宮城県石巻市を中心に夕刊紙を発行する石巻日(ひ)日(び)新聞社の編集局に入ると、真っ先に目に飛び込んでくるものがある。東日本大震災の直後に発行され、世界中で脚光を浴びた、あの手書きの壁新聞だ。 一部はワシントンにあるニュース専門の博物館に永久保存されるほど貴重なもののはずだが、額にも入れず、クリップで壁にはさんでいるだけ。この無造作さに、周囲には分からない思いが込められていた。 「休刊はしたくない。手書きでいこうや」 震災当日、津波で社屋が浸水し、輪転機が水没。近江弘一社長(53)は社員にそう声をかけ、残った新聞ロール紙に、懐中電灯で照らしながら自ら油性ペンで記事と見出しを書き込んだ。翌日、避難所などに張り出され、被災者を励ました。 米紙が報じたことで世界中に知れ渡り、国際新聞編集者協会の特別褒賞を受賞。国内でも菊池寛賞を受賞し、中村雅俊さん主演のテレビドラマが6日に放映される。 だが、近