「フロイトは、非常に早くから、転移の中で生じる愛は真正のものかどうかという問題を提起しました。一般的には、それは端的に言うと一種の偽の愛、愛の影であると考えられています。」 (ジャック=ラカン「精神分析の四基本概念」162頁より) 「転移」とは一般的には精神分析の場において、両親などの過去の人物との間の感情を反復することなどと言われますが、より本質的なことを言えば「象徴的他者=〈他者〉」に対する「わたしを愛して」という「要求」に他なりません。 では〈他者〉とはなんでしょうか?〈他者〉とはその辺の「他人」とはまた違う、ある人にとって絶対的な象徴的秩序を体現する存在をいいます。 一般的に言えば、人生最初の〈他者〉は「〈母親〉=実母あるいは養育者」ということになるでしょう。ヒトの子どもは出生を経て現実界から象徴界に参入する代償として「享楽」を決定的に失うため、これを回復するための運動を試みます。