伝説のトレーナー それからほどなく、ボビーから提案があった。「お前を伝説のボクシング・トレーナーのところに連れていってやる。彼の名前はカス・ダマト。そこで訓練すれば、お前は違った世界を見られるはずだ」 「どういうこと?」と訊いた。あのころはボビー・スチュワートだけが頼りだった。ほかの誰も信用できない。なのに、俺を投げ出すのか? 「いいから、とにかくその人を信じろ。カス・ダマトを」と、彼は言った。 そして1980年3月のある週末、ボビーと俺はニューヨークのキャッツキルへ車で向かった。カス・ダマトのジムは町の警察署の上にある集会所を改修したものだった。窓がなく、古めかしいランプが天井から吊り下がって光を灯していた。壁を見るとたくさんポスターが貼ってある。活躍している地元の少年を取り上げた記事の切り抜きだった。 カスの見かけは、冷徹非情なボクシング・トレーナーそのものだった。背は低く、頭は禿げて
