメの本
今回実践した工夫は「人の立場になって考える」「美しい心情に訴える」といった、書籍「人を動かす」に書かれている考え方を参考にしています。
この書籍の内容は仕事でも家庭でもいろんな場面で役に立つので、まだ読んでいない方は一度読んでみることをお勧めします。
- 作者: D・カーネギー,山口博
- 出版社/メーカー: 創元社
- 発売日: 2016/01/26
- メディア: 単行本
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あわせて読みたい
こちらのエントリではPTA会長として卒業式の式辞を述べたときの文例を載せています。
ありきたりではない式辞を考えていたら、こんなふうになりました。
blog.jnito.com
おまけ
Twitterで、もし自分が新役員としてPTA会長選出会議に出席していたら、「すぐに手を挙げるか」それとも「深夜0時を超えても待ち続けるか」というアンケートを採ってみました。
アンケートです。昨日書いたブログ( https://t.co/jch5zcxaGF )に、「僕はさっさと帰りたかったから自分から手を挙げてPTA会長になった」って書いたんですが、もしみなさんが同じ立場だったらどうしますか?
— Junichi Ito (伊藤淳一) (@jnchito) 2019年1月15日
結果としてはご覧のとおり、約6割の人が手を挙げる、約3割の人が待ち続ける、という結果になりました。
あれ?おかしいな〜。6割も手を挙げる人がいたら、世間のPTA会長はすぐ決まるはずなのに??
・・・と思ったりもしますが、これはきっと、合理的な考え方を好むITエンジニアが主な回答者だったせいなんじゃないかな〜と思います😅