日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

<音楽夜話> 禁断のブートレッグ~幻の「ゲット・バック」

2008-04-20 | 洋楽
昨日取り上げたザ・ビートルズのアルバム「レット・イット・ビー」の続き的に…。

村田クンにブートレッグ(海賊盤LP、以下ブート)の存在を教えてもらった私は、さっそく彼から「ゲット・バック」に一番近い音源集と言われたブートアルバム「KUM BACK!」を譲り受けたのでした。真っ白なジャケットに色紙上に赤の単色印刷でビートルズ4人の写真と、タイトル、収録曲が書かれた実に殺風景なアルバム。しかもレーベル印刷なし。いかにも怪しい“いけないモノ”の匂いを漂わせる風情のものでした。

針を落とすと、確かに正規盤とは全く違う雰囲気の録音の数々にまず聞きいってしまいました。曲間の4人の会話や、オーバーダブ・アレンジを施されていない生のままのビートルズの演奏、さらには未収録曲。まるでスタジオに出入りを許された者のみが知りえる特別な情報を手に入れたかのような、何か音楽ファンとしての優越感にも似た不思議な感覚を覚えたのを記憶しています。

実はこのときのアルバム「KUM BACK!」は、確かに当時としてはかなり幻のアルバム「ゲット・バック」に近い構成ではあったのですが、CD時代に移行して流出情報や音源も豊富になり、現在ではこれとは比べ物にならないくらい、音質、構成、音源がオリジナル「ゲット・バック」そのものを再現しているブートが出回るようになったのです。

写真のCDがまさにそれ。ジャケット写真、デザインまで、オリジナルで予定されていたものを再現していて、ちょっとした驚きものです。ちなみに、この写真、アルバム「ゲット・バック」用のフォト・セッションとして、EMI本社で撮影されたもので、彼らのデビューアルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」と同じ構図の写真で再撮影することで、7年の月日の移ろいを表現しようとしたものです。アルバムのお蔵入りに伴って、この時の写真は73年リリースのビートルズのベスト盤“赤盤”“青盤”にデビュー時の写真と共に使用され、無事陽の目を見ることができました。73年当時私は、解散後3年以上もして出たベスト盤用に、何でこんな写真が用意されていたのか不思議で仕方無かったものです。

「ゲット・バック」の収録曲
A1 ワン・アフター909
A2 ドント・レット・ミー・ダウン
A3 ディグ・ア・ポニー
A4 アイヴ・ガッタ・フィーリング
A5 ゲット・バック
B1 フォー・ユー・ブルー
B2 ティディ・ボーイ
B3 トゥ・オブ・アス
B4 ディグ・イット
B5 レット・イット・ビー
B6 ロング・アンド・ワインディングロード

どの曲もオーバー・ダブは一切なし。70年のアルバム「レット・イット・ビー」と同じテイクは唯一A1のみ。A2の前には「ラストダンスは私に」なんかが即興で演奏されています。余談ですが、「ラストダンスは私に」は「ヘイ・ジュード」と全くコード進行が同じです。昔、キングトーンズと上田正樹がライブで共演して、同時にこの2曲を歌い始めて、同時に歌詞部分が終わり、最後「ヘイ・ジュード」の「ラ、ラ、ラ…」コーラスを一緒に歌うという「ラストダンスはヘイジュード」という出し物をやっていました。

A3は「♪オール・アイ・ウォント・イズ…」で始まるオリジナル・バージョン。B2は「レット・イット・ビー」未収録曲で、その後ポールのソロ第1作「マッカートニー」に収録されました。B4はロング・バージョンです。B6は「アンソロジー」や「レット・イット・ビー・ネイキッド」がリリースされている今でこそ珍しくありませんが、アルバム「レット・イット・ビー」収録のフィル・スペクター版オーケストラ・アレンジにポールが激怒し、ビートルズ解散の一因になったと言われ、70年代当時はマニア垂涎のファンなら一度は聞いてみたい“ノン・オーケストラ・バージョン”だったのです。

と、ここまで読んで「なーんだ、『ゲット・バック』って『レット・イット・ビー・ネイキッド』と同じでしょ?」とお思いのあなたに、一言。全くの別物です。03年リリースの「ネイキッド」は、アルバム「レット・イット・ビー」をプロデューサーのジョージ・マーチン・チームが全面的にプロデュースしていたらという前提で、フィル・スペクターの厚化粧を取り除いたのであり、オーバー・ダブありの決して“ネイキッド(裸)”なものではありません。その意味では、「ゲット・バック」こそが真の“ネイキッド”なアルバムであるのです。

ブートの魅力は、一般には手に入らない音源を聞くことができるという一種の「優越感」にあると言いました。自分で言うのもなんですが、音楽ファンもこの領域まで行ってしまうと、ホント病気ですね。音楽界一のこの手の“病人”誰かと言いますと…。レッド・ツェッペリンのギタリスト、ジミー・ペイジその人です。ツェッペリンのライブを中心とした世界中のブート音源を集めて持つ、世界一のツェッペリン・ブート・コレクターだとか。いまだに、旅先のブート・ショップめぐりをしては、音源あさりを続けているそうです。1月のプロモ来日の際も、西新宿の“怪しいレコード街”を俳諧したのでしょうか。


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3 コメント

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僭越ながら。 (8937)
2015-12-28 00:37:16
90年代以降、昔、定説だったものを覆すような事実が判明しています。

『タイトルとジャケット」
確かに予定稿のさらに予定稿のようなものは存在しますが、「GET BACK」のあとに続く、「with Don't Let Me Down and 9 other songs」については、どの時点のものかわかりません。GET BACKからLET IT BEへタイトル変更前の予定稿の場合は、「with Let It Be and 11 other songs」になっており、さらに手書きで、GET BACKをLET IT BEに訂正、さらにあとの部分は、「and 10 other songs」になっています。

