特に名著というわけでもない明治大正時代の雑本を読んでいると、昔もやっぱり人が生きていたのかと、強く感じることがままある。 明治二〇年代、北海道札幌の中央寺門前に、蛍雪庵という学生寮が建てられた。 学生寮は珍しくないが、その目的が少々変っている。 当時中央寺の住職だった小松万宗老師は、気概に富み学識も凡ならぬ男であったそうだ。そして明治時代の北海道大学には、クラーク博士の影響でキリスト教の洗礼を受ける学生が多くいた。この辺りの事情については、詳しく書きはじめると長くなってしまうので今回は割愛しておくが、とにかく老師は北大の学生たちが次々と洗礼を受けるのを見て、禅宗としてもなにかをしなくてはと蛍雪庵を建てた。鍋釜はもちろん諸道具備え付けで寮費は格安、ただし土曜の夕方にお寺で開かれるお経の勉強会への参加は必須という条件であった。 当時の苦学生と呼ばれる人々でも、月八円の生活費が必要だった。ところ