都内に避難している東日本大震災の被災者の処遇に関する要望書
東京都知事 石原慎太郎 殿
東京都都市整備局住宅政策推進部 御中
東京都総務局総合防災部 御中
とすねっと要望書等第15号
平成23年6月24日
東京災害支援ネット(とすねっと)
代表 森 川 清
(事務局)
〒170-0003 東京都豊島区駒込1-43-14
SK90ビル302森川清法律事務所内
電話:080-4322-2018
第1 要望の趣旨
1 東京都が設置した避難所である旧グランドプリンスホテル赤坂に避難している方が近親者・友人・ボランティア等(以下「面会者」という。)に要請して面会する場合、避難者と面会者が自由に面会することを保障し、面会者が避難者に物資を供給したり、情報を提供する印刷物を手渡したり、避難者の子どもを一時的に預かったりすることを妨げないでください。また、面会コーナーで避難者と面会者とが交流することを妨げないでください。
2 東京都は、旧グランドプリンスホテル赤坂に避難している方に面会しようとする者に対し、面会約束時間の10分前に面会待合室に入ることを許可し、その前は同建物の敷地内に入れない趣旨の掲示をしていますが、このような硬直的な掲示を撤回してください。
3 上記1ないし2のような要求を東京都職員が避難者や面会者に対して行った場合、正当な理由により従わない自由があることを確認し、その面会者に立入禁止等の措置を取らないようにしてください。
4 東京都は、旧グランドプリンスホテル赤坂の避難者に対し、居室で面会者と面会することは許さない旨のルールを定めていますが、このような硬直的なルールを廃止してください。
5 東京都は、都内に避難している東日本大震災の被災者の方々に対し、一方的なルールを押し付けたり、都職員による一方的な命令に従わせたりしないでください。
第2 要望の理由
1 わたしたちは、主に都内で東日本大震災の被災者を支援する活動に携わっている弁護士・司法書士・市民等のボランティア・グループです(代表・森川清弁護士)。インターネット(ブログ)やニュースレター「とすねっと通信」を通じて被災者に必要な情報を提供し、避難所や電話での相談活動を行っております。
2 東京都は、本年4月9日から旧グランドプリンスホテル赤坂(以下「赤プリ」という。)に東日本大震災の被災者を受け入れています。しかし、そこで、避難者は外部と面会するのに大変な障壁に阻まれています。その障壁は、東京都が作った面会のルールです。
赤プリでは、たとえ近親者であっても、避難者の居室での面会が許されず、面会コーナーでの面会が求められています。さらに、6月中旬からは、この面会場所の制限に加え、「面会者の皆様へ」と題する面会ルールが定められ、面会の方法に細かな制限が加えられるようになりました。
面会ルールによれば、(1)面会には事前の約束が必要であるとし、本人に事前の連絡が取れなかった場合には伝言コーナーへの掲示などの方法により約束を取り付けた上で再度来所して面会を申請しなければならない(すなわち、東京都は呼び出し・取次ぎをしない。)、(2)面会約束時間の10分前から面会待合室に入れるが、その前は赤プリの敷地内に滞在することが禁止される、(3)面会場所は面会コーナーに限定する(すなわち、たとえ近親者であっても居室には入れない。)、(4)面会コーナーでは、面会申請の際に申し出た面会の相手方以外の避難者に声をかけることを禁止する(すなわち、面会相手とは別の知人を見かけたとしても、声をかけることすら許されない。)、(5)避難者の依頼を受けて訪れた知人・ボランティア等が、支援物資を届けること、避難者にお知らせしたい事柄を面会相手の知人にも伝わるよう印刷物を何部か渡すこと、一時的に子どもの面倒を見てほしいと頼まれて預かること等は、「ボランティア行為」として東京都が許可したもの(個人の申請の場合、東京都の許可はほとんど出ないのが実情です。)のみを認め、それ以外を一律に禁止しています。
しかも、この窮屈な面会ルールは、避難者の意向を聞くことなく、東京都が一方的に定めました。
3 「大規模災害における応急救助の指針について」(平成9年6月30日社援保第122号厚生省社会・援護局保護課長通知課長通知)の平成14年改正版の121ページには、避難所の運営について「(12)住民による自主的運営」という項目が掲げられ、「避難所を設置した場合には、被災前の地域社会の組織やボランティアの協力を得て、自治組織を育成するなどにより避難者による自主的な運営が行われるよう努めること。また、被災者による自発的な避難所での生活のルールづくりを支援すること。」と定められています。
上記面会ルールは、避難者をかんじがらめに管理しようとするものであって、避難者の自発的な合意に基づいて定められたものでありません(もとより、赤プリでは、東京都が避難者の自治組織を育成しようとしなかった結果、避難者の自治組織はありません)。避難者の自主性は無視されています。
したがって、東京都の面会ルールは、上記厚生省課長通知に定める「住民の自主的運営」に反するもので、そもそもルールの制定過程に問題があります。
4 さらに、面会ルールの内容をみても、10分前ルールは、いわき市などの遠方から来た面会者がたまたま早く赤プリに到着しても、敷地内に入ることすら許されないという不便なもので、さらに知人を見かけても声をかけられないというのですから、被災者の現実を無視したルールとしか言いようがありません。
面会者が避難者に対して「物資やチラシの頒布、子供の預かり等」の援助をすることを「ボランティア行為」として禁止しており、避難者が生活の不自由を改善しようとして面会者に面会を要請しても、結局、お話をするだけで、物資の受渡しをはじめとする具体的な支援をすることは禁止されるという不合理極まりない状況になっています。
しかも、このルールに違反すると「立入り禁止措置等を行うこともあります。」とされています。東京都は、制裁をもって、被災者の要請に基づく支援を阻止しようとしていると言っても過言ではありません。
5 また、面会者が近親者であっても、避難者の居室に入ることを禁止しています。これは、避難者が家族間・親しい者同士で水入らずの時を過ごすというささやかな楽しみをも阻むものです。また、6月30日の閉鎖を控えて、引っ越しに人手が必要な現状を考えると、避難者に加重な負担を強いるものといえます。
6 この問題を来日中の国連人権高等弁務官事務所の担当官とのミーティング(24日、衆議院第1議員会館)で取り上げたところ、国連側からは、東京都は「自然災害による被災者の保護に関するIASC運用ガイドライン」などの国際基準を知らないのではないか、との指摘がありました。
IASCの上記ガイドラインでは、人道物資及びサービスについて、「全ての被災者は、自らの基本的なニーズに応える物資やサービスを、安全に、また制限や差別なしに利用できるべきです。」(B1.1)とされています。上記ガイドラインの趣旨は、被災者のニーズが第一ということであり、そのために避難者を受け入れる側はニーズ調査を用意することなどが求められています。
東京都は、赤プリの避難者に対する十分なニーズ調査を行っていません。このため、5月には離乳食が不足してボランティアの支援によって供給されるなどの事態も起きました。東京都は、被災者のニーズを十分に汲み取っていないと言わざるをえません。面会ルールは、このような状況の中で、避難者の意向を無視し、避難者からの要請に基づく個別的な支援を阻害しようとするものであり、IASCの上記ガイドラインに反することは明らかです。
このように、赤プリにおける東京都の対応は、避難者の保護に対する国際的な基準をも充たさないものとなっています。
7 以上のとおりですから、東京都は、要請の趣旨に従い、避難者の自主性を無視した不合理な面会ルールを撤回し、避難者のニーズに基づいた保護に当たるよう適切に対処してください。
以上