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デザイン思考のリスキリングのためにファシリテーターが意識している3つのポイント
2022年の新語・流行語大賞にもノミネートされたリスキリング(Reskilling)というワード、まだあまり馴染みのない方もいるのではないだろうか?
リスキリングとは、「技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、新しい知識やスキルを学ぶこと」を指す。日本国内でも、企業が従業員に対して職業能力の再開発を行うため、導入を開始または検討し始めている。
btraxでは、「リスキリング」という言葉が流行する以前から、企業向けに技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために効果的なデザイン思考のワークショップを提供してきた。
今回はその一例として、今年1月からサンフランシスコにて実施した滞在型の研修プログラムを題材に、ワークショップ運営側のファシリテーターが意識していることを紹介したい。
デザイン思考とスタートアップカルチャーにどっぷり浸かる10週間
今回行われた研修は、大手日本企業にて入社から数年経った30代前後の中堅社員の方を対象として、「スタートアップの聖地」とも呼ばれるサンフランシスコで、「デザイン思考」やスタートアップカルチャー、UXデザインの特徴を、講義と実践を通じて学ぶ約10週間のワークショップだ。
プログラムの主たる目的は、この研修を通して「参加者一人一人が新しいマインドセットを自分のものにすること」。
そのために、レクチャーを通して考え方を理解していただくだけではなく、実際に手を動かして学んだ考え方を実践し、振り返りを言語化・可視化することで学びを深めるというサイクルを繰り返す。
本研修は、参加者全員にサンフランシスコでスタートアップを起業するつもりで、それぞれの関心をベースに少人数でチームを組んでもらい、それぞれ社名を決めるところからスタート。
現地に住む人々が抱えている問題や隠れたニーズをリサーチし、サービス・プロダクトのコンセプトを練り、実際に住民の方々へインタビューなどをしながら仮説を検証。プロトタイプの作成からサービスアイディアのピッチまでを実践していただく。
デザイン思考のリスキリングのために、ファシリテーターが意識している3つのこと
上記の研修内容を踏まえ、前述のゴール達成のために、今回の研修全体を通してファシリテーターが意識していたことの中から主要な3つのポイントをご紹介したい。
1. 「失敗しても大丈夫!」思い切って挑戦し、トライアンドエラーを繰り返すことを奨励する
日本では文化的に「失敗はしない方がベター」という考え方が根強いため、突飛なアイディアを口にしたり、成功するかもわからないプランを共有することに最初は抵抗がある参加者も多い。
真摯な方ほどこのような傾向が強いのだが、デザイン思考ではトライアンドエラーを繰り返しながらコンセプトを練り上げていくため、最初から正解に一発で辿り着くということはほぼない。
むしろトライした数だけ失敗も増え、そこから学びやデータが得られるため、特にアメリカのスタートアップ業界では「失敗しても、成功するまで止めなければそれは失敗とは呼ばない」という考え方が主流である。今回のような研修において、ベースとなるこのマインドセットへのシフトが最初の超えなければならないハードルとなる。
これは英語での会話についても言えることだ。今回の研修では、リサーチの段階で現地のアメリカ在住の人々へインタビューを実施するフェーズがあり、参加者は英語で全てのコミュニケーションを行う必要がある。
参加者のほとんどは英語圏の国に住んだ経験がないため、「うまく話せないかもしれない」という不安から、最初は英語で話すことに抵抗を感じている人も多かった。
これに対してファシリテーター側からは、「失敗をしても大丈夫」「間違うことや想定通りに進まないことは避けられないものである」ことを定期的にリマインドし、その過程を楽しんでほしい旨を積極的にお伝えするようにしている。
失敗に対する恐怖心を取り除くことで、限られた時間内で試行錯誤を繰り返し、最初に出たアイディアやプロトタイプを踏み台にしながら、さらに良いものを生み出すというサイクルへ進んでいけるようになるためだ。
また小さな成功を喜ぶことや、異なる意見・視点を持っていることを肯定し合う時間を持つことも重要である。そのため研修中は、毎日1日のはじめと終わりにチェックインの時間を設け、参加者一人一人の感じていることや気づきなどを共有する時間を取るようにしている。
感じたことや学びに正解や不正解はないという前提を確認し合い、それぞれの発見をチームで共有し認め合う時間を毎日意識的に取ることで、それぞれが自分の考えを素直に発信できるような雰囲気作りを心がけている。
最初は、なかなか終わりの見えない議論や英語でのコミュニケーションに戸惑う場面もあった。しかし、場数を踏んでいくうちに、それぞれの参加者の顔に自信が浮かび、活発な議論や英語の会話が広がっていったところが印象深かった。
自転車の乗り方を覚えるように、最初は転んだり、恥ずかしい思いをしたりするため、社会人になって数年経ったタイミングで新しいマインドセットやメソッドを実践するには勇気がいる。しかし、思い切って新たな環境へ飛び込み、短期間でみるみる変化していく参加者の姿には運営側である私たちがハッとさせられる場面、学びをいただく機会も多い。
2. 「正解は一つではない!」答えを与える代わりに問いを投げかける
今回のようなワークショップで運営側として非常に難しい、しかし重要だと思っていることが「正解をこちらから投げかけない」ことだ。
デザイン思考のプロセスにおいては、問題設定の段階から自由度が高く、実際に先へ進んでみるまで何が正解なのか誰にもわからない類の問いに立ち向かっていくことになる。
正解は1つではないし、ファシリテーターがすでに正解を知っているわけでもない。文字通りファシリテーターと参加者の二人三脚で一緒に進んでいくのだ。
しかし、研修をリードさせていただく立場である以上、チームが迷子状態に陥ってしまった時にはサポートをする必要があるし、「こういうときはどうしたらいいんですか?」という質問も頻繁にいただく。
私たちとしては、ファシリテーターの発言が彼らにとっての正解となってしまったり、それに引っ張られてしまうことは避けたい。
そのため、こちらから声をかけたり質問へ応答する際には、具体的な答えや解決法を示す代わりに、「この時ユーザーはどんなことを感じていたと思いますか?」「一度、現在出てきたアイディアをホワイトボードに書き出してみるのはどうですか?」など、問いやアウトプットの機会を提起するようにしている。
これと並行して意識していることが、できる限り参加者のアイディアや意思を尊重し、自分たちのサービスやプロダクトを自分事として責任感を持ってもらえるようにサポートすることだ。
極端な例を出すと、今回の研修では参加者が合計8名だったのだが、チーム決めの段階で関心ごとに分かれてみたところ人数比が3人と5人になった。全体での議論の結果、無理に半々に分けるよりも、それぞれの関心を優先し、そのままの組み分けで進もうという結論に至った。
参加者からは「数合わせのために誰かが移動になるのではないかと思っていた」との声もあったが、運営側としては10週間かけて取り組むコンセプトに納得感と責任感を思って取組んでほしいという思いから少しイレギュラーなチーム編成を採用した。
その結果、それぞれのチームの個性が際立ち、小さいチームだからこそ意思決定が速かったり、大きいチームだからこそ助け合える幅が広かったりと、「彼らなりのチームのあり方の正解」を模索してもらえたように思う。
さまざまな正解の形があると認めることは、何通りもある正解の中から自分たちなりの正解を見つける決心をすることであり、自由と責任が伴う。それだけ多くの議論や、考えを裏付けるためのリサーチ、検証が必要となり、手間や思考の負荷は増えるものだ。
しかし、このようなプロセスを通して、既存の考え方や慣習にとらわれない、ユーザーに寄り添ったオリジナリティのあるサービス・プロダクトの設計に繋がると私たちは考えている。
3. 「クリエイティブは一夜にしてならず」適度な気分転換・視点の切り替えをおすすめする
前述の通り、正解が決まっていないデザイン思考のプロセスにおいては、チーム内でのディスカッションに非常に多くの時間を費やすことになる。
アイディア出しから、意見のすり合わせ、フィードバックの交換など、お互いの意見を尊重し合いながらもアイディアをブラッシュアップしていく過程は、インタラクティブで楽しそうに聞こえるかもしれない。
しかし、実際にやってみるとかなりの思考力と忍耐を使う。長時間議論が続くと、チーム全員が頭を抱えて悶々としてしまうような場面もしばしば。
課題の締め切り時間や、1日の終わりが近づくにつれて、どんどん空気が重くなり、一生懸命取り組んでいるからこそ、焦りや苛立ちの表情が見えてくるメンバーが現れる。
そんなタイミングに運営側から積極的に働きかけることは、「無理に進めようとしない」ことである。
クリエイティブな発想やひらめきは、ぐるぐるとひたすら考え続ければ降りてくるものではない。むしろ議論が煮詰まって、脳が疲れてくると、私たちは短絡的で安易な解決策に走りがちになってしまう。
それではこれまでの議論や努力が無駄になってしまうため、メンバーの顔が曇ってきたり、議論が行き止まった際には、ファシリテーターが介入し、場所を変えてみたり、休憩を入れてコーヒーを飲んだり、思い切って散歩に出てみたりすることをおすすめする。
研修が進むにつれて、参加者の間でも気分転換の取り入れ方が自然と身についていき、「議論が煮詰まったタイミングで、オフィスの外の公園に場を移して話をしてみたら、これまで考えつかなかった良いアイディアが出てきました!」といった声も聞こえるようになった。
遠回りに感じられるかもしれないが、焦りが出てきた時こそリラックスして、自分たちなりの解を見つけるまでのプロセスを楽しむことで、新たな視点で問題を捉え直せたり、よりよいアイディアが閃いたりするので、「休憩」の効果を侮ってはいけない。
まとめ
今回のワークショップは、日頃大企業で活躍されている参加者の方々に、実践を通してデザイン思考の考え方を体感していただき、それを言語化できるところまで腹落ちさせ、次のアクションへ繋げていただくことを主眼においている。
これまでの会社での定石からかけ離れたやり方で課題に取り組んでいただくため、特に最初の方は新しい考え方や方法に戸惑う様子の参加者も少なくない。
研修の振り返りのタイミングでは、参加者に下記のような感情曲線を描いてもらい、実践のプロセスで感じたことや学んだことをリフレクションしていただくのだが、参加者の誰もがどこかしらで小さな挫折や戸惑いを経験する。
しかし全てをやり切った時、達成感と共にデザイン思考への理解も深まり、グラフが上向くケースがほとんどだ。
ちなみにこの感情曲線は、感情の上がり下がりを可視化することで、自分の性質や癖、得意・不得意などの理解を深め、次に曲線が下がるような状況になった場合の打開策や対応策を練っていただく機会として実施している。
運営側としても、決まった正解がない中で、アイディアの芽を潰さずに方向性を示していく難しさを感じることも多い。
しかし、参加者の皆さんの中でブレイクスルーがあったり、自分たちなりのアイディアが固まった時の自信に満ちた表情が垣間見える時が、とても喜ばしい瞬間である。
今回は、そんな研修の運営においてファシリテーターが意識している3つのポイントについてご紹介した。btraxでは今回の研修のように、デザイン思考のマインドセットやメソッドをワークショップを通して学べる機会をご提供している。
ご興味のある方は、ぜひ弊社コーポレートサイトよりお問い合わせください。
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