妊娠前に受けておきたい検診(プレコンセプションケア)

公開日:2016/03/30

最終更新日:2024/07/30

平池 修 先生

この記事を監修したドクター

東京大学医学部附属病院女性診療科・産科 准教授平池 修 先生

共著:熊澤 惠一 先生

初交の年齢は10代でも子供を産むのは30代が多くなっています

現代女性は、「結婚する前の女性はセックスしてはいけない」と教育された時代と異なり、好きな人ができたら、あるいは誘われたら、性交する人が多くなっています。そのため、はじめてセックスする年齢は10代でも、子どもを産むのは結婚してから、あるいはパートナーが出産に同意してからの30代が多くなっています。
先進国ではどこも初交=初めてセックスする年齢は低くなっており、結婚前に何人かのパートナーが交代するのはふつうですが、子どもを産む「産みどき」は、婚姻とあまり関係なく、本人が望んだときです。相手の経済力や結婚の法的保護に頼らなくてもよい保育支援制度が充実しているからでしょう。

         

セックスによる女性の健康上のリスクとは?

セックスは、二つの健康上のリスクを女性にもたらします。
ひとつは、(望んでいない状態での)妊娠。望まない妊娠をすると、女性は妊娠を中絶するのか継続するのかの選択を迫られます。
中絶する場合、精神的にも、肉体的にも、社会的にも負担を強いられます。流産手術による痛みばかりでなく、中絶してしまった自分を責め、自己肯定感の低下につながりますし、相手との関係によって、仕事をやめたり交友関係を変えていかねばならないこともあるでしょう。もちろん、経済的にも大きな負担があります。

妊娠を継続する場合には、もっと大きな負担となります。
まず、自分のこれからの人生の軌道修正をしなくてはなりません。育児のパートナーや経済的基盤は得られるのか? 自分の仕事は続けられるのか? 出産費用や育児費用はどうするのか?を一つ一つ確認し、妊娠、出産するための生活基盤を作ることが必要になります。

性感染症のリスクもあります

ふたつめの健康リスクは、性感染症(STD)のリスクです。
性交するとは、相手と菌やウィルスの共有をすることでもあります。
私たちは、生活のなかでいろいろな菌やウィルスと一緒に生活していますが、特に性的接触によって感染する病原体という病気のもとがいくつかあります。
HIV(エイズのウィルス)もそうです。ほかにも、クラミジア、淋菌やトリコモナス、カンジダ、梅毒、ヘルペスなどです。
これらに感染すると、症状が起こるものもありますが、多くは症状がないまま静かに体内で増えたり広がったりし、炎症や痛みを起こします。また、不妊や緊急手術、現在は極めて少なくなりましたが、死につながることさえあります。
また、女性の場合、将来のパートナーに感染させるばかりでなく、出産によって赤ちゃんに感染させてしまうことになります。

HPV(ヒトパピローマウイルス)というウイルスは、子宮頸がんにもとになったり、パートナーの陰茎がん、赤ちゃんののどのイボ(呼吸器乳頭腫症)の原因にもなります。

避妊と性感染症、子宮頸がん予防が必要です

以上より、性交が始まった女性たちに伝えたいのは、出産するときまでは、きちんと避妊すること、そして、性感染症の予防を意識し、パートナーが変わるごとに“性感染症検査”をすることです。
そして、子宮頸がんの予防接種(ハイリスク型HPVに対する免疫を作るワクチン)や、“子宮がん検診”も受けましょう。

赤ちゃんの心拍が確認できたら母子健康手帳を

妊娠5週後半から7週までには、赤ちゃんの心臓が動いていること(心拍)が確認できるようになります。
赤ちゃんの心拍が確認できた場合には、最終月経(一番最後に起こった月経)の開始日から分娩予定日を決定します。月経の周期は、妊娠の診断や分娩予定日を決めるときの大切な情報となりますので、普段から手帳などに記録しておきましょう。
この心拍確認後は、医師から母子健康手帳をもらってくるように指示があることでしょう。妊娠で医師にかかるときは、病気ではないので保険が使えず自費となりますが、これ以降の健診費は自治体からの補助が受けられるようになります。

妊娠前にすべき検査とは?

妊娠前に、出産に耐えられる肉体なのか、妊娠時にトラブルを起こす隠れた病気がないかをチェックしましょう。
これは、性交していない女性にも将来のために大切です。
まずは、“心臓や腎臓の機能を検査”で確認しましょう。妊娠・出産は、心臓や腎臓にかなり大きな負担がかかります。ですから、心疾患や腎疾患は、将来の妊娠のためにもチェックしておくべきことです。学校検診や入社時の健康診断でもやっています。

それから、女性に多く、かつ妊娠によって悪化しやすい病気、流産にもなる病気のチェックをしましょう。
“甲状腺疾患(バセドウ病や橋本病)”、“リウマチ膠原病の素因(全身性エリテマトーデス(SLE)関節リウマチシェーグレン症候群など)”についての血液検査をします。異常を早く発見し治療することで、不妊、流産、胎児死亡の予防にもなります。

あとは、子宮と卵巣、乳房を、“超音波検査”でチェックしておきましょう。
子宮筋腫、卵巣のう腫、乳がんなど、妊娠のさまたげになったり、妊娠中や産後のトラブルになる病気はないか、20代なかばごろまでには検査しておきましょう。
もしも異常が見つかったら、早く治療し、早めに妊娠計画をたてます。それは、自分でできるライフプランです。より安心した状態で妊娠できるようにしておきましょう。

まとめ:プレコンセプションケア(妊娠前に受けておきたい検査や健康習慣)とは

1.避妊や妊娠に関する知識と、これらについて相談する相手を得ておくこと。
2.子宮頸がん検診、子宮と卵巣の超音波検査、性感染症検査
  (性交経験がないときには、超音波検査のみ)
3.乳房超音波検査
4.貧血、肝機能、腎機能、脂質異常や糖尿病の検査、心電図、胸部写真
  (自治体や職域検診で2年に一度はやっています)
5.甲状腺機能、抗核抗体など自己免疫疾患の検査

いずれにしても、「将来妊娠、出産できる」ことを意識し、確認する健康習慣を身につけておきましょう。

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