「ひとつだけ後悔があるの」 ある日、時子さんが言った。 「私の人生を、書き留めておけばよかった……」 思いがけない言葉だった。 沖縄戦を経験し、戦後アメリカに移住した時子さんは、戦争の経験を人に語ることはなかった。息子さんにさえ、つらい過去を明かすことはなかったのだ。だからこそ、私は驚いた。自分のストーリーを書き留めておきたい……? 時子さんに出合ったのは、2009年の夏。シンシナティ市内の老人ホームでホスピスケアを受けていた彼女は79歳。心臓病を患っていた。会話をすることも食べることにも興味を失い、うつ病と診断されていた。彼女のうつ病を和らげるため音楽療法を委託された私は、月に数回彼女のもとに通った。 私が「浜辺の歌」などを唄う間、彼女は終始おだやかな表情をしていた。しかし、その顔の裏には、つらい過去が隠されていたのだ。 「私の人生は複雑だった。私だけ……私だけ生き残ったの……」 そう言