ただこれも1969年時点での話で、その後、1970年になって、フィル・スペクターに預ける直前の段階では、ミックス、収録曲が変わっています。

今、触れましたが、こちらで紹介されているGET BACKは、没の前の没作品で、1969年Mixの所謂、1st Mixだと思われます。

その後、これは没になり、映画でAcross The UniverseとI Me Mineが分かったので、Teddy Boyを外し、Across The UniverseとI Me Mineを収録した1970年の2nd Mixが作られ、これが発売中止になったLET IT BEの最終Mixになります。

ですから、厳密には最終段階で発売中止になったアルバムタイトルはLET IT BE and 11 other songsであり、GET BACK with Don't Let Me Down and 9 other songsではありません。もちろん、その前に発売延期になった時点でのMixは1st Mixなので、これも発売中止になったということも言えますが。

要するに発売中止になったGET BACKセッションのアルバムは2種類あるということです。

『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』

 フィル・スペクター版LET IT BE発売前に、ポールが指摘したのは、ストリングスと女声コーラスのボリュームをもっと下げてくれということで、激怒と表現は適当ではありません。
 その後、訴訟の段階になって、「激怒」という表現が適当な振る舞いをするように変化しますが、発売前の時点では、激怒とはほど遠いし、なにより重要なのは、ポールはむき出しのままを求めたのではなく、単にボリュームをもっと下げてくれと言ったに過ぎません。
 訴訟用に態度を変化させたように見えます。他のビートルズ関連訴訟でもありますが、ポールはそういう部分は二枚舌な部分があると思います。

 Nakedの評価は色々あると思いますが、1st Mix、2nd Mixはポールを含めて、全員、許可しなかった作品であるのに対して、Nakedは、特にポールは望んで作らせた感があります。
 原典に対する改竄に過敏に反応するファンも少なからずいますが、3人とヨーコ、そして現在は2人とヨーコ&オリヴィアは、リミックスに対して肯定的です。
 ヘッドフォンで聴くことが主流である層が相当数存在する現代では、昔のミックスでは非常に違和感の感じる作品もあり、シャッフルで他の現代の音楽と一緒に聴いている場合、音圧が低いビートルズの音源は、音として迫力を感じないのも事実としてあります。

 そう言った環境変化の中で、オリジナルはオリジナルで遺しつつ、積極的なリミックスで現代の音楽環境にあった作品を作って若い層にアピールすることも、逆にビートルズの歴史・伝統・文化に寄与するという考え方もあると思います。

 LET IT BE... NAKEDは確かに編集だらけのアルバムではありますが、素のままの音というコンセプトはGET BACKセッションが始まって、早々に破棄されているのも事実なので、単にオーバーダブをしただけと、DAWを使った徹底的な編集をしたことの差は、時代の差でしかないと思いますよ。
もし、1969年に現在のレコーディング編集技術があったら、ビートルズも同じ選択をしてた可能性も高いのではないでしょうか。
 LET IT BE... NAKEDは、少なくともLET IT BEよりも映画の雰囲気に近いと思います。このアルバムはサウンドトラックであることが前提なのですから、LET IT BE... NAKEDもアリだと思うのですが。

 そういう意味では、1st Mixや2nd Mixの方が映画に近いのも確かですが、その2つは出したくなかったわけですから、21世紀の技術でやっと日の目を見たという解釈でもいいのではないかと思います。
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Unknown (通りすがり2)
2016-01-06 14:36:54
>>どの曲もオーバー・ダブは一切なし。

誤りです。
1969 Mixでも1970 Mixでも、
LET IT BEにはオーバーダブが加えられています。
1969/4/30にリードギターをオーバーダブしています。

詳細は、
1969 Mix
Side A
1 One After 909 1969/1/30録音
2 Rocker 1969/1/22録音
3 Save The Last Dance For Me 1969/1/22録音
4 Don't Let Me Down 1969/1/22録音
5 Dig A Pony 1969/1/24録音
6 I've Got A Feeling 1969/1/24録音
7 Get Back 1969/1/28録音 *single version
Side B
1 For You Blue 1969/1/25録音
2 Teddy Boy 1969/1/24録音
3 Two Of Us 1969/1/24録音
4 Maggie Mae 1969/1/24録音
5 Dig It 1969/1/26録音
6 Let It Be 1969/1/31録音+1969/4/30録音
7 The Long And Winding Road 1969/1/31録音
8 Get Back (Reprise) 1969/1/28録音

1970 Mix
Side A
1 One After 909 1969/1/30録音
2 Rocker 1969/1/22録音
3 Save The Last Dance For Me 1969/1/22録音
4 Don't Let Me Down 1969/1/22録音
5 Dig A Pony 1969/1/24録音
6 I've Got A Feeling 1969/1/24録音
7 Get Back 1969/1/28録音 *single version
8 Let It Be 1969/1/31録音+1969/4/30録音
Side B
1 For You Blue 1969/1/25録音
2 Two Of Us 1969/1/24録音
3 Maggie Mae 1969/1/24録音
4 Dig It 1969/1/26録音
5 The Long And Winding Road 1969/1/31録音
6 I Me Mine 1970/1/3録音
7 Across The Universe 1968/2/4-1968/2/8録音
8 Get Back (Reprise) 1969/1/28録音



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ありがとうございます (OZ)
2016-01-12 12:19:39
8937さん、通りすがり2さん
ご指摘ならびに、興味深いお話をありがとうございます。ビートルズ関連は、情報大量にありますし調べれば調べるほどいろいろなことが分かって本当に興味が尽きないですですね。
またお気づきの点あればぜひ、教えてください。
